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日々是々

金神137「呼応」 ゴールデンカムイ

金神14巻の感想 ゴールデンカムイ - day * day

Lynx Ex Machina!

親子の思い出から。*1
ウイルクが収監されたのって5年以上前だから、アシリパさんもせいぜい5~7才くらい。1巻で12・3才って見られてたのは、数え年のはずなので、満年齢だともうちょい下。
ウイルクもウイルクで、そんな年端もいかない娘にソロでヒグマ狩らせるとか。
幼児虐待じゃん。

でも、そんなうちからヒグマ殺してるアシリパさんもスゲエよ。
どんな幼女だよ。

キロランケからも「ウイルク」の名前が。なにげにインカラマッ以外がこの名を口にするのは初めて。
親子の呼応。
ようやく、アシリパ父=のっぺら坊=ウイルクが確定ですかあ?

そこへ飛び込む銃弾。

えー前回『金神136話「最後の侍」 ゴールデンカムイ - day * day』、こんなこと書いたんですが。

この場に尾形いないで良かった(笑)
いたら、ブチ切れてのっぺら坊殺してるかもですよ?

ウカツに冗談も書けねえよ。
「この場に」いなくても、油断出来なかった。
遠距離狙撃手ナメてました。

尾形、なにやってんだ。
130話を最後に、2ヵ月以上も御無沙汰で、そろそろ登場してもいいんじゃないかなーどんなカタチで割り込んでくるんだろうなーと思うと、14巻で最初*2の登場シーンがこれですよ?
そういうやつだと思ってたよ!
みんなと馴れ合ったりしてる姿もそれはそれでカワイイかも知れないが、やっぱり、こいつの本性はこういう冷酷非情さだ。
こいつに人並みの人情があるなんて思っちゃダメだ。

だが、そこがイイ。

ワタクシのようなやさぐれた山猫ファンが、なにを彼に期待してるかっていったら、甘々なメロドラマなんて望んじゃいないんですよ。
この冷血っぷり、こういう展開こそ「彼らしい」し、期待以上だ。
しかも、見開きぶち抜きで登場なんて、ファンサービスにも程があるだろと。
最初のコマで静謐な表情してるのがイイよな。
そして、他のキャラたちすべてどころか、読者をも見下すような冷たい視線がステキ。
作者氏のドヤ顔が目に浮かぶようですよ?(顔知らないけど)

尾形の登場っていつもこのパターン。挨拶代わりに銃弾が飛んでくる。
便利に使われすぎだ。
ストーリーテラーからしたら、こういうトリックスターは実に便利で、人間らしい言動を期待されないから、なにやらかしても「有り得る」。アリガチでメロウな展開をぶち壊して強引に物語を転換させることが出来る。
まるでデウス・エクス・マキナですよ。
いや、リンクス・エクス・マキナ Lynx Ex Machina、「機械仕掛けのオオヤマネコ」か。
ほらっ、彼の非人情っぷりって、まるで機械っぽいじゃん?

今更、尾形が誰を撃とうが驚かないけど、え、ここで出て来るんだ、てのが想定外。
これってなにか明確な目的があるってことじゃん?
今さら鶴見と通じてるってことはないよなあ……

可能性として。

■ 尾形本人の個人的な理由
尾形が暴力を振るうとき、大概は嬉しそうに笑ってるんだけど、たまに表情が消えるんだよな。*3
合理的な理由とか任務や戦略上の暴力のときは笑ってるけど、相手に個人的な感情があったり、衝動的な暴力の場合は、無表情になる。
そうか、怒りの表情を作ることが出来ないのか、と気付いた。幼少時に怒りを真っ正面から受け止めて貰えなかったのかな。
だから無表情のときは怒ってる。
だったら、ほんとに、ブチ切れてのっぺら坊を射殺したってことになるじゃん。

■ 土方の作戦
土方とウイルクの関係がよくわからないんだ……盟友なら、どうして土方と犬童の決着を待たないで一人で教誨堂を出て行ったのか、と。アシリパさんが来てることは知らなかったんだし。
実は土方とウイルク、それほど協力してたわけじゃなくて、単に脱獄のために手を組んだだけなのかも。
土方は最初からウイルクを殺すつもりで、尾形にそれを命じていた、と。
網走潜入作戦で、尾形が離れたところに配置されてるのは、ハブられてたわけでなくて、遠距離狙撃手である尾形にとって距離は問題ではなく、むしろ全体を見渡して対処するには離れたほうが有利ってことなのか。
だけど、鶴見隊の進軍は予想外のはずだし、夜間、暗視スコープだのもなくて、あの距離で狙撃できるのかどうか。*4
わざわざアシリパさんを杉元と引き離したのは、犬童にウイルクを連れ出させるため。
土方と杉元にしても。
128話 尾形「テメエらだって お互いに信頼があるとでも言うのかよ」
ってあるように、腹の探り合いだしなあ。
土方がウイルクを殺す動機は、石川啄木を使ってアシリパさんをジャンヌ・ダルクに仕立てるため、と、口封じのため。
ウイルクも納得ずくかも知れないけど。
しかし杉元まで殺しちゃったら、アシリパさん、絶対に土方を信頼しない。それは、土方も尾形もわかりきってるはずだし、とすると尾形が一人で杉元殺害の責を取ってアシリパさんに嫌われるつもり?
そもそも土方が杉元殺す動機はなんだ。土方の計画には杉元が不要だってのか。下手すると金塊手に入れたらアシリパさんも暗殺して悲劇の女戦士に仕立てるつもりなのか。ジャンヌ・ダルクよろしく。

でも杉元、どうせまだ死なないでしょ……
ウイルクのダイイングメッセージを聞いたのは杉元だけだし、アシリパさんに伝えなきゃね。
あの角度だと、銃弾が頭蓋骨に沿って滑って脳に入らない、てオチもありそうだ。
尾形が今装填してるのは、30年式実包のはずで、38式より貫通力低いし?(三八式実包、もう民生市場に出回ってたのかどうか)
ウイルクは完全に貫通してるけど。
多分、尾形は、杉元も撃ち殺すつもりだったろうけどな。

これで、アシリパ=杉元組とは断絶になるよなあ。
杉元は絶対に許さないでしょ。

尾形、舎房のほうにいるのかと思ってたけど、正門前にいたんだ。

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この位置だと、川岸の松明から橋の爆破、艦隊の遡上って一連の流れは見えるはずで。
そうしたら、こんなことするのは鶴見に決まってる。
尾形がいるのって、監視台だな。そこに本来いたはずの看守、あるいは鶴見の手下は、さっさと始末しちゃってるんですかね。

5年前のアイヌ殺し事件、のっぺら坊冤罪説。
じゃあ、誰が真犯人かってハナシ。
今名前の出てる中なら、一番疑わしいのは鶴見かキロランケなわけだが。
「死者の遺品に傷が付いてた」(から犯人はアイヌ)と土方にいったのは尾形だし、尾形は鶴見からの伝聞なんだ。
土方はのっぺら坊が冤罪だと考えていたのか、どうか? でもアイヌにはあんまり興味なさそうなんだよな。

5年前ったら、日露の開戦直前なんだ。
日清戦争が終わって以降も義和団の乱の討伐だのと国家間に火種は燻ってて、特に日露の関係は不穏になる一方で、政府でも非戦か開戦かでモメてた時期。
開戦するにしても戦費の調達に四苦八苦してて、2万貫(当時の金額で8000万相当になる?)の金塊は日本政府にしても喉から手が出るほど欲しかったはずだし*5、中央の廻し者がいたりするんですかね。
師団長の花沢中将が金塊のことを知っていたのかも気になってる。知ってたなら、誰かに命じて調べさせてたろうし、鶴見こそその役割に相応しいんじゃね。

正直、ウイルクの死は予想の範囲ではある。だってウイルクとアシリパさんが一緒になったら、もう、刺青人皮集める必要ないしね。
刺青人皮にストーリーラインを戻すなら、のっぺら坊がウイルクではないか、ウイルクが死ぬか、しかないわけで。

今週の巻末Q&A……作者氏、村西とおる氏好きすぎだろ……(笑)

*1:そういやこういう回想って死亡フラグだな。

*2:今のペースならね。

*3:例えば、11巻の父殺しの下り。本誌連載のときは薄笑いしてたのが、単行本で無表情になってたのがちょっと意外だった。で、ずっと無表情だったのが、父親の呪いを受けてようやくぎこちない笑みを浮かべる。あああれが解放の瞬間だったのだなあ、と。

*4:山猫だからタペタムあるってのはナシで。

*5:日露戦争の戦費は総額で20億程。当時の国家予算が3億足らず、結局、ほとんど外債で賄ったけど、第二次大戦中まで連合国側の国に対してその返済が続いてたっつー。借金は怖いねえ。