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日々是々

#ゴールデンカムイの魅力

1年以上も前の記事だけど未だに割とアクセス数があるので、アップデートしておきますね
20180310

Twitterで、「#ゴールデンカムイの魅力」、なんてとんでもないタグを見つけてしまった……延々と語り続けられるぞ……
と、先日、延々とつぶやき続けたのを、100話記念にまとめておく。

尾形百之助

……だけじゃなくて。

最初の出逢いは、たまたま本屋で手に取った見本誌を一読して即レジに向かったのよ。3巻が出たころ。
とにかくフックが多い、それも私の興味の範疇にジャストミート。民族学動物学活劇猟奇犯罪伝奇浪漫映画芸術論猫男BLクマ――!……むしろ嫌いな要素がないんですよ。
さらに、今までそんなに興味のなかった方面にも目が向いた。日露戦争含めた近代日本史とか。新撰組とか。ミリタリーとか。

技巧

キャラの造形、ストーリーテリング、絵の技量(デッサンの正確さとデフォルメの巧みさ)といった漫画の技術的な面はさすがで、安心して読んでられる。
本誌と単行本と両方読んで驚くのは、すごーく細かいところが、単行本で修正されてたりする。ちょっとした表情のつけ方とか、股間の修正とか、そこにこだわるんだーと。

キャラ

類型的な、ありがちな、どこかで見たような、舞台やストーリーから浮いたような、作者の操り人形のようなキャラがいない。
皆、それぞれ、自分なりの価値観を持って行動してる。キャラがふとした拍子に思ってもみなかった言動をして、新たな魅力を作る、しかもそれが不自然ではない、キャラに深みを与える。

リアルワールド

あくまで現実世界が舞台なので、魔法や超科学に逃げられない、て制限の大きい中でダイナミックなドラマが展開する。不死身の杉元でも頭に銃弾喰らったら死ぬ。

って、死ななかったけどな!

……とにかく。
20世紀初頭なんだ。血液の保存技術がないから輸血もままならないし抗生物質もないしCTもMRIもない……麻酔だってモヒやコカインの時代。それ考えると、杉元や鶴見、よくあの負傷で生きのびたよな……

圧倒的な強者がいないっていうのもドラマを巧く盛り上げてる要素かも知れない。それぞれ得手不得手があって気合と運で生き延びたり死んだりする。だからどのキャラがいつ死ぬか予想つかなくて緊張感が続く。主人公属性でアシリパさんと杉元は最後まで生き残りそうだけどなあ……あと白石もヒロインだし?

パロディ

特に元ネタ有りきのギャグが秀逸だ。シリアスだったり凄惨な場面で真顔で大ネタぶっこんでくる。
細かいギャグなら至る所に。下ネタも少なくないけどエロというよりかはシモだ。それも小学生男子がいいそうなレベルの……
作者のコダワリなのか、あんまり、マンガが元ネタのパロディってないんだよね。映画が主だったりして、そのへん最近のマンガにちっとも詳しくない私にもわかりやすくて好きだ。

LOVE , THANATOS and EROS

ギャグなのか迷うけどぎりぎりでシリアスなのが(男同士の)ラブアフェア*1……熱いよ。ラブという言葉がゲシュタルト崩壊してくるよ。
ラブとは、「強い感情の交流する、他人の介在できない1対1の関係」て定義しとく。性愛の要素は必須ではないのだ。
鶴見が二階堂の耳削ぐシーンなんてゾクゾクする。特に二階堂の「皆で楽しんでくださいよ」なんて台詞はよく書けるものだな!と。
尾形と父親の一夜も凄惨な場面のはずなのに、どうにも、エロスを感じてしまう……w 銃を得意とする尾形が、刃物を使ってる稀有なエピソードでもある。いつも小銃携えてる彼が、父親とのシーケンスだけ、銃を手にしてないのだ。そして腹を刺すなんて、エロい殺し方……

肉。肉体美。メールヌード

青年誌の連載なのに女性のヌードがほとんどない、あってもちっとも色気のないシーンだけど、代わりに、男ばかりが脱ぎまくるてのも、魅力の一つなのか……? 暗号の刺青も男性キャラ脱がせるためのギミックかしらって気がしてきた。
そもそも女性キャラがほとんどいないってのも青年誌にあるまじき構成だ……(ベクデルテストに合格しないw*2

めめたふぁ

話はあくまで現実ベースなのに、どうにも全体にめめたぁと漂う神話的メタファ。それだけ類型的な物語てことかも知れないが。
最初の方、「黄金探し」てことでまず思い浮かんだのは北欧神話ラインの黄金だった。囚われの男(オーデン=のっぺらぼう)(復讐の神でもあるしタロットの「吊られた男」=死刑囚の元ネタでもある)、その娘で狼を駆る戦乙女(ワルキューレ=アシリパさん)、彼女の夫になる不死身の英雄(ジークフリート=杉元)、彼の仲間だけど裏切り者の鍛冶屋(レギン=キロランケ)、……なんかいくつも符号する箇所が。惜しいことにジークフリートの父がシグムントなんだ。シグムントとスギモトって似てない?
その他、端々で織り込まれる神話や聖書のパロディ。
ちょっと流れにそぐわないとか、違和感のある構図って、大概、元ネタが他にあったりするのだ……
82話の「最後の晩餐」のパロディで示されたイエスと使途達との類似性。聖書に「神の顔見た者はいない」(旧約でも新約でも繰り返される)とあるので、顔のないのっぺらぼうは神に擬えられてるようにも思えるし、半分だけ顔のない鶴見は胡散臭い半神(デミゴッド)であり、メフィストフェレスだ。
そんな具合に、いくらでも、深読みしたくなってしまう。
神話や聖書だけでなく、映画や往年のテレビやマンガやゲームや絵画まで……
そのネタのチョイスが、どーにも私のツボだ。あーきっと作者氏は私と同世代なんだろな、と(笑)

CRIMINALS and CONDEMNEDS

本作の闇鍋の中のスパイスになってる、犯罪者達……
いやね、従前、犯罪学とか法科学とかにも興味あったんすよ。
だから辺見和雄の登場にまずびっくり。ヘンリールーカスだよな、これ? それから家永には爆笑したわ。HHホームズかよ! 
そして江渡貝くんには悶絶……
皆、元ネタの人物からかなりアレンジされてちゃんとこの作品世界のキャラになってるんすけどね。しかも濃いいいい。元ネタの彼らも充分にエキセントリックだけど、奇妙に魅力的な奇人に変わったことよ。アレンジされてるんだけど細かいとこで元ネタ残してるのもニクイやね。家永が元医者とか、世界ホテルが火事で焼失とか、江渡貝くんはシリアルキラーではないとか。

チシャ猫のように笑う。

尾形百之助
前々から、こういうキャラ、大好きなんですよね……w
クールでコールドブラッドでクレバーな猫男。
いつもポーカーフェイスなのにたまに見せる笑顔がイイ。しかもどれもロクな場面じゃない。*3
群れるの嫌いそうなとことか。いつもパーティのシンガリを歩いてる、単独行動多い、かと思うとオミヤゲ取ってきたりする。プライド高い。前髪掻き上げる仕草は毛繕いなんだと気付いた。ほら、猫が緊張するとわけもなく背中舐めたりするような。
11巻で過去が明らかに。6巻のセリフからして彼が父親の死になにか関わってるのだろうなあとは予想していたが。彼の冷血っぷりはヌルくなかった。
更に、従前、頭からフード被って、脱がない! 露出も最小限! 色気も可愛げもない! だったのに、12巻ではフード脱ぐところから始まって、ラッコ鍋のセミヌードからとうとう露天風呂入浴シーンのフルヌードまで疲労してくださるとわっ。
彼は、とことん人間性を排除すべく描写されてるように思えて*4、それが逆に「人間とは何か」って命題を示していて、深い……
ある意味で主人公たる杉元の対極にいるキャラクター。
冷血だけど邪悪ではない・エゴイストだけどナルシシストではない・サディストだけど快楽殺人者ではない……ってキレイにまとめたくなる。
娯楽作品の主人公は、作者の価値観がどうあれ、読者の代理人として彼ら大多数の価値観、人間性を持つべきなんだろうけど、彼の場合は明らかに少数派であり非定型であり、グロスマンのいう「3%の側」の人間として書かれてる。
娯楽作品の主人公にはなり得ない人物ではあるんだ……

POLITICAL

ポリコレ界隈で金神が論われてるのを見かけた。
作者のポリシーなのか、それとも単なる趣味なのか、ポリコレにすごく気を遣っているようでいて、すごく自由だと感じる。
政治的公平さ(ポリティカルコレクトネス)、ポリコレって、表現者にとっては、束縛ではなくむしろ解放なんじゃないかと感じる。
自分自身の、偏見やステロタイプからの。
偏見というのは透明な檻のようなもので、それが常識、客観的意見だと思い込んでいると、自分では存在を疑うこともできない。他者の視点で見て初めて、それが自分の主観でしかなかったと気付く。
お色気読者サービスは女性キャラの役割、なんて青年誌のオヤクソクに囚われていたら、ラッコ鍋から露天風呂グラビアだのバーニャだのは出て来ない。
エロスは性愛だけと思ってると、鶴見が二階堂の耳を切り落とす下りや、尾形が父ちゃん殺す下りや、辺見と杉元のバトルといった、凄惨なシーンのはずなのにエロスを感じることに躊躇してしまう。
更には、尾形と父とか、鯉登→鶴見とか、辺見→杉元みたいな、性愛ではない激しい恋情も描かれる。
一方で、親分と姫や、稲妻と蝮みたいな正統派の恋人達の悲恋も描かれたり。

WONDERFUL WORLD

尾形についてもそうなんだが。
この作品世界って、作者氏自身からして、ウエメセでキャラ達を断罪しないのだ。
絶対的な善悪の基準が存在しない。
読者が漠然と抱える嗜好と倫理観の葛藤、「こいつは好きなんだけど、こんな非道いキャラが生きてて良いはずがない」というのを、小気味よく裏切っていく。
どのキャラ達も皆、それぞれ自分の価値観を持っていて、サバイバルしている。
ドラマとしてはとても暴力的だしあっさりキャラが死ぬし残虐描写も多いし。
しかしある種の心地良さを感じるのは、「こんなヤツは許さない」ってウエメセな裁定者が、この世界には存在しない。誰の価値観、人間性も否定されない。

ただし作者氏、アシリパさんを虐待するヤツは許さない、って明言してるんだよな……

*1:作者氏も、記者に「一言で言うと何マンガですか?」て訊かれて「恋愛マンガですかね」って答えてたし?

*2:ベクデル・テスト - Wikipedia

*3:ルイスキャロルの『不思議の国のアリス』で有名なチシャ猫の由来については諸説あるけど、私が好きなのは、その昔、チシャ州に敏腕の森林監視員でカッツという男がいて、そいつが密猟者を始末するときに決まってニヤニヤ笑いを浮かべて、それが彼のトレードマークになり、やがて“チシャキャットのように笑う”という慣用句ができた……という説。だいぶ前に本で読んだんだけど出典思い出せない。なんとなく尾形思わせる逸話じゃん?

*4:例えば、121話~の全裸バトルの下り、彼はシルエットですら男性器が描かれずに三八式で置き換えられてる。性器なんて生身の人間の象徴の最たるものを武器で代替するって、まるで彼のキルマシーンの面を表現してるみたいだ。103話で父親を見下ろして立っているコマにしてもね。