day * day

日々是々

金神動画27話の感想。 ゴールデンカムイ

第27話「いご草」

金神15巻の感想 ゴールデンカムイ - day * dayの記事を流用しました。

原作15巻、148~150話に相当する回。

あれ、今回、OP無しかー

のっぺら坊ではなく、ウイルクとしての父の足跡を追う事になる、アシリパさん。

キロランケ、なんか……声が渋すぎるな……この時点で40才前後のはずなんだが。*1

キロランケの歴史講義。千島樺太交換条約は1875年。
キロランケ一行が樺太に来た理由。
アシリパさんに暗号のキーを思い出させること、それに、樺太の現状、少数民族の悲劇と、抵抗者としての父親の足跡を見せて、彼女を同志として教育しようと。
しかし尾形は、アシリパさんも、金塊に辿り着くための道具としか見てないようだ。
キロランケ「不信感を与えてはダメだ」って台詞。
尾形の冷酷な合理主義を知ってるから、 無理強いしても利にならないって理詰めで説く一方で、やっぱりアシリパさんを傷付けたくないって感情もあるわけで。

キロの目はずっと光が宿ってる。彼は純粋に独立運動を信じてる。
自分達には絶対の理があって、いずれアシリパさんもそれを理解して、賛同するはずだ、と。
で、このへんの台詞からして、尾形のことも同志として信用してる模様。

キロランケ「樺太はどちらの国のものでもなかったんだ」
江戸時代中期から既に、ロシアと日本の衝突は始まってて、その間にアイヌ達も巻き込まれていった。
幕末以降、日本は、ロシアとの国境問題で、アイヌを日本国民として(アイヌが日本人でないなら彼等の住む土地は日本ではないことになってしまうから)同化政策を進めていった、って経緯が。
アイヌなどの狩猟民族は元々、土地の所有って考えがなくて、ただ狩漁や採収といった利用権が重要だったから、広い範囲を自由に移動してたし、土地へのコダワリも農耕民族よりずっと希薄だった。
千島や樺太から連れてこられたアイヌは、農耕民として定住させられたけど、慣れない土地で慣れない農耕なんて出来るはずもなく。

キロランケはずっと、ウイルクのことだけを話してる。
キロ自身のルーツ、生まれたところや日本に来た経緯、ウイルクとの関係なんかはこの時点ではまだまだ語られない。

お久しぶりの二階堂&宇佐美!
なんで二階堂が動くたびにモーター音がするのよ……
とうとう有坂さんに改造されて、機械化されてるのっ!?
言葉も喋らなくなっちゃった。
鶴見に騙されてるのね……見捨てないだけ、鶴見、優しい。*2

そしてまだ鶴見に付き合ってる有坂さん。
この義手、球体関節っぽいけど、どうやって開け閉めのギミックが出来てるのかナゾ。
中指の関節はダミーなんですかね。ってことは、拳を握ろうとすると、中指だけ立てることに……?
🖕
……ってこれもUnicodeにあるのかよ……

二階堂が……肉体的にも精神的にも目減りしていく。
元はといや、蕎麦屋で杉元を襲ったときに端を発してるのだけど。
今じゃすっかり有坂中将の(というか作者の)オモチャ。
本人は杉元は死んだって言われて、杉元ロスに陥ってる模様。

メインは月島の過去編。
原作でもだけど、アニメでも月島父の顔は一切描かない。
月島はもう忘れ去ってるのだね。

言葉はキツいが、なんだかんだんで岩息の身を案じる月島。
彼もツンデレだ。
和やかに一行に別れを告げる、岩息。

舞台は唐突に、明治29年(1896年)に。
月島が鶴見の腹心になった経緯。

鶴見、このとき少尉さん。
鶴見第1形態ってすっげえイケメンだと思うのです。
原作だとこの時点で鶴見少尉はまだ頬こけてないんだけどね。
30前後のはず。
(鶴見はキロランケとだいたい同い年とされてる、キロが1881年に15才=1866年生れなので鶴見もそう。つまり、鶴見は、江戸時代の生まれなのだ)
月島もまだヒゲ生やしてない。

月島が佐渡の出身ってのは単行本でなんとなく明かされてたけど、鶴見も新潟出身でしたとは。

新発田の第2師団ってことは、歩兵第16聯隊。
入隊してすぐに日清戦争(1894年)とあるので、月島が志願兵なのか徴兵なのか不明だけど徴兵として21で入隊したとすると、月島は1873年前後の生まれってことになりますかね。

鶴見、普通は陸士出たての少尉は23才、陸大行って30前には佐官になってる例が多いから、ちょっと出世が遅い。
陸士でなくて一般の大学卒だとか留学経験あったりするのかも知れない。

月島もまた、親殺しの凶状(スティグマ)持ちだった。

「親殺しは巣立ちのための通過儀礼」というのなら、月島が巣立ったのは、抑圧され搾取される一方の被害者としての自分だったの?

月島の殺意はワカリヤスイ。
社会(といっても狭い地元地域でしかないけど)からは悪童と排斥され、ろくでもない父親に人生を牛耳られて全ての希望を失われたすえの、ルサンチマンの爆発。
そこまで絶望してようやく父親を殺すことが出来たのなら、月島はやっぱり「普通の人」だ。
結果として、死刑囚となり、国家という父親よりも大きな権威によって生命を奪われることになったとしても。
そんなクソ親父の下に生まれついた自分はクソ親父を殺すことが自分の生だとして、それを果したので、人生を終わったと思ったわけだ。

だけど、全てを失ったと思っていた月島は、鶴見によって、彼女が生きているという希望を胸に点す。
二度と彼女に会うことはないとしても、クソ親父に付随することだけが自分の人生ではなかったと。

つくづく、鶴見って、メフィストフェレスなんだ。
現世に絶望した者の前に現れて、希望を囁く。
「この世はまだ捨てたものではない」と。

しかし。

鶴見「「えご草ちゃん」は」って、あくまで、「えご草ちゃん」。月島のいう「いご草」じゃなく。
鶴見は実のところ、(ゲーテの書いたファウスト博士に対するメフィストフェレスのような)月島自身の心の中で絶望に抗う半身なんかじゃなくて。
鶴見自身の目的を持った利己的な存在だし、そのためにあらゆる手段を使うマキャベリストだし、胡散臭いデミゴッド(偽りの神)だ。
*3

言葉巧みに月島を籠絡する鶴見。
この鶴見の弁舌が素晴らしすぎるwwww
策謀家の本領発揮。
今までの人生をフォーマットして、自分の道具としての人生を与えてやると。

え、ここから牢内でロシア語勉強して、少なくとも日常会話出来るくらいまでになったのか!
すごいよハジメちゃん。
その才能も見抜いたのか、鶴見。

鶴見「第七師団に転属になった」
屯田兵を改組して、第七師団が編成されたのはちょうどこの年、1896年なのだよね。
月寒に、ていってる。
第七師団、この頃はまだ、札幌にあったようで。
特務機関はわからんけど、屯田兵にしろ、そもそもがロシアを牽制するために置かれたんだから(他の師団が、元々は鎮守=地方の反乱・内憂を抑えるために設けられた軍に端を発するのに対して、屯田兵は最初からロシアって外敵に備えるために作られた組織)、情報機関があっても不思議じゃない。

一気に時間が飛んで、1905年の奉天郊外。

ずっと鶴見に騙されてたことを知ってしまった、月島。
9年間、確認しなかったのね……

鶴見に殴りかかる月島。
吹っ飛ばされてる前山さん。
彼もつくづく不運な人……

鶴見「誰よりも優秀な兵士で」という鶴見は端正で美形だ。
本来なら、感動的な、お涙頂戴な場面のハズなんだけど。
どーせ鶴見が全く信用できない人物だって、わかりきってる。
彼の台詞、「優秀な兵士で信頼できる部下で戦友だから」って。
本心ではあるんだろな。
都合の良い男って意味の婉曲表現。

対する月島の表情。彼のこんな顔も初めてだ。

その直後に、ちゅど――ん

鶴見を庇おうとした月島を見上げる鶴見の口元。
この微笑がイイw
獲物を捕えたことを確信した笑みだ。

鶴見は頭を負傷して、月島は腹を。

忠魂碑の前に佇む二人――はこの砲撃の前。
月島は、こうやって鶴見の心情を見てる、死んだ戦友達への哀悼や無念を共有している(少なくとも月島はそう思ってる)から、心底は鶴見を疑えない。
死者を思い遣る心を人質に取られてる。

ひょんなとこで出てくる杉元。
杉元が抱えてるのは重傷で末期の寅次だ。
寅次も奉天会戦で戦死したようだ。
旅順攻囲戦のとき、杉元が白襷隊にいたってエピソードがあったし、もしあの時点で寅次が死んでたら、梅ちゃんのことがあるから杉元が決死隊に参加するはずもないと思った。
親友の死で、杉元は生き延びなければならない理由が出来た。

鶴見の語る、えご草ちゃん事件の顛末。

鶴見「信頼できるのはお前だけだ」
……ってこの殺し文句、何人に言ってるんですかね、鶴見さん。

月島「死んでいった者たちのためにも」
……もう、鶴見のことはどうでもよくて、彼への恩義や忠誠心よりも、死者達への責任感が強調されてる。

なぜに、鶴見がモブ兵士を通じて、いご草ちゃんの遺骨の話を月島に伝えたのか?
鶴見は、月島を試したのかも知れない。彼の覚悟を。
いご草ちゃんって希望を心に抱えてたら、「身の毛もよだつ汚れ仕事」にはついてこないだろうから。(現に杉元は、最初に鶴見に勧誘されたときや、二瓶戦の後の谷垣との会話で、鶴見の大義にちょっと心動かされたけど、アシリパさんって希望に先に出遭ってるから、鶴見には合流しなかった。今もアシリパさんと再会するために鶴見隊についてるわけで)
だから、心の逃げ道を断ち切った。
もし、それで月島が鶴見から離れるようだったら、尾形に命じて月島を殺させてたのかもだ。
月島は自分を裏切れないと、砲撃のシーンで確信したので、付け足しのように、いかにも作り物めいた話を語った。
これも、尾形が花沢中将を弑したあとの馬車の中で鶴見の白々しい賞賛の言葉に対応してるんだな。

私にはどうしても、尾形と月島の違いが気になってしまう。
どちらも親殺しの凶状持ちだけど、鶴見に付き従ってる月島と、離叛した尾形と。
月島は、鶴見が信用できないことを気付いてはいるけど、鶴見に従う以外に、生きる意味がない。だから、彼の甘言にすがるしかない。悪魔(メフィストフェレス)に救済を求めてしまう。
一方で尾形は、鶴見の甘言を疑いつつも絆を求めて呑み込むようなことはしない。最早、救済や絆を必要としない。
鶴見「そして私の戦友だから…」って、尾形が月島と対峙したときに呟いた、「仲間だの戦友だの……くさい台詞で若者を乗せるのがお上手ですね」を思い出させる。
乗せられた若者と、「たらし」と切って捨てる若者と。
生きるためにウソでもいいから他者との絆を求める者と、
生きるために自分から絆と断ち切って孤高を保とうとする者と。

ラストの小樽でのシーンは、実は、本誌連載時にはなくて、単行本で追加された。
本誌では、■そして悪魔は仮面を被る。
ってキャプション1行で片付けられてた。 *4

鶴見、ケガのせいで人格障害になったのかと思うと、戦前からあんまり変ってない。

月島は、もう、いご草ちゃんのことはすっぱり忘れることにしたようだ。
生きていようが死んでようがどうでもいい。
今までは彼女の思い出に縋ってたけど、鶴見の唱える大義に殉じることに決めたと。
鶴見のため、じゃなくて、大義、ってほうが大きいのかな。

結局、えご草ちゃんの運命の真相は、読者にも、明かされない。
月島が納得したのなら、それ以上、探ろうとするのも無意味か……
こういう、「ホントのところ」を語らないのって、このゴールデンカムイって作品の真骨頂にも思うんだけど。
後々の伏線にもなるし、正しさをメタな立場からウエメセで俯瞰し裁定する者が不在なのだ。
絶対的な存在がいない。

原作でサブタイトルは『遺骨』だった。
月島の婚約者・満州に埋められた戦死者達・それに寅次、3つの意味がある。
月島は、ホントは、彼女は死んだと思ってるようだ。
鶴見は戦死者達の無念に報いようとしてる。とりあえずその大義を掲げてる。
杉元は、寅次の遺骨は指しか持帰ることが出来なかった。

*1:キロ役のてらそままさき氏。私は、アニメ、ほとんど見ないんだけど、以前に、「サムライ7」にハマりまして。てらそま氏が主役だったんですよねえ。ええ、私のオキニだったキュウゾウとのCPがド定番だったもので……

*2:そういや鶴見、二階堂に「耳をください」とか言われてアッサリOKしてるんだよね。部下のケアも怠らない。

*3:この、房内での鶴見と月島の対話って、以前の、鶴見と谷垣の対話や、尾形と花沢の対話にも擬えられてるのは確かだよね。

*4:
f:id:faomao:20201020202614j:plain