金神 9巻の感想 上 ゴールデンカムイ - day * dayの続き。
話は唐突に、もう一方のパーティに。
まず白石の“脱獄ロマンス”……紙本版で8巻の最後の次号予告に使われた扉絵。
白石、確かにスゴイ、凄いんだけど! 身体能力とか、ありとあらゆる手を考えつく発想とか一途な行動力とか!
しかしどうにもビロウになるのも、彼らしい……モザイクまみれで雨に向かって腕広げてる、この絵は『ショーシャンクの空に』の名場面なんだけど、うーむ;
樺戸は1903年に集治監から監獄に名称変更になったとある。白石が最初に入ったときはまだ集治監なので劇中の現在が1906年とすると白石は少なくとも23歳以上ってことに。まあ妥当な年齢だ。
雑居房の数字が13号室なのはもしかしてフットレルの『13号独房の問題』*1引いてる?
白石がやったら脱ぎまくる。
熊岸、白石ともう一人の同房者は3巻で土方に殺された渋川善次郎。
全国御当地刑務所巡り……ここに出てくる刑務所群、明治時代の建物だけあって、どこも重厚な煉瓦積みが見事。今はなかなか作られないよねー。
白石が飛び跳ねてるコマに描かれてるのは奈良刑務所だけど、説明が書かれてない。奈良刑務所の建物は1908年に竣工のはずなので、もしかすると劇中の年代は08年以前(だからホントはまだこの建物は存在しない)を示唆してるんだろうか?
追記。2017年2月に、重要文化財に登録されたそーですよ、この建物。 http://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/2016102101.htmlwww.bunka.go.jp
白石の元ネタは「昭和の脱獄王」白鳥由栄だけど、ここで披露されるエピソードはいろんな脱獄囚の逸話を元にしてるぽい。農夫に捕まったというのも実際の逸話。
網走でも懐かしい面々が。
辺見ってタナトフィリア、死そのものに惹かれてるんか、と納得。
84話からずっと引っぱって、ようやく逢えたシスター宮沢、…………え?
・・・・・・・・・・うん
まあ。
熊岸の趣味……個性って大事よね(棒
ちなみにこの“脱獄浪漫”篇はほとんど単行本での変更ないんだけど、数少ない修正個所に笑った。
な・ぜ・に・そ・こ・を!?
そして網走では土方や他の“刺青仲間”の面々、それにのっぺらぼうに出会うことになるのだね。
24人に大きな刺青入れてるんだから、かなり時間かかったんじゃないかと思うけど。
というか、白石、よく耐えたな、彫り物に……
それから、土方と永倉の回想。
ジジィ二人の邂逅もさることながら、犬童が貫禄のあるキャラだ。
「奴の眼から光が消えたら 吊してやる」なんて、こういう台詞が痺れる。
永倉は若いころから晩年まで肖像写真がちゃんと残ってて、このキャラがまた写真にソックリ、だけど、ちゃんとこの作品の中の絵になってるのが、さすが。
二人の老人が40年の距離を遡ってく。
土方が徐々に若返るのに対して、永倉が「女遊びは」云々の台詞で一気に若返るのにワロタ。そこ大ゴマでいうこと!? いかにも直情径行、ガムシャラな彼らしい。
ガムシンが年相応に老成したのに、土方、ちっとも変わってねえ。
87話の扉。
咄嗟に、[白魔、騎士、戦士、狩人]*2のパーティに見えてしまったワタシはゲーム脳。
……足元の影が昔のゲームっぽくてつい、そんな連想が。
ところで連載時、
大絶賛じゃないの……?*3
谷垣一家が茨戸に。
……チカパシはおっぱい星人だった……
なにこの設定厨。というか幼くして家族亡くしたので家族の感覚が実感できないのかもね。
インカラマッ、断らんなー。本作のメインキャラで貴重な“本物の”若い美女、しかも巨乳なのに、ちっとも色気もなにもないっつーか。
そしてナゾの多いコタン篇。疑問が次々と。単行本で解消されるかと思ったらそーでもなかった……
贋のコタンに二人の贋物師が登場。
夕張~月形間、Google Mapで見ると、道道沿って60キロ弱とある。
トレッキングが趣味でもないワタシからすると、この距離、しかも山の中の道無き道を3泊で踏破って信じらんないけど!
杉元一行、若い男性中心だし、アシリパさんだって山歩き得意だし、やっぱ、すごい健脚だ。
土方一行は年配者多いけど馬あるしなー……キロランケだけ歩いてるのは、彼が一番、歩き慣れてるからよね。
熊岸の元ネタは明治初期の熊坂長庵。贋札事件の犯人として樺戸に収監され獄死したそうな。
松本清張が短篇を書いてるらしい。
熊岸がいうには「一年前の春にここに連れてこられた」、そのとき、鈴川は「最近網走を脱獄した」といってる、と。この“最近”て、“1年前(の樺戸の集団脱獄の事件)の最近”なのか、とやっと理解した。
今まで網走の事件がいつなのか明記されてなかったけど、これで、“現在”からだいたい1年ちょっと前とわかった。
つまり劇中のリアルタイムを1906年*4と推測すると、04年後半~05年の春のあたり。日露戦争の真っ最中だ。
第7師団は旅順攻囲戦に駆出されてるから、事件起したのは居残り組、補充大隊とかなんだろな。
杉元の錯綜がナゾ。
最初からコタンの住人を怪しんで相手を油断させるためにボケたおしてるのかと思ったんだけどな。
アシリパさんはあきらかにコタンの住人達を怪しんでワザと不作法働いてるのだよね。
だから彼女を幼稚に見せて自由に行動させるために杉元が示し合わせてるのかなと思ったのに。
家に招き入れられるのを待つ間、尾形なにやってんすかと思ったら蝶を追ってるのね……前夜のコマといい猫化現象が進行してく……
追記。かなり後から気付いたけど、尾形が追ってるこの“蝶”って、ココロとか魂の象徴なのか! 彼は自分にココロがないと自覚しちゃってる。
家の中で杉元が帽子脱いでるのが珍しい。アシリパさんは(ワザと)頭巾とらないのに。
いつも無駄口叩かない尾形が口を開くと一気にその場がサスペンスフル。
いきなりケンカ売ってるし。
アイヌ女性の「ウンカオピウキヤン!」が二度くり返されて、二回目に初めて日本語訳が付くってちょっと面白いと思った。
この時点で不信感露わにしてるのは尾形とアシリパさんだけなんだ。
しかし杉元が帽子を被りなおしてる。これって無意識に戦闘準備の心理なんかと気付いた。
つまり杉元も心の奥ではコタンの男達を怪しんでてSOSを察知してるんだけど、権威主義に由来するバイアスに陥って、無理に彼らを信じようとしてる。後々そのバイアスを指摘されてぐうの音も出なくなる。
尾形は権威とか嫌いで“冷血漢”である故に、バイアスに陥らないんだよな……というか、性格に難があるのに上等兵になるくらいだからやっぱ優等生だ。
シリアスなエピソードなほどギャグが多くなる。
アオリは稲川淳二だったし。
ジェスチャーゲームとか、なんだこれ(笑)
納涼バラエティー番組のノリだ。
“耳長お化け”こと“キサラリ”受け取るときの尾形の笑顔、この顔はコワイやつ。6巻で署長シメたとき思いだす。小指だけで勘弁するとは優しいな!
弟くんが戻ってきたとき、尾形、喋りながらエクロクたちに背を向けてるけど、これは壁に立てかけておいた銃を取りに行ってるのだね。
89話の冒頭でいきなり銃を手にしてるのが謎だったけど位置関係考えたら氷解した。
89話の扉、『地獄の黙示録』のアオリだけど、どうみてもセガールです……*5
特定のどの映画ってわけでもないようだけどセガール映画のポスターってこんな図ばかりだ。
アシリパさんの危機を察して杉元が一気にモードチェンジ。
ここからバトルに。バトルというよりはほとんど一方的なジェノサイド。超獣大乱闘。
たぶん戦場のシーン以外で一番に死者多数のエピソードじゃなかろか。
杉元に銃を投げて寄越す尾形の、 「銃から目を離すな 一等卒ッ」
て台詞が、なんだかツボった。
今までコウモリだの猫だの言われてきたのでその意趣返しか。
で、今度は、杉元のピンチを尾形が助けてる、そこの台詞は82話の意趣返し。でも杉元気付いてない。
こういう遣り取りが、
く~~~っ o(*_ _)ノ彡☆バンバン
ワタシの萌えポイント。
牛山大暴れ。おっさんひとり片手で軽々とふりまわしてぶん投げてるし。
あの羆の檻はどう見ても地雷っぽいと思ってたら、踏むのはやはり牛山だった。
そして素手でヒグマにすら勝ってしまう牛山……すげえ……すげえとしか……
ほらっヒグマといってもまだ子供だしっ?
杉元一行からすればヤクザ者どもなんかザコだろうよ。
脱獄囚たちも全滅するまで戦わんでも……(でも命乞いしてもきっと女達は許してくれない)
元のコタンの男達が脱獄囚たちに皆殺しにされたのだから女達の復讐は当たり前だし脱獄囚どもに報いを受けさせたいってのも自然の感情。
だけど死屍累々の光景はアシリパさんには見せたくなかったな……
軍人どもは見慣れてるんだろうけどさああ。
呆気なく熊岸死んだ――!
入れ替わるようにレタンノエカシこと詐欺師の鈴川の登場。
誰が鈴川なのかっていうのは惑わされた人も多いよなーきっと……ワタシも本誌で読んでて全くわかんなかったし。
えええええコイツが!?
熊岸の回想に出てくる鈴川って体格まで違わないか……?
鈴川聖弘の元ネタは鈴木和宏、通称クヒオ大佐なんだろうけど。
……2016年現在存命なんだよな、クヒオ大佐って……
贋のアイヌ達に贋作師と詐欺師に贋札工房って、とことん贋物尽くしな贋コタン篇。
熊岸の台詞がちょうど8巻の最後のほうの鶴見の台詞と対句になってるのがニクイ。
たった一人のためにでも真に芸術家たろうとする熊岸と、目的語のデカい鶴見との、価値観の相違があって面白い。鶴見は芸術家ではなく政治家だ。
江渡貝くんと熊岸もまた芸術家として対を為してる。
芸術論まで出てくるとは侮れん(いや侮る気は一切ござんせんが)
鈴川が起こしたとされる樺戸の脱獄事件、結局、謎のままなんだよな……
20人以上脱獄したはずなんだけど、大島は何事もなかったように典獄続けてて86話に出てくる。
どうやって隠蔽したんだろか。
9巻通して杉元らの意外な面が描かれてて面白い。
というか杉元の態度がオカシイ。
相棒であるアシリパさんがすっかり懐いてる牛山に対して、杉元はまるで嫉妬するわけでもない。
なのに、杉元、どういうわけか、尾形に対してはケチな悋気を燃やしてるのだ。なにかとマウンティングしてみたり。
杉元は戦士であることに自分の存在意義を見出してるのだなあと気付いた。純粋なアタッカーというか。
アシリパさんが無邪気に言った、「杉元は銃がヘタクソだから妬ましいな」ってのが図星なんだろか。
防御よりも攻撃を選ぶ。たとえば辺見とのアフェアにしろ、家永ホテルでの牛山との格闘にしろ。
そもそも、寅次が死んで、梅ちゃん守るために娶ろうとするわけでなく、北海道で金塊探ししてたりする。
戦場で死線を潜ってるうちに戦士として鍛えられたのと、家族もいないので仲間のために必死なんだろうけど、守るというより敵を攻撃するほうに動いてしまう。
で、挙げ句、アシリパさんまで怯えさせてしまうなんて、不器用な男だ。
その不器用さがカワイイ……っ
カワイイけど、こういう行き違いがいずれ“ペテロの否認”のようなエピソードに繋がるんじゃないかって、不安の種が。
そんな杉元の凶暴性を白石は敏感に感じとってて裏切がバレる前に逃げ出そうとする。
そういや杉元に面と向かって「信用してない」って言われてるし。
ところが軍隊に出くわしてあっさり正体バレて、また一騒動になって、以下、続刊。
余録。
90話の扉、連載時はカラーだった。
単純にカラーをモノクロ化したわけじゃなく、単行本向けにモノクロ画像として作ってる。
同じ線画から、カラーとモノクロそれぞれを作れるってのは、デジタル作画ならではの利点の一つだ。
「さあ、やろうか」ってアオリが入ってたんだけど、これ、場面からして白石の夢の中なのよね。
なにをやるってんだっ……?
更に余録。
予告ページの磔刑図は94話の扉……本誌のときは白石に刺青描かれてなくて、網走前の絵かと思ったけど、ここではちゃんと刺青はいってる。
ちなみに白石磔刑図、3回も描かれてるwww 磔刑の図鑑みたいだ。