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日々是々

金神299話「許し」感想 ゴールデンカムイ

相変わらず義眼がデケぇ

……はともかくとして。

尾形 この一発は何を撃つ一発か…
って、それ、誰が誰に言ってるんだ。尾形、なにを撃ちたいんだ。
もしかしてまた第四の壁ぶち破ってる?
だけど、相変わらず、尾形の目的も、鶴見の大義もわからない……

一方で、ソフィアと鶴見。
許し、とは。

私はずっと、鶴見が真に許せないのは、鶴見自身だと思ってるんだけど。
長谷川さんの悲劇の根本原因は鶴見のスパイ活動なのに、彼はそれには一切触れないで、ウイルクやキロランケ、ソフィアのせいにしてるけど。
3人が来なかったとしたら、妻子がいるとこにいきなり秘密警察が踏み込んできたことになる、そしたら鶴見はどういう行動取ってたの? その事態を予め想定してないはずもないだろうと。

鶴見「キミのこと許した」
といってソフィアとウイルク(の肖像)を撃つ、じゃあ許してないのは誰のことかって言ったら、私は、鶴見自身のことだと思ってるんだけど。

本人が一番聞きたかった言葉を贈るのは、鶴見自身の罪悪感の払拭かもね?
「甘い嘘」というやつだ。

大義のために他国に潜入して妻子まで作る、ってとこまでは、鶴見とウイルクは同じ。
でも鶴見の妻子は非業の死を遂げた。
もしかすると鶴見は、自身への憎しみを、嫉妬を経由して、ウイルクへの憎悪に転嫁してるのかもね? 
鶴見の怒りの底にウイルクへの嫉妬があるのだとすると、なんだか、真の創造主に嫉妬したデミウルゴスっぽいじゃん。だから鶴見の言葉は信用出来ない、彼の大義にしても個人的な感情にしても。彼が偽りの創造主でしかないから。
ウイルクが遠大な民族運動の大義を唱えていたことは、信じられるにしても。そのために北海道に潜入して、根を下ろし、新たな人生を作ったけどそもそもの民族運動も忘れていなかった。
だけど鶴見は? なんでウラジオストクに潜入してたの? それは彼自身の大義ではなく、恐らくは軍の命令に従ったに過ぎない。
妻子の復讐って目的が出来たにしても復讐相手は誰だというのか。戦死者たちへの贖いという彼の言葉すら疑わしい。

取敢えず革命家たち三人衆は皆死んだ、ウイルクは尾形に殺され、キロランケは鯉登たちに、ソフィアは鶴見自身が仕留めた。
彼らへの恨みがあったにしてもここで果たされたことになる。
しかし月島の背後で絶叫する彼は、復讐を遂げた歓喜にはとても見えないが。
次々と死んでく仲間たちに悲嘆するアシリパさんとの対比。
谷垣は白馬に乗ってアシリパさんを助けに現れた、それは「白馬の王子」に擬えてるのかも知れない。
同時に、隣のページに描かれる月島と鶴見が乗ってるのは、なんだか、青ざめた馬に見える――それに乗るのは死神だ。

月島は、地面に散った矢を目にしてるので、アシリパさんが矢筒の中に権利書を持ってると気付いたことだろう。
果たして、鶴見の目的は権利書なのか、アシリパさんの死なのか?

ゴールデンカムイ』の作中では、満洲問題をボカしてしまったので、鶴見と中央の対立、花沢将軍の反対論が取って付けたような感じになってる……
だから鶴見の大義がよくわからない。*1
まあ恐らく鶴見の野望は頓挫することが見え見えなんだけどね。
ロシア革命もすっ飛ばしたので、案の定、ソフィアもここでリタイアだしね。*2

結局、ソフィアが民族運動に参加した強い理由は語られないままだ。
なにが切掛でウイルクたちと出会って彼らにシンパしたのか。
そして何故、ウイルクたちと共に日本に来なかったのか?
彼女は「愛しているから」といった。見込みの薄い黄金探しよりも、組織固めのほうを優先した? もし彼女がウイルクたちとともに日本に来ていたなら、ウイルクが北海道で妻子を持つことも、あるいはインカラマッと出会うこともなかったかもね?

最後の最後に出てくる尾形……
作者様にとっては尾形の役目は樺太篇で終わった、後はファンサービスのために出してるようにも思えるけども……だって彼が中央だの権利書だのって、すごーく後付けっぽくない? *3
一方で、彼が来週、300回記念にも登場するのだとしたら。
彼は、100回・200回の記念回にも登場してるたった4人のうちのうちの一人なのだ。
杉元・アシリパさん・白石に、尾形も加えた4人が、この物語全体の主人公なんではなかろか?
核になる肉体の杉元に、利己的な理性の尾形、良心的な理性を与えるアシリパさん、衝動を司る白石、て、綺麗に対応してるしね。
杉元が尾形を憎んでるのは、尾形が徹底して利己主義の象徴だからだろう。杉元は、親友を救えなかったこと、周囲の人々に対して常に「役立たず」であること、利他的でいたいのにそれを叶えられないことに自責の念を抱いてる。
だけど、杉元の父親は、死に際して、自分のために生きろと言い遺している、利己的な生き方こそが父の遺言だったのでは。
そして、自分のために生きられずに死んでいった勇作さんの存在。
杉元は知らないことだけど、尾形が勇作さんを殺した動機は自分が幸せになるためっていう利己的な理由。

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今週の質問コーナー、冬の名作映画といって、「グレムリン」挙げちゃう作者様が、とっても、らしいと思います。
クリスマスの夜に主人公である子供が不思議な小動物と出会うって、典型的なクリスマス映画なのに、監督のジョー・ダンテ節全開のグロカワホラー映画じゃん……
たしかにギズモはカワイイかも知れないけど、その後、延々と、グレムリンと人間の殺し合い(スプラッタ風味)が展開されるっていう……子供は大喜びだけどね!
いきなりヒロインが「クリスマスの夜に父が死んだのでクリスマスなんて大嫌い」って話し始めて鬱になるとかね……*4

*1:例えば、夏目漱石の「満韓ところどころ」に描かれるような、満洲の未来都市のような光景は、『ゴールデンカムイ』の作中からはまるで伺い知れない。

*2:いや本来なら、彼女ら、ボリシェヴィキでしょ……レーニンがヨーロッパ点々としてる頃だし、黄金が革命の資金になるはずだったのに。8巻からすると、一応、この世界にレーニンもいるはずなんだけど。

*3:権利書の破棄が目的だったらアシリパさん樺太に連れてく必要なかった、どっかで殺せば良かったんだしね? ウイルクとアシリパさんが死ねば、誰も権利書と黄金の在処を突き止められない、暗号の解読も出来ないんだから。

*4:クリスマスの夜、父が帰って来なかった、しばらく後で家の暖炉に火を点けたら煙突になにか詰ってる、煙突を調べたらサンタクロース姿の父が煙突の中で死んでた、と。