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日々是々

金神225「貧民窟」感想 ゴールデンカムイ

個人的には、特大のクリスマスプレゼント+御年玉。

ジャック・ザ・リパー、不穏な宇佐美、グロスマン、って、私の大好物3連発で、ちょっと興奮冷めやらない。
どうにも不謹慎なネタで盛上がってしまうのが、ワタクシの性癖。

切り裂きジャックジャック・ザ・リパーJack the Ripperですってよ!!
1888年後半、ロンドンのイーストエンド、ホワイトチャペル界隈に出没したシリアルキラー、未解決事件。
ジャック・ザ・リパーについて書かれた本は、研究本からオカルトから二次創作まで枚挙に暇がないけど、とうとう『ゴールデンカムイ』にも……! 作者氏がどうアレンジなさいますのか、楽しみ過ぎる。
→【切り裂きジャック - Wikipedia

ああ、野田先生、ロンドンにお出でになったから……
きっとジャック・ザ・リパーの聖地巡りなさったのでございましょう。
(しかし、ナチス空爆で、1888年当時の町並みはほとんど残ってないっても聞くけど)

扉の背景は、日本基督教団札幌教会礼拝堂(旧札幌美以教会堂)らしい。

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www.city.sapporo.jp

当時の札幌の貧民窟。
そうかービクトリア朝倫敦と同じなのか……
19世紀末のロンドン、世界に冠たる大英帝国の帝都といっても、その下町は「人類史上最悪の暮らし」って言われるくらいなもんで。汚穢、暴力、貧困、無知、格差社会……
ディケンズジャック・ロンドンの世界ですよ。 *1

ジャック・ザ・リパーについては。正体とか、プロファイリングとか、事件そのものについては、実は割とどうでもよくて、むしろその周辺の、社会状況、ヴィクトリア朝ロンドンや、司法制度、同時代や後世の人々の受け止めかた、文学なんかに与えた影響、などに興味があってですね。
上記のトギャにもあるような、「日の沈まぬ国」のお膝元のちょーブラック社会、それを「ジャックは切り裂いた」(by ロバート・ブロック、→切り裂きジャックはあなたの友―ロバート・ブロック短篇集 (ハヤカワ文庫 NV 205))と。
現に、ジャック・ザ・リパーの事件の影響で、政治家たちがロンドン市民の現実に目を向けるようになった、とも言われるくらいで。

ジャック・ザ・リパーの時代は『ゴールデンカムイ』のリアルタイム(1907年と推定)より20年前だけど。
人口密度が低い分、明治の札幌の方がまだマシかもね。
100年の時代の進歩って素晴らしい。

娼婦「あれ? あんた日本…」 の台詞が意味深。
犯人は日本人ではないってことだろうか? 後段、門倉「10年近く前に横浜で」の台詞も、横浜→外国人多いことから、そう伺わせる。
ジャック・ザ・リパーも、恐らく英国外出身の外国人、ユダヤ系移民か、アメリカ人と言われる。*2
でもどうせ、「日本……」の台詞もレッドヘリングなんだろなーと思いつつ。
娼婦の殺害シーン、犯人は左利き。これも、実際、ジャック・ザ・リパーは、傷痕からして左利きって言われる。

ジャックザリパーの考察について、記事分けました。
faomao.hateblo.jp

犯人の胸がはだけて例の刺青が……房太郎とも違う、22人目!

新聞記者「喉を切り裂かれ腸が引き出され右肩に掛けられていたと…」 の台詞からして、ジャック・ザ・リパーの被害者の一人アニーチャプマン*3に擬えられてるようだ。

「先月31日に」とあるのは、メアリー・アン・ニコルズの殺害事件(1888年8月31日)を想起させる。
多分、作者氏は、ジャック・ザ・リパーの犯行は、メアリー・アン・ニコルズ、アニーチャプマン、エリザベス・ストライドとキャサリンエドウッズ、メアリー・ケリーの5件、って、一般的な説を採るのだろう。他にもマーサ・タブラムを含めて6人説、メアリー・ケリーを除いて4人説もある。
ゴールデンカムイ』中でどこまで話が進むのかわからないけど。
としたら、次は一晩で二人殺されるんだけど!?

この嬉しそうな新聞記者は、お懐かしい、石川啄木。13巻124話「思い出の写真」以来だから、なんと、101話ぶりの登場ですよ!? 連載時からは2年半近く前。
石川啄木「殺されたらがっかりですよ」 「がっかり」かよ!
永倉「クズ」 デスヨネー。
石川啄木クズ伝説、とりわけ、同郷で高校時代からの先輩後輩だった金田一京助アイヌ語研究で有名な言語学者)の被害が知られる――勝手に下宿に住み着いて金田一の蔵書うっぱらって遊郭に行ったりとか。*4
そういう人物像を念頭にして、啄木の作品読むと、ひしひしと、コワイ(笑)→石川啄木 一握の砂*5

そして黙々とダックハントで射撃練習する尾形。
やっと掠めるようになった?
彼がこんな真剣にアンニュイな顔してるの珍しい。こういう横顔は美しい。
彼はどうやら、刺青人皮だの、脱獄囚だのには興味なくて、狩人や戦士としてのプライドが大きいのだろうよ。
今回、ジャック・ザ・リパーだの宇佐美だの啄木だのと、ロクでもないやつばかりなので、尾形が真面目な兵士に見えてくるじゃないか……

不穏な宇佐美。
え、彼が馬を殺したの?
彼、人間だけでなく、動物虐待癖があるの?
いつになく、宇佐美が美形に描かれてるんだけど??

彼も、多分に、暴力や虐待そのものを嗜好するタイプなのだ。
尾形もその同類だし、もしかして、鶴見、そういう人物を選ってスカウトしてるのか。

網走で、辺見ちゃんと家永が同房になってたら、延々と、楽しそうに殺人と拷問について語り合ってたりしてそう。宇佐美もこの拷問愛好会に加わりそうな。鶴見も。尾形は微妙。でも傍で聞いてて急に割り込んできたりね?

鶴見「宇佐美はきっと札幌で役に立つ」
の真意がわからない。
鶴見は宇佐美のなにを知ってて、どう「役に立つ」というのだろう。
おそらく、土方一味と接触・交戦することになると予測してるのだろうけど、それにしては、二人っきりで派遣するのはちょっと戦力不足じゃないか?
土方一味が強力なのはわかりきってるはず。尾形もいると推測してるかもだし。

土方一味、門倉もいるし、宇佐美とは因縁浅からぬメンバーばかり。
有古はどうなる。

それはさておき、
宇佐美「僕が皆殺しにしてすべて奪ってやる」
この宇佐美、イイ顔しやがりますなあ。
彼の真剣な顔も珍しい。
このへんが彼の本性かも知れないし、いや、本性もなにも、今までもちっとも隠してねえな。

明治28年、1895年。
日清戦争が4月に終結したばかり。→日清戦争 - Wikipedia *6

この時点で、鶴見は宇佐美とは旧知であるらしい。
月島と鶴見が知り合ったのが1896年だから、月島のほうが後からなのだね。
知り合った順は、宇佐美>月島>鯉登ってことに。
尾形と菊田はどこに入るんだろう。前々回の尾形の台詞から気になる、有古も。*7

鶴見の語る、戦場。

「発砲するふりをする」「敵兵を狙っていない」ていうのは、多分に、(このブログでもしょっちゅう言及してる)グロスマン『「人殺し」の心理学』が元ネタ。
絶対、作者氏、この本読んでるはず。
グロスマンの本で強調される兵士の葛藤は、杉元や勇作さんといった性善なる者たちを通して何度も書かれる。100話に出て来る杉元の望郷の念もまた、戦場のPTSDを癒やす話につながる。

「人殺し」の心理学

「人殺し」の心理学


戦争における「人殺し」の心理学 (ちくま学芸文庫)

戦争における「人殺し」の心理学 (ちくま学芸文庫)

敵の頭上めがけて発砲するどころか、まったく発砲しない兵士がいるのである。
 :
アメリカのライフル銃兵はわずか15から20パーセントしか敵に向かって発砲していない。
 :
同類である人間を殺すことには大きな抵抗感がある。第2次大戦中、75から80パーセントのライフル銃手は、敵にまともに銃を向けようとしなかった。自分や仲間の生命を救うためであってもだ。それ以前の戦争でも非発砲率は似たようなものだった。

鶴見「例外をのぞいて圧倒的多数の兵士は殺人に抵抗があり避けようとするのです」
それこそが、グロスマンのテーマの一つ(その本能的な殺人への抵抗感をいかに壊して、兵士を殺人マシンに仕立てるか、という軍隊の仕組みをやや批判的に書いたのが、グロスマンの趣旨)。

人間の圧倒的多数は生まれながらの殺人者ではない。

尾形や宇佐美なんかは、その「例外」のほうなのだね。
ただし、尾形と、宇佐美には、鶴見への忠誠心って大きな違いがある。

自分もこの本にはいろいろと衝撃を受けたし、これと、あと、コンラート・ローレンツには、暴力について全く新たな視点を与えられたもの。
今までも、作者氏は恐らくグロスマンを参照してるんだろうなと思ったけど、今回、モロにその本を髣髴とさせる台詞が出て来て、すごく、嬉しーい。それも、よりによって鶴見の口から、ですよっ!? 確かに、こんな台詞を吐くのは、鶴見が一番に相応しい。
実際に従軍経験がないのだったら、戦場の兵士を書くのに、この本は必読……だと思う。

宇佐美のフルネームが明らかに。
宇佐美 時重《トキシゲ》くんだそうですよ。

彼も新潟出身であるらしい。

チビうさ、え、1881生? 今26-7?
尾形、宇佐美より歳下って話だから、鯉登の過去回からして1902年には入隊してるし、徴兵なら21歳、ぎりぎり1881年生。
宇佐美も尾形も志願兵なら17歳から入隊だから、尾形、最大、1885年まで下げられるけど、勇作さん(日露戦争開戦時に旗手だから陸士14期のはず。とすると82-83年生)よりは上だから、81-83年生?

馬の逸話はどうつながるのだ。子供の頃に蹴られて頭部外傷負った、て展開?

やはり鶴見、ショタ属性かあああああ
鯉登のときもだし。
尾形とはどういう経緯で出会ったんだろうw

いろいろ気になるところで、年末年始のクリフハンガー
宇佐美と尾形とジャック・ザ・リパーの対決とか、期待せずにいられない!!

あれ、今回、笑ってるの、石川啄木だけじゃん。

*1:こんなまとめもあった。→ヴィクトリア朝時代の労働者の生活 - Togetter

*2:数少ない本物のジャック・ザ・リパーからの手紙にある「Dear Boss」って呼び掛けなど、アメリカ英語が使われてるので、それがアメリカ人説の有力な根拠。

*3:ホワイトチャペル殺人事件 - Wikipedia

*4:「坊ちゃんの時代」にも描かれてるし。


啄木の死後半世紀以上も経ってたのに、まだ、最晩年の金田一京助が啄木クズ伝説をネタにしてたと、金田一のゼミ生だった私の母の言。

*5:個人的には、例えば、夢野久作の猟奇歌(→夢野久作 猟奇歌)はいかにも「作ってる」感じが鼻につくけど、啄木は天然モノのコワサがある。

*6:この終戦講和条約のために来日した李鴻章を、テロリスト小山豊太郎が銃撃して、小山は網走に収監される。そこで知り合ったのが海賊房次郎こと大沢房次郎だったりする。

*7:有古の父が5年前の事件で殺されたアイヌの一人だし、鶴見はその事件の調査に当たってたんだし、その時点で知り合ったとするなら、1902年だが。