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日々是々

アニメ30話の感想。 ゴールデンカムイ

第30話「悪兆」

STORY -TVアニメ「ゴールデンカムイ」公式サイト-

原作の17巻163話「指名手配書」~166話「頼み」に相当する話。
第3期前半の最後にして、一番の山場。
特に、尾形ファンにとっては。

原作のエピソード自体が、いろいろと考えさせられて。
アニメ化発表のあとの掲載だったので、本誌連載時から、アニメでどう演出されるのか、勇作さんはどんな声なのか、尾形や勇作さんがどんな演技になるのか、等などと、ずっと気になってた。

とにかく、勇作さんがスゴいwwwwwww

  • ストーリーの開始時点で既に死んでる。
  • 尾形を主として回想シーンにしか出てこない。
  • 顔もほとんど描かれない。
  • (原作中)3度も殺されてる。

だというのに、
2018年のキャラの人気投票で9位に入るとか、
ゴールデンカムイ公式サイト│GKA総選挙結果発表
単行本のカバーにも登場するとか、*1
ソフトの特典グッズになるとか、
Blu-ray&DVD -TVアニメ「ゴールデンカムイ」公式サイト-

聖なる化け物。

尾形と勇作さん、というか弟君の関係性については、正直、ヤンジャンの103話の掲載時からずっと気になってたんだ……(どういう風に気になってるのかったら、二次創作を参照のこと→華猫 - pixiv
どうせ大したネタでもないだろうと思ってたら、その後、延々と、単行本での大幅加筆、今回の樺太篇、それに札幌篇で宇佐美との確執まで引っ張るなんて……っ

勇作さん、アニメには2期19話に既に登場してるのだけど、今回初めて声が付いた 相変らず最近の声優さんのことは全然知らないんだけど。
畠中祐という方だそうな。
第三期 新キャラクター&キャスト発表 第4弾ッ!! -TVアニメ「ゴールデンカムイ」公式サイト-
あーこの人もイケメンボイス。

なんですか。
ヴァシリにしろ、勇作さんにしろ、なんで尾形は、美形キャラにモテるんですか。

その一方の美形なヴァシリと、前回から引き続いて一発やり合う下りから今回はスタート。
原作だと雪を囓ってる尾形、なんだか化け物じみた描かれ方してたんだけど*2、アニメではその演出はしない模様。

ヴァシリには、妙なプライドがあって、それが彼の弱点になってるっていう。
キロランケを撃てなかったことで尾形にそれを見抜かれた。
そのプライドは人間らしいといえばそう。
人であることを捨てられなかったヴァシリの負け。

原作だとヴァシリ、念を入れて5発撃ってたけど、アニメでは1発に。*3

尾形が銃を構える、この銃の動きが気持ち悪いくらいに滑らかで、却ってイイ。
ゆる~~って。
このアニメ、たまに、コマ割りが細かくなる。

その後、尾形が勇作さん見ちゃうシーン。
原作だとモノクロだから、静謐な、幽玄な雰囲気があったけど、アニメだと禍々しさが強調された。

勇作さんが、とことん、静かに、優しく、兄様に接してる。
自分は血を流しながら、兄の身体を気遣ってる。
「寒くありませんか?」って台詞、コワイよ。
これが後々、勇作さんが振向いちゃうシーンに繋がってくる。

あくまでも尾形の主観でしかないので、もしかすると実態以上に美化されてるのかも知れないけど!
尾形の目線なので、勇作さん、優男のイメージがあるんだけど、あの聯隊旗、30kgぐらいあるんだそうで、それを振りかざして駆けてくんだから、勇作さん、相当にマッチョなはずなんだ……*4
力一杯抱き締められたら、尾形、肋骨折れるんじゃないかと危惧してたけど、アニメで、ソフトに抱きついてる……よかった……

常にクールな尾形と、戦場では勇ましいのに兄様の前ではすっかり恋する乙女になるって起伏の激しい勇作さん。
二人の対比が面白い。

この勇作さんの声の演技がスゴいと思った。
戦場では味方と自分自身を鼓舞する凜々しさ、猛々しさ。
尾形の前では優しい弟くん。
明け方の死屍累々とした戦場で、必死に兄様と対話しようとする懸命さ。
どれも勇作さんなのだなあ、と。
単なる化物ではなくて、人間としての勇作さんを演じられてる。

正直、尾形と勇作さんのエピソード、特にこのシーンについては、未だに、整理付かない。
何故に尾形が勇作さんを殺すことに決めたのか、感覚的にはワカルんだけど、上手く言葉にならない。
アニメの公式サイトによると、「尾形は、彼の存在自体を否定するかのように、」とある。
勇作さんが尾形の有り様を否定したんだと思ってるけど、尾形もまた、勇作さんのことを否定したと。
二人は住む世界が違うようだ。

日本の伝統的な文化が恥の物語、西洋・キリスト教が罪の文化だとすると。
ゴールデンカムイ』はとことん、罪の物語であり、王殺し、革命の物語。
その王殺しを最も象徴してるのが尾形なのだけど。
しかし彼は新たな王になるわけではなく、ただ王を殺すだけ。革命ですらない。本来は王殺しの大罪の贖いとして新たな王が秩序をもたらすのに、彼は秩序に興味がないゆえに、罪の意識もない。

弟くんに罪を問われて、彼は心底、とまどいを見せる。
強がって「そんなものない」といってるのではない。罪悪を頭で理解はしても、実感しないのだ。
その戸惑いと、罪悪感の有無が、声の調子に現れてる……ように思ったんだけどなー?

二人は脳の構造が違う。脳が違えば、脳が作る世界が違うのも当然。
勇作さんの脳=世界には殺人への本能的な禁忌、罪悪感があり、尾形にはない。

勇作さんに抱き締められたときに、尾形が殴りつけて兄弟喧嘩をしていれば、肉体の痛みという共通した感覚で、同じ世界に居られたのにね。

撃たれた勇作さんが振向いちゃう。このシーンも原作でもゾッとしたけど。
アニメではさらに、勇作さんの目が赤い。
尾形の恐怖心の現れなんだろか?
「悪いことをするやつは見られることを怖れる」と言うので、今まで勇作さんや母の顔が描かれなかったことは、尾形の罪悪感だったのか、どうか。

遊郭のシーン。
相変らず鶴見がイヤらしいwwww*5
んだけど。
勇作さんのことを「高貴な生まれ」と言ってるのがちょっと気になってる。
尾形、血統にコンプレックスがあるんだか……
父親が同じなんだから、「高貴なお生まれ」っていうのは、恐らく、花沢幸次郎の正妻、勇作さんの母の血統のことかな?(花沢将軍のモデルの大迫将軍は、薩摩武士の出身だけど、戦功で授爵されてこの時、男爵で、日露戦争の後で子爵に)
花沢将軍の正妻は、もっと位の高い華族とか、堂上家の出身なのかなあと推測。*6
堂上系は特に、世俗の権威とは別に、格式に煩いので、勇作さんが兄弟の序列にこだわるにもワカル。将校の勇作さんが下座で正座、兵卒の尾形が上座で胡座かいてるとかね。*7

津田尾形氏と、芳忠鶴見氏の陰謀、アニメ19話の馬車の中のシーンもそうだけど、老獪な策士と、冷徹な工作員の悪役同盟という感じで好きだ。
戦中までは二人の蜜月時代だったのにね。
原作だと後々、宇佐美がここらに関わってくるんだよなあ……あの戦場のシーン、あの場に宇佐美もいるんだと思うと、背筋がぞわぞわとして、ヤバイ。
尾形と勇作さんだけでは、話が終わらなかった。

いったん別れた白石が翻心して一行を追う。
この逡巡、イカニモ白石らしいって思う。
アニメ25話のラストで白石の台詞が大幅に改変されて物議を醸してたのだが。
私としては、あの悲観的な白石もアリだと思ったし、原作でアシリパさんを励ますような白石はちょっとカッコよすぎるとも思えた。
それで、今回、白石の、杉元の言葉を思い出しての翻心が活きてくるように感じたんだけど。

*1:
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*2:
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能面の化物が白目の部分を金や赤にしたりするので、この尾形も、人間辞めてる描写なんではないかと。

*3:ヴァシリの得物モシン・ナガンは装弾数5発だそうだから、全弾撃ち込んだことに。→モシン・ナガン - Wikipedia

*4:日露戦争のとき、第1聯隊の旗手だった猪熊敬一郎って人の手記「鉄血」という本が面白い→猪熊敬一郎『鉄血』 - day * day

*5:正直、芳忠氏の声だと、貫禄ありすぎな気がしないでもない……鶴見、この時点で30代のはずなんだ……1866年あたりの生まれなので。

*6:実際、例えば、西郷従道の息子は岩倉公爵家の娘と結婚してたりするので、軍人と公家の縁組は珍しくもない。

*7:席に着くまで二人の間でどんなやりとりしたのか気になる。尾形はそこで率先して自分から上座に着く人物ではない――「規律が乱れる」等と外見上は秩序を重んじるように振る舞うから――お互いに「どーぞ上座へ」って言い合って、最終的に勇作さんが上官命令で尾形を上座に着けたのかもだ。