金神192「契約更新」感想 ゴールデンカムイ
扉でいきなりなにやってんすか。
しかも「きみのたま」とかしっかりゴロ合わせやがって。
先週から20巻分で、今週からいよいよ本格的に新章突入てところ。
ビッグマグナムで一躍話題の菊田特務曹長*1、あれ、彼は鶴見の部隊じゃないのか。
アイヌの日本兵、有古一等卒、キロちゃんと入れ替るように登場して来ましたよ?
イイ面構えだ。
アイヌ側からの日本社会への関わりも様々で。なんだかんだ言って大和朝廷の成立から此方、アイヌと和人はつかず離れずの関係で、和人側の政治の変動でアイヌも翻弄されてる。 近代になってロシアと日本の領土争いに巻き込まれて、明治政府に、対等な日本人として認めさせるために、志願したアイヌの兵士達もいたり。
八甲田山遭難事件のときの、アイヌの捜索隊が活躍した逸話もあることだし。(→1902年八甲田山遭難事件『遭難始末』 - day * day、1902年八甲田山雪中行軍遭難事件 - day * day)
そういえば、鶴見の部下や仲間じゃない軍人も、この物語ではあまり出て来ないので、ちょっと新鮮。
彼等のスタンスが掴みにくい。
アニメ作品でもそうだけど、鶴見の一味を「第七師団」って説明ついてると、なんだか居心地が悪い。いや所属はそうだけど、鶴見は師団をひそかに裏切ってるし。
師団もけして一枚岩なんかじゃないから、“鶴見の仲間じゃない”第七師団のメンバーが出てきた。
知らんぷりしてる宇佐美。
彼は、都丹庵二が刺青の脱獄囚だってこと知ってるんだよね。
鶴見は脱獄囚のこと全員、現状はともかく、刺青の脱獄囚が24人いることと、その全員の名前と出自については、掴んでるだろうし。
脱獄計画の一環として、土方やのっぺら坊が、刺青の囚人達の情報を外に洩らしてるはずなので(釈放される囚人や看守に、話を広めるよう仕向けたとかね)。
だけど、菊田や有古は、刺青の脱獄囚のことは知らないのか。
というか、有古、アイヌとして金塊に関わりあったりしない?
5年前の事件とかさ。
そして何故か裸で山ん中彷徨いてた都丹……
二階堂、正気に戻ってるなあ。
有古、ちゃんと、同じ階級の二階堂にはタメ口で、それ以外の宇佐美・菊田には敬語使ってる。
宇佐美「じゃあそいつもアイヌでは?」のコマの宇佐美、なんか妙に美形だ。
宇佐美、真面目な顔してると、けっこう美男子なのにね。
忙しいってなにが!?
一人称、「僕」なんだあ。
都丹「今度見かけたら教えますよ」……これ都丹に言わせるとか、悪趣味だw
いっぽう樺太では。
そういや、アイヌもニヴフも、ピアッシングしてるんだ。
むしろ、和人や漢民族なんかの儒教文化圏でピアスや文身を嫌うって伝統のほうが珍しいのかも知れない。*2
アイヌの服、北方民族なのに、南方の着物と同じに合わせ襟っていうのが例外的なんだそうで、アイヌ民族が南方にルーツがあることの一環って説。
尾形はまだ意識不明。
また勇作君見てたりしないか?
谷垣「この男が少数民族の独立に共感するとはおもえないが」
デスヨネー
鯉登「本当に純粋に金塊が欲しいだけなんだろうか」
樺太篇の最大の謎の一つ。
何故に尾形がキロについたのか、てのも、謎。
土方の構想は夢想的過ぎる。
で、キロたちの民族運動や革命がマシと考えたのか。
https://twitter.com/FaoMao/status/1046300522053943296
前々から気になってるけど、今になってこの話題が出て来るってことは、ウイルクの死は単に、キロランケとの内ゲバではないようだ。
彼が今後改心して知ってることや心情をすべて打明けるとは思えないけど。
尾形の目的っても、尾形、アシリパさんを穢すために死のうとしたよね!? 本来はもっと別の目的があっても、どうでもよくなっちゃったの??
彼には、金塊を手に入れるとか、或は中央だの鶴見だのの陰謀の一味だのってまだ語られてない物語上の目的の外に、メタに、父≒神を殺すって目的があるように思えるのだけど。
ウイルクの死で5年前の事件の真相が遠のいて、キロランケの死でウイルクの死の理由が遠のいてしまった。
どっちも、実は、尾形が知ってるのかもだ。
月島が。
スヴェトラーナを何が何でも連れ戻す!っていうんじゃなくて、ちゃんと彼女の意志も尊重してるとこがイイ。
賢い。
岩息がいるからかな。
しかし、スヴェトラーナと岩息の冒険譚ってスゲエ気になるんですがっ。
それはまた別の話
って措いて物語世界を広げてく演出って、好き。
エンデの『はてしない物語』思い出させる。*3
杉元とアシリパさん。
やっぱりそういう話になるよねえ。
鶴見の目的にはアシリパさんは不要だから、アシリパさんをジャンヌ・ダルクに仕立てたい土方やキロより、鶴見のほうが、杉元には都合がいいのかもだ。
金神14巻の感想 ゴールデンカムイ - day * day
でもさ。
アシリパさんをこの金塊争奪戦から解放するんだ
……って、それ、あくまで杉元の願望よね?
アシリパさん自身の意志は確かめてない。*4
どころか嘘吐いてまで、アシリパさんを、可憐な少数民族の少女のままでいさせようとしてる。
81話の「最後の晩餐」パロを踏まえると、この「嘘」はもしかして、聖書にある「ペテロの否認」に擬えられてるのかも知れない。ナザレのイエスが捕まったあと、兵士に職務質問されたペテロは、第一の弟子なのに、自分は知らないと嘘を吐いて逃げた。人間の臆病さ・弱さを説く話だけど、杉元の嘘も、彼女の真の想いに気付くことなく、身勝手に少女に縋ろうとする弱さ、愚かさを意味してるようにも思える。
彼女自身がホントはなにを望んでるのか――のっぺら坊の目指すアイヌの独立運動なのかそれとも杉元の望む平穏な生活なのか、それって、のっぺら坊も杉元も、知らない。
アシリパさん本人の意志は、誰も知らないどころか、気にもしてない。
杉元も、のっぺら坊も、自分の希望を、彼女に託してるだけだ。
金神14巻の感想 ゴールデンカムイ - day * day
その後の歴史を知ってるなら、確かに、杉元が望むようにアシリパさんはコタンに帰って平穏な暮らしを送るのがベストではあるんだけどさ。
この物語の10年後、1917年にはロシア革命が起きるし、やがてWW2から終戦に。
アシリパさん、21世紀まで生きることだって有り得るし、もう、伝統的なアイヌではなくて、アイヌ系日本人として生きることになる(もちろん和人も伝統的な生活ではなく、どんどん文明化・洋化されてく)。
で、しかも、これ、尾形と全く同じこといってるじゃん。
尾形「アシリパもこの殺し合いから「上がり」だ」
尾形「コタンに帰って婆ちゃんに元気な顔を見せてやれ」
尾形「お前がそんな重荷を背負うことはない」
(185話『再会』)
尾形は後段アシリパさん殺そうとするくらいだから、単に彼女を言いくるめたくて思い遣ってるふりをしてるだけなんだけど、杉元も、利己的なパターナリズムが擬装した思い遣りで、同じことを言ってるって、皮肉。
アシリパさんの当座の目的は、父が死んだ理由を知ること。
単に、キロランケとの争いではないと見てる。
それは金塊を探す過程で明かになると思ってるようだ。
アシリパ「じゃあまだ道は同じだな」
杉元「契約更新だ」
これ、読者との間の契約も更新されたってことかな。
1~5巻:囚人狩り。
5~14:網走でのっぺら坊に会う。
14~19:杉元とアシリパさんが再会する。
と来て、
19~:金塊探し、って、初志回帰。
だけど、アシリパさんは、杉元やみんなが金塊争奪戦で殺し合うことを憂いてる。
殺し合いの末に金塊を見つけてその先は?その金塊を使って更に殺し合うのか? (164話「悪兆」)
杉元にとっては、金塊を見つければ終わりなんだけど、アシリパさんはもっと先を見てる。
アシリパさんが、キーワードを鶴見に伝えれば、もう鶴見にとってアシリパさんは用済みで、「上がり」、解放されることになる。*5
でもアシリパさんは、金塊が見付かったら見付かったで、その後に予想される暴力を恐れてるんだ。
最悪、アシリパさんがキーワード秘めたまま死ねば、暗号解けなくなって、金塊の発見がかなり難しくなる*6、そこで争奪戦も殺し合いも終了になる。
だから、皆を救うためにアシリパさんが死のうとすることも充分有り得るわけで*7、それをどう回避するかが、杉元の最終目標になるのかも知れない。
*1:彼のモデルは『イングロリアスバスターズ』のブラピ説が有力なようだ。……頭の皮剥ぐの?
*2:
身體髮膚、受之父母。不敢毀傷、孝之始也。
身体髪膚これを父母に受くあえて毀傷せざるは孝の始めなり(シンタイハップコレヲフボニウクアエテキショウセザルハコウノハジメナリ)とは - コトバンク
漢民族も、古代は文身文化だったし、そもそも「文」の字自体が刺青入れた背中の象形文字。
*3:
映画『ネバーエンディングストーリー』の原作だけど、映画では原作の魅力がかなり失われてる。
*4:これ、梅ちゃんに対しても同じ。200円でアメリカ連れてくってあくまで寅次のプランであって、梅ちゃんの意志は全く確かめてない。→杉元と梅ちゃん、と寅次 - day * day
*5:土方達がアシリパさんを奪おうとするかも知れないので、決着するまでは保護することなるかもだが、鶴見にとっては、アシリパさんは敵にはならないので、殺す必要もない。
*6:でも、鶴見なら、他の方法でも金塊見つけ出しそうな気もする。金塊の量からして運搬と隠匿にそれなりの手間暇掛かってるはずだし、関わった人を探し出すとか、隠し場所にアタリ付けるとか。