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日々是々

金神226「聖地」感想 ゴールデンカムイ

ほらこれだ……

長々と古くさいビルドゥングスロマンとかやり出して、なんで今頃、少年倶楽部かと思ったら、いきなりの宇佐美デスヨ。
こういう卓袱台返しこそ『ゴールデンカムイ』って作品。

マクラで語られる犬の話。

犬の性格は、オオカミ型とジャッカル型の2系統あるって話。
誰にでもフレンドリーなジャッカル型、忠誠心が異常に強くて主人以外には慣れないオオカミ型。
鯉登はどっちかって言えばジャッカル型だし、宇佐美はオオカミ型なのだろう。*1

白石「人間も同じ… 愛ゆえの…」
白石はそういうけど、それは、互恵が大前提の「愛」ではなく、自身の不安からくる執着心てやつだ。

チビうさの物語。

穏やかなドラマの中にもひしひしと潜む違和感。

宇佐美「実家の手伝いが」
……実家?
彼は今は実家を出て別のところに住んでいるらしい。
リアルタイムで上等兵なので、軍関係の学校ではない。

目がね。
チビうさ、2年前(1893年ってことになる)は瞳に光があるのに。
14歳のときにはそれが消えてる。
瞳の縁が揺らぐのは、感情の高ぶり。*2

2年前……水車のシーン、雪はなくて、田んぼに水があってまだなにも植わってないのは、代掻きの前、新潟だと3~4月なのかな?
鶴見は智春の父と知り合いらしい。智春の父は軍人かも知れない。
とすると、智春が通うことになってるのは、軍の幼年学校か。
チビうさが「知ってた」というのは、智春の父が軍人だから智春も職業軍人になるのだろうと、予想していた、ということ。
この頃は、士族とか、親が職業軍人でもないと、幼年学校→士官学校のような職業軍人のコースには行かないだろうから、それは、農家の子の宇佐美には望めない。

幼年学校は、(士官学校と違って)月謝が要るとある。
例として、昭和13年時点で月20円とな。(→陸軍幼年学校 - Wikipedia
慶応大学の授業料が昭和16年で年額160円だから、ほぼ変わらない、やはり当時としては高額だろう。
ただし幼年学校、親が軍人だと授業料半額、まして殉職してたりすると全額免除だというので、軍人の子が有利。
その後、士官学校でも、卒業して軍人になってからも、幼年学校出かどうかで出世に差が付くそうだから、実質、世襲になってる……元々、近代欧州で誕生した国民軍って、それ以前の封建制の否定から始まってるのに、封建制をそのまま持ち越してるっていう。*3

マクラで示唆されてる嫉妬心。
チビうさに、智春への嫉妬心があったのか。
智春は、鶴見と同じ職業軍人のコースを辿る。鶴見挟んでライバルだと思ってたのに、そこで自分だけ2人と切り離されてしまう。
当時、軍部の特権意識は強くて。軍人以外の一般市民を「地方」と呼んでたりするぐらい。
以前から、チビうさは、智春に劣等感を抱いてたのかも知れない。表面的には親しんでいても。
キラキラした目で智春を見るチビうさの友情は本物だろうけど、そこには羨ましさ――羨望――嫉妬*4が混じってるのかも知れない。
チビうさのほうから智春に話しかけるシーンはない。

智春がいずれ東京の学校へ行くことはわかっていたのだけど、鶴見までこの地を離れるという。
鶴見「朝鮮半島というところで問題が起きてね」
の背景は、田んぼに稲刈りの後があって、まだ雪がないから、10月~11月らしい。明治18(1895)年の2年前、1893年
1893年の事件っていうと、防穀令事件しか出てこないけど、この時分、日清戦争(1894年6月~)を控えて、朝鮮半島がだいぶ焦臭くなってるから、「問題」は続発してたろう。*5

智春から見た物語と、チビうさの物語はまるで違う。
智春は、チビうさを、親友と同時に、自分が成長するための試練の一つとして見てるんだよね。少なくとも対等のライバルではない。
2人の友情は本物かも知れないが、2人とも、出自による格差を自覚してる。

まるで少年倶楽部かって、陳腐ですらある少年たちのビルドゥングスロマンが語られるかと思うと、宇佐美の豹変っぷり。殺人ウサミの発現ですよ。
このへんが、『ゴールデンカムイ』って作品だよ!

組み合ったときの宇佐美の瞳にもはや光はない。
嫉妬や羨望が怒りを溜め込ませて、憧れる2人との別離が大きなストレス要因になったのだろうか?

チビうさの家庭は一見、明るい、特に問題のないように見えるけど。
宇佐美母「お父さんも強かったもの…」
の台詞が気になるところ。
その父の強さとは、爆発的な暴力性を意味してるのかも知れない。
もしかして、チビうさの頬の黒子、親に火箸で刺された瘢痕とかだったりしませんかね。

宇佐美の暴力が、遺伝的要因もあるのかもね?
生得的な要因の全てが遺伝ではない(周産期~幼少期の様々な肉体的影響もあるので)とはいえ。

先日ボツボツ呟いてたの。(私は尾形が大好きなので、彼を引き合いにだしてしまうが)

尾形と宇佐美、どちらも、嗜虐的な、暴力や加害を好む人物で、だからこそ鶴見のコレクションに加えられたんだろうけど、なにか根本的なとこで違う、なにが違うんだろとつらつら考えてみるに、興奮の度合いなのかもだ。
二人に共通してるのは、〝殺人に抵抗〟*6がないどころか快感を覚える点。
尾形の暴力はその快感で不快を癒やす、宇佐美は怒りの爆発。宇佐美は普段から興奮度が高いけど、尾形は逆に興奮することがない。ジェームズ・ブレアの定義*7だとサイコパスとは情動障害、つまり冷淡さだというので、尾形のほうが当てはまる。
現実の殺人者ってたいてい興奮の挙句に爆発するタイプだけど、そもそも尾形のように冷淡な人物は、衝動的で無益な犯罪は犯さない。
宇佐美は、要は、血の気が多い。それが鶴見との関係で養われた暴力性、嗜虐性なのかは、また別。
宇佐美はいきなり爆発して過剰な暴力を振るう、尾形は爆発もしないで必要に応じて相手を殺す。

本気の殺意があったなら、喉元より、顔から頭蓋骨を踏み砕くか、胸で心臓震盪を狙うか、だろう。
そこまで冷静に殺害を図ったというより、怒りに任せて過剰な暴力振るったように見える。

智春君の運命は如何に。
* あっさり生き返る。
* 宇佐美、非行少年として処罰される。
* ザ・隠蔽。

さも意味ありげに描かれる井戸が不穏だ。
現役の井戸だから、死体を放り込んでもすぐに見つかるはず。(深くてなかなか見つからなくても、死体が腐敗すると水にニオイがついたり脂が浮いて来たりするので)

この物語、自己保身から隠蔽工作するやつって、徹底してローンウルフの家永くらいしか出て来ない……宇佐美を庇うとしたら将来性を見込んだ鶴見だろうけど。
鶴見はこの時点でもうスパイだったし、大陸への野望を抱いてるとしたら、有能な工作員は欲しいよね。

うーん、最初のほうに出て来た「実家」って言い回しからして。
そこにいることに鶴見が驚いてるということは、この道場とも、実家とも離れたところに普段はいる、と。
宇佐美、少年院とか感化院とかの施設(この時代の触法少年の処罰はどうなってるのか)に入ってたりする?
あるいは、中学の寮に入ってるだけかもだが。

気になるところでまた来週はヤンジャン休刊だ。

*1:尾形はヤマネコ型。

*2:
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*3:

戦争論〈新装版〉 (りぶらりあ選書)

戦争論〈新装版〉 (りぶらりあ選書)

*4:「うらやむ」の語源は、「うら(心)」が「病む」で、好ましい感情ではない。

*5:そもそも日清・日露戦争自体が、朝鮮半島満州地方の分捕り合戦なわけで。→
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/1/1b/Coree.jpg

*6:前回225話の鶴見の台詞、その元ネタのグロスマンの本で使われる言い回し。→黄金怪奇FILE:225「貧民窟」 ゴールデンカムイ - day * day

*7: