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日々是々

金神217「北海道にて」感想 ゴールデンカムイ

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謎の男……

尾形、やっぱり、アシリパさん目当なのか。
その棒鱈、どこでかっぱらってきたんだ。
終戦が1905年秋、第七師団が北海道に帰還したのが06年春、作中のリアルタイムがそろそろ08年の初頭だから、2年以上も樺太で療養してたって設定なのだね。
船長さんも船員さんも、2年も寝たきりだった兵士が、三十年式でなく三八式持ってることに違和感ないんだろうか。
傷痍軍人さんを疑うなんてトンデモナイって考えかも知れないが。

熊狩の一行。
アイヌの男の帽子が面白い。初めて見る。
アイヌの伝統なのか、輸入品なのか。

あれ、白石とヴァシリは参加してないのか。
ヴァシリ、熊狩とか好きそうだけど。
ソロで狩りに行ったりしてるのかな。
言葉もまるで通じない異国の地だもんなあ。

カムイの考えかたからすると、狩猟民と言っても、やはり動物を殺すことに多少の罪悪感はあるのだな、と思う。
それは、アイヌでない、現代の和人のワタシでも共通した、同朋殺しへの禁忌の本能だろう。
植物よりは魚、魚よりは獣、獣よりは人間、見知らぬ人間よりは知人、てという風に、物理的や心理的な距離によって、親近感、「同朋」への共感が沸くし、相手を自分の一部と感じて、自己防衛本能が部分的に働く。*1
それでも生活のために獣を殺さなくちゃいけないので、そこで生じる罪悪感を軽減するために、カムイの信仰があるのだろうと。*2
逆に、ヒトという種にこういう本能がないと、過剰殺戮になって資源の枯渇を招く。

ちなみに、この狩りに使われる犬たちも、獲物を獲れなかったり、狩りが下手だと、殺されて喰われるので、淘汰されて、狩りの巧い系統が残っていくっていう。

アシリパ「戻ってこれたな」「北海道に…」
と言いつつ浮かない顔。
実はアシリパさんは戻って来れてない。
杉元と出会う前の彼女じゃない。
黄金探しが決着するまでフチの待つコタンには戻れないけど、単に地理的なものだけでなく精神的に。
網走行から樺太の旅路、作中の時間では半年ほどのはずだけど、その間の経験が彼女を変えてしまった。
キロランケに過酷な現状を見せ付けられ、父の決意を聞かされ、さらに尾形と対峙したことで、キロの闘志やウイルクの大義、尾形の凶気、それにもちろん杉元の覚悟に、感染したとも言える。
彼女は周囲の人たちを救いつつ、同時に彼らから、今まで考えもしなかった意志を受取ってる。彼女にとってそれは救いでは有り得ないし、教育というより、堕落、汚染かも知れない。
黄金や神を求める心が、人を変えてしまう、それもより悪いほうへ、っていうのは、この物語全体に共通したテーマであるらしい。黄金も神も、自分の外にある、普遍的・客観的で即物的な価値ってことだろう。
カネが欲しいだけの牛山や白石が比較的善良で、大義を抱えた者達が大量殺戮さえ辞さないテロリスト、って、皮肉。

ウェンカムイとか、砂金採りとか、ピンと来なかったのに、50円って具体的な金額*3聞いて目の色変わる、白石と杉元。
内心の声まで裏返ってるし!?
……ヴァシリ、言葉分かってないよね??

雨竜川……例の三毛別も割と近い。*4
もともとこの辺はヒグマが多く出る土地だっていう。
南のコタンの人たち、自力ではくだんのウェンカムイ、獲ろうとしないのね……
人食い熊獲っても食べられないし、自分たちは砂金採りしてないからわざわざヒグマの出る辺りに近づかなければいいし、和人の砂金採りたちが襲われてるだけだから、彼らがヒグマ恐れて逃げ出して商売が出来なくならない限りは、本腰にはならないのかな。

「去年からもう5人も殺されている」
って台詞からして、もう、年は明けたのかな。
まだ07年の暮れで、去年から1年間もヒグマが人襲い続けてる、ってことじゃないよね。

ヒグマに喰われたはずの男が生きている不思議。
超自然現象以外の解答があるのっ!?
クマの彫物の印籠だか煙草入れだか。北海道アイヌは、伝統的に、人や動物の形を象る風習はない(似姿を作るとそれ自体がカムイになってしまうので)というから、これは和人か、北海道以外のアイヌの作ってことに。
額の怪我が巧妙だ。
これのせいで時間の順序が明快で、杉元たちに助けられた後にクマに襲われたのではないことがハッキリする。
なにか超自然的カラクリがあって、それが尾形に関わって来ないかな、って希望。
だってクマに食われたはずの男が生きてるくらいなんだから、尾形の傷だって治ってもいいじゃんかよ――

ところで白石、見るなー

*1:こういう共感力や自己防衛はたぶん、遺伝子に書き込まれた本能なのだろう。恐らく尾形のような人間は、その共感力がほとんどゼロなので、人も獣も同じような獲物だし、どころか、もしかすると自分の肉体にさえ、自己防衛の本能があまり働かないのかも知れない。だから自分の身も平気で危険に晒す。

*2:欧州だと、人間以外の生物には魂がないので、殺しても人間と同じようには苦しまないって考えがあって、これも日常的な狩猟や屠殺の罪悪感を払拭するための信仰。

*3:現代までの物価上昇率1万倍として50万円くらい。

*4:三毛別羆事件 - Wikipedia