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日々是々

金神240「菊田特務曹長」感想 ゴールデンカムイ

菊田さんがタイトルロール!

初見、こう思ったんですけどね。単行本ではイメージ変わったので、単行本の感想ではこの文は削除しましたん。*1

菊田は面構えからして、素直に鶴見に従ってるようには見えない。 こいつは絶対、腹に一物抱えてる……特大のブツを……

金神193「登別温泉」感想 ゴールデンカムイ - day * day

やっぱりビッグマグナム抱えてたか……

菊田が中央のスパイだとすると、もしかして、尾形も、彼の一味かもね?
月島が言うとおり「中央の飼い猫」かも知れない。
しかし、尾形、鶴見からさっさと離叛してるので、スパイには向いてないよな。

中央の話が今頃になって出てこなくても……
一体、中央はなにやってんのかと思うと。
菊田さん、戦前からずっとスパイだったのか、戦後に尾形ともども転向したのか。
長いこと鶴見に気付かれないのもヘンだし。
造反組との関わりも気になるし。

杉元一行は、茨戸にいる模様。
懐かしい山本さん。

上エ地圭二は、元ネタ、「キラークラウン」ジョン・ウェイン・ゲイシーであるらしい。(ジョン・ゲイシー - Wikipedia*2
「エ」は、カタカナ? 「ヱ」でも「工」でもなくて、UNICODE 30A8の、ア行のエでいいのかな?
ゲイシーは地域密着型で、地元の有力者だったから、犯行の隠蔽のために地下に死体を埋めてたけど、この上エ地はなんとなくチカチーロ思わせるんだよね。移動するタイプだし。
全く違うキャラに仕上げたのが、アレンジ巧いなあと。
元ネタのゲイシーは男性・男児専門だけど、「子供を何人も」ってあるのは、性別に拘らないのかな?
アシリパさんのピーンチ。*3
顔の刺青、子供に警戒されそうな……だから道化師を装ってるのか。

杉元、そこ、嬉しそうな顔するんじゃない!

白石も網走にいたのに、上エ地のことも、若山親分や、平太も知らないんだな……
少なくとも脱獄のときは一緒だったのにね。

上エ地の顔の刺青が変わったのは、脱獄後に追加したのかな?
右眉の「犬」は安芸地方の黥刑のパターン、下顎のはアイヌ紋様、十字形のは東欧の十字……だっけか。
この時代によく各地の紋様知ってるなあと不思議だったけど。

にしても、房太郎、デケえ。

啄木「ジャック・ザ・リッパーの模倣だって」
今回で、ワタシ的に一番、衝撃だったのは、この台詞。
え、この世界、ロンドンのジャック・ザ・リッパーとは別に、札幌にジャック・ザ・リッパーが存在するんだっ?
今まで『ゴールデンカムイ』で出てきた犯罪者、あくまで元ネタの犯罪者と入れ替るように登場してるから、模倣犯って新鮮だ。
というかーそもそもモチーフになった犯罪者たち、みんな、『ゴールデンカムイ』より後の時代なのだ。リアルタイム(1908年)より前の時代の犯罪者って、HHホームズ(家永の元ネタ)、海賊房次郎、稲妻くらいじゃないだろか。(シートンは、この頃、アメリカでボーイスカウトの創設運動やってたが……)

とすると、前回、殺人犯が、菊田・宇佐美とのバトルの後にわざわざ二人殺してるのも納得。
その日に、女性二人を殺すことが重要だった、と。
……のに、事前に、道草食ってるのか……

啄木の分析が冷静で面白い。
クズだけど知的、ってキャラだ。

元祖の1888年ロンドンのジャック・ザ・リッパーについて。
2014年のラッセル・エドワーズ「切り裂きジャック 127年目の真実」が、事件全体を手早くまとめてて有難い。*4
パトリシア・コーンウェルも研究書を書いてるけど*5牽強付会の気がしないでもない。
エドワーズもコーンウェルも、一連の「ホワイトチャペル殺人事件」(→ホワイトチャペル殺人事件 - Wikipedia)のうち、同一犯によると考えられる事件を、通説の5人(「canonical five/公認の五人」、8月31日メアリー・アン・ニコルズ/9月8日アニー・チャプマン/9月30日エリザベス・ストライド/キャサリンエドウズ/11月9日メアリー・ジェン・ケリー)に加え、その前、8月7日マーサ・タブラムも含めて、6人としてるのが興味深い。
二人とも、ひたすら突き刺すだけのタブラム事件を、犯人の初体験、「お試し」と見て、それから悲惨なメアリ・ケリー事件まで犯行が成長したとするのは、充分に頷ける。
リッパロロジー界隈では、主流ではないようだが。

「5人」説は、前掲のエドワーズの本によると(P125)、

一八八九年にロンドン警視庁の警視長に就任したメルヴィル・マクノートン卿は、(中略)長文の報告書の中で個々の殺人事件について解説し、「ホワイトチャペル殺人犯が殺したのは五人だけだ」と断言した。五人とはメアリー・アン・ニコルズ、アニー・チャップマン、エリザベス・ストライド、キャサリンエドウズとメアリー・ジェーン・ケリーであり、(中略)この覚え書きが一九六〇年代の初期に公表されたことで、今で言うところの「公認の五件」が定着した。

だからそれまでは「5人」は定説ではなかったかも知れない。

啄木は5人説。
もしかして、10年前の横浜の事件が、マーサ・タブラムの事件に相当するのかも知れない。
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札幌の事件を、本家のジャック・ザ・リッパーでなくて、あくまで模倣犯としたのは、「5人目」メアリ・ケリー事件を避けるためかも知れない。
あれをマンガで描きたくないとしても、納得するけどね。

ロンドンの事件、9月27日に新聞社に届いた、「Dear Boss」で始まって「Jack the Ripper」の署名のある手紙(→Dear Boss letter - Wikipedia)が有名なんだけど。

  • 「Jack the Ripper/ジャック・ザ・リッパー」の名称はこの手紙に由来する。
  • 「Boss」は米語で当時の英国では一般的ではない。その他、文章からしても、米国出身説。
  • 筆跡が整っていて、書いたのはインテリ階級っぽい。

エドワーズによると、今ではこの手紙は、新聞記者の捏造って説が有力なんだそうで、
つまり、そもそも、JtRは、"Jack the Ripper"じゃなかった。
少なくとも本人の名乗りではない。
(でも面倒くさいので、ここでは、ジャック・ザ・リッパー/JtRって書くことにする。カナ表記、「パー」のほうが近いと思うけど、本誌で「リッパー」って書かれちゃった)

石川啄木「新聞社にクソ犯人から小包が届いたんですよ」
石川啄木「「ジゴクより」と書かれていました」
の元ネタは、「From Hell」レターと言われるもの。→From Hell letter - Wikipedia
ロンドンの事件でも、人間の腎臓が同封されてたので、本物である可能性が高いけど、実はこの手紙にも、医学生など人間の死体が手に入りやすい人物のイタズラって説もある。当時はもちろんDNA鑑定なんかないので被害者の臓器かは判別できない。

Dear Bossの手紙
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と、
From Hellの手紙は、明らかに筆跡も文章も違う。
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パトリシア・コーンウェルは、どっちも本物とした上で、彼女イチオシの容疑者ウォルター・シッカートが天才なのでいくつもの筆跡や文体を使い分けた、って力説してるけど、どーなん……
(確かに、わざとらしいまでに違うので、作為的と見えないことも無い)

石川啄木「同時期に同じ地区では娼婦の殺人事件も多発したけど」
ビクトリア朝ロンドンの下町と来たら、「人類史上最悪の暮らし」とまで言われるくらいで。
「犯罪をする才能に恵まれたやつは刑務所に入ってる」だの、「平均して毎日一人は殺されてた」だのと。治安も環境も悪すぎ。
とはいえ、当時の殺人の多くは、強盗殺人や、ケンカ、ギャングが見せしめで娼婦に暴力振るって死なしたり、家庭内殺人といった、貧困や治安の悪さに由来するようなものなので。
やはり、JtRのようなシリアルキラーは珍しい。
(前後の数年間に、JtRの5あるいは6人以外にも、女性の胴体だけが見つかる事件があったりするので、本格的な猟奇殺人者が他に皆無ってわけでもない。ちなみに『スウィニートッド』は都市伝説って言われてる)

「これはまったく新しい形の犯罪だったんです」
19世紀後半のイギリスは、鉄道が発達して、庶民が鉄道で旅をすることが増えたのですね。
で、車中で読むために、大衆向けの印刷物が爆発的に発展した。
娯楽小説や、絵入新聞、雑誌、など。
「イラストレイテッド・ポリス・ニュース」(週刊のタブロイド紙)なんてのが有名。→The Illustrated Police News - Wikipedia*6
ちなみにシャーロック・ホームズのシリーズが掲載されたストランドマガジンも19世紀半ば創刊の月刊誌。
そんな時代で、大衆受けを狙った劇場型犯罪の嚆矢として、JtRが挙げられる。
メディアのほうも、売り上げが最優先だから、あることないこと書き立てる。
「手紙の捏造」なんてのもさもありなん。*7
ジャック・ザ・リッパー事件」って、単なる連続殺人事件でなくて、殺人犯(正体もだけど、どの事件を誰がやったの?)・事件報道を盛り上げたマスメディア・犯行を可能にした社会状況(貧困や移民、外国人差別とかね?)、って、いくつもの複合的な要素が重なって歴史的事件になってる。
更に、当時の司法制度だの、司法科学の歴史だの、文献学(当時の捜査資料、文書や調書はほとんど残ってない)だのと、歴史学の要素もあって、すごーく面白い。

石川啄木「独創性のないモノマネ猿たち」
って言ってるけど。
札幌の事件、模倣犯っていうのが気になると言えば気になる。
この手のシリアルキラーって、たいてい、自分の独創的すぎるファンタジーに駆られてるから、他人の事件や、既成の宗教をそっくり真似ることはあんまりない。見立て殺人なんて小説の中だけ。*8
ロンドンのJtRが1888年で、作中の「今」は1908年と推定されるので、ほぼ20年経ってることに。
もしかすると、ロンドンの事件の関係者かも知れない。加害者や被害者の親族とかね。*9

*10

尾形は見なかったことにする。老け顔メイクすると幸次郎ソックリだとか見たくねえよ。
……でも本人、気に入ってる?

最後の惹句は、恐らく、単行本17巻特典アニメのライナーが元ネタ。
■死刑囚、札幌、第七師団。何も起きないはずがなく…。
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*1:金神20巻の感想 ゴールデンカムイ - day * day

*2:ゲイシー、ムショで描いたピエロの絵を売りまくってて、さすが商売上手だよなあ。前に、銀座でやってたシリアルキラー展で見たけど、……ゲイシーの絵ってことでしか見るべき点はないんだよな; アメリカでこの手の犯罪者アートのビジネスは大きな市場のようだ。まあだからこそ日本にまで巡回興行して、ワタクシのような好事家が見に行くわけだけど。

*3:ゲイシーだったら、本命は杉元になりそう。房太郎には監獄で手を出そうとして反撃されて半殺しにされたかもよ?

*4:

切り裂きジャック 127年目の真実

切り裂きジャック 127年目の真実

*5:

切り裂きジャック

切り裂きジャック

*6:JtRのイラスト。
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他にもこんな感じの記事が→Category:The Illustrated Police News - Wikimedia Commons

*7:ゴールデンカムイ』だと、石川啄木が真先にやりそうじゃね?

*8:ヒトラーの信奉者は多い。厨二的憧れなのか、心底ナチズムに傾倒してるのかはわからないが。あと、サリンジャーライ麦畑で捕まえて」も人気。

*9:被害者の子孫で今も存命の人がいる。最有力容疑者と言われるアーロン・コミンスキーも、きょうだいの子孫が今もいる。

*10:昔、私が唯一出した個人誌、ジャック・ザ・リッパーを元ネタの一つにしてたりするので、JTRには強い思い入れがある。だから舞台はビクトリア朝倫敦がモデル……のはずなんだけどそこはアレ。
本文→『FANG DOLL』