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日々是々

金神103話 感想 ゴールデンカムイ

ゴールデンカムイ ヤングジャンプ 尾形百之助 感想 ネタバレ

尾形www

いや笑える話じゃないんだけど!
期待以上で笑うしかないですわよ、尾形。
ここしばらく尾形が頼もしい先輩みたいな、真面目な軍人みたいなキャラだったので油断してたわ。

今回は黒い……真っ黒だ。
新年1回目から尾形主役だ。
金神の猫クラスタとしては、こういうハナシが読みたかったんだよ!

短髪時代の尾形。尾形って浅草生まれの茨城育ちなのか。でも訛がなくてむしろ江戸弁ぽいのは、幼少期も地元の人とあんまり交際しないで母親べったりだったんだろうな(母語、マザーズタンってよく言ったものだ)。
たぶんに“扱いにくい子供”だったろうしなー近所の人も相手したがらなさそうだ、百之助少年。
いいなー鮟鱇鍋。そうかー茨城だと安かったのかー。
花沢中将、眉と目がそっくりだわwww

て、前振りで草生やしたくなるくらいに、尾形の回想は苛烈だ。
今までも断片的に彼の為人が語られてきたけども。
彼の過去は期待以上に彼らしい。

花沢中将の死。
花沢の自死に関して尾形が介錯くらいはしたのかなーとか思ってたけど、なるほど親殺しこそ彼にふさわしい。

花沢中将、よく見るとこれ拘束衣だ。
花沢は寝間着だから、寝込みを襲撃したようだ。
おそらく外傷残らないように頸動脈圧迫するなりして気絶させて、拘束衣着せて脚を縛る(縄だと痕がつくしね)。
割腹自殺を装うんだから、トドメささない、格闘もなし。
返り血もほとんど浴びてない、服の血痕からして、正座に座らせて背後から抱きかかえる形で右腕を前に回して腹部をはだけて左腹を刺して右に引き切る、短刀の血糊からして傷は浅いし、死ぬまで結構時間かかったはず。 完全に息の根止まるまで待ってから偽装工作する。

……というアクションを一切なしで、あくまで事後の静かなシーンしか描いてないのが美しい。
なのに、小道具や細部を見ればなにがあったか――どうやったかがわかるのが流石だ……!
尾形は淡々と殺し屋の任務をこなしてる。現場が荒れてない。完璧にやり遂げてる。父親が出血多量で悶死するのを、冷静に会話しながら見守ってた。
フィルムノワールのワンシーンみたいな、あくまで静謐な凄惨美の一夜。

尾形は残忍とか凶暴てより「良心を持たない」タイプなんだよな。生来の冷血漢。
第100話で杉元は「心がずっと戦場にいる」といってるけど、しかし尾形はむしろ最初から「心がない」。
「何かが欠けた」って自分でも自覚してるんだ。父親の遺骸に背を向けたときもなんの感慨も沸いてこない自分にあきれてるようにも思える。
尾形自身は、あくまで「生まれ」のせいであって、生育環境のせいだとは見做してない。母親の病気はともかくとして、おそらく祖父母は孫を愛する一般的な人物で、百之助少年の幼少期が過度に悲惨だったわけではなかろうよ。少なくとも多くの凶悪犯のように虐待を受けて愛されることを知らずに育ったわけではない。
彼の口から愛とか神が吐かれる。どうせ花沢はまもなく死ぬんだし、ほぼ独り言のように長広舌振るうのも珍しい。ああここで扉の『ピクミン 愛の歌』とつながるのか……! (今回のテーマは「愛」なのね)

彼がホントに殺したかったのは自分自身なのかも知れない。しかし死にたいわけでもないので、身代わりに血縁者を殺し、最後に父親を殺すことで吹っ切れた。
母殺しは花沢がいうのが図星かも。(まあ殺人者の記録で最初に殺したのが母親というのは少なくない)
父親の腹を短刀で刺して殺すなんてメタファも露骨だけど*1、弟殺しのくだりはまるでカインとアベルみたいだ。父=神の祝福を与えられなかった兄は、神への復讐として弟殺しの大罪を犯す。それをわざわざ死にかけてる父に告げて追い打ちかけてる。
6巻での「親殺しってのは」というセリフを思い出す。母は仁愛、父は権威や忠義の象徴なわけで、それらをともに自分の手で断ち切って、ついでに同朋たる弟も殺して、彼は孤高を自ら選んだ。
父親の末期の台詞こそ、尾形が望んでた言葉じゃないのか? 作中通して彼自身は自分のことは語らないのに、往々にして他人の口から語られる。どれもロクな評価じゃないのだけど。そして父親にさえ「冷血で出来損ない」と言われる。そもそもこの台詞だって、尾形が(弟のことを話して)父に言わしめたんだし。こんなカタチであれ父の最期を看取ったことになる。父親という枠組みを完膚なきまでに叩き潰して、、彼は“巣立った”と。これでもし中将が、おまえを許す、とかなんとか綺麗事を言ったとしたら、彼はまだその枠組みに呪縛されたかもな。

花沢邸を去るくだりもただ彼が歩いてる絵だけ3コマもかけてる、って、この構成の美しさ。

て、鶴見、貴様が黒幕か!
尾形と鶴見の関係も、も、真っ黒でゾクゾクするわあ。
陰謀conspiracyの語源は「共に息をする」。互いの息の聞こえるくらいの距離で密談をするという、そのまんまの情景。
鶴見って陰謀の繰り主だ。従前うかがえた尾形と鶴見の確執にはこんな背景があったのだな。
そりゃあ鶴見はさっさと尾形を口封じにぶち殺したいだろうよ。
鶴見、その手はなによ? 膝をなでるなんてなんだかエロい身体的接触による懐柔策もいかにも鶴見らしい。
事を終えて戻ってきた尾形の態度が、彼らしいというか、むしろこの作者らしいというか。まったく感情の爆発や高揚もなく、重大な秘密を共有する陰謀仲間の鶴見にすら心を開かない。 同床異夢ってやつだ。

鶴見は現場に赴いてない。実行はすべて尾形一人のようだ。でも拘束衣とか用意して手筈整えたのは鶴見だろうし、そもそも花沢中将の暗殺はどっちが言い出したんだ?
鶴見は、尾形が父親に確執があるのを見抜いてて共謀した。母のことはともかくとして花沢少尉の件は知ってるかもな。
花沢中将の死は鶴見にはどんな利点が? 第7師団を中央と対立させてまとめるため? 大勢の部下を戦死させたことによる恨みもあるのか?

尾形を冷血と評し、鶴見を「たらし」と評する、この言い回しについ苦笑。 やっぱそうだよねー。前々からそういってるじゃんー鶴見は人誑しだって。
、「言で狂わす」と書いて「たらし」と読む。
鶴見は美辞麗句を囁いて相手の心を捉えようとする。今回も苛酷な任務から帰還した部下を華麗な言葉でねぎらうことで誑しこめると思ったろうが、彼の冷血さを見誤ってたようだ。
尾形はそもそもそういう言葉に感応する心がないから、言葉の魔力が効かないのだ。実の父には蔑みの言葉を言わしめて、上官の大仰な空言は「たらし」と跳ね返す。
尾形のような完璧な殺し屋、ほかの部下ではなかなか代替効かないよねえ。月島はマジメだし、鯉登はまだまだ若いわ……なにより鶴見への恋情が邪魔をする(笑)

花沢中将のモデルと思わしき人物は、実際の歴史では、第3軍司令官乃木希典と第7師団長大迫尚敏で、どっちも旅順攻囲戦で息子亡くしてる(乃木は他の息子も戦死して家が絶えた。大迫は三男亡くした)。*2
乃木は長州出身だけど、大迫は薩摩だから、花沢幸次郎は大迫成分多め。
旅順攻囲戦そのものは成功裏に終わったし、その後の日露戦争の帰趨を決定づけたのも確かで、特に乃木は凱旋将軍で軍神とまで奉られてたりするくらいだ。大迫も平穏無事に退役して昭和になって交通事故死してる。
乃木は明治天皇薨去に際して割腹して殉死したけど、一因には指揮下の膨大な戦死者、特に息子達も失ったことの悔いもあるとされる。
作中で花沢中将が責めを負って自死したのは乃木をなぞってるのかと思ってたけど、実は鶴見の謀殺だった。
それも実の息子の尾形による弑逆。しかも異母弟にあたる花沢の嫡子まで尾形が手に掛けてるとは。
いいぞーこういう陰謀論。もう真っ黒だ。

そしてやっぱり、やることなすこといちいちカワイイ鯉登。
叱られて畳掻きむしるとか、こいつも猫かっ。たまにいるよなー馴れ馴れしすぎる子猫。
16ページ2コマ目の彼、鶴見見つめてとろーんとか、なんて顔してるんだっ

尾形や鶴見みたいな、闇の濃い人物に比べると、鯉登や月島はまっすぐすぎて可愛いわ。

尾形を、カッコイイというのとはちょっと違う気もする。リアルに周囲にいたとしたらけして付き合いたいとは思わないし、イヤな人物であるのは確か。
しかし、そのイヤなところ、冷血さ、凄烈さ、孤高、総じていうと、非人間性に強く惹かれてしまう。
尾形自身であることには憧れるのだ。
いや、不健全だっつーのはわかってるけど。

*1:自分の身体の延長である刃物を相手の腹に突き立てることの性行為との類似は、グロスマンも指摘してるし?

*2:乃木と大迫は、息子が戦死したり大将にまで出世したり退役後は学習院の院長やったりってプロフィールが似てて、大迫さんは「薩摩の乃木将軍」とまで言われてる。