あけましておめでとうございます
昨年は『ゴールデンカムイ』が終わって、それからが作品との向き合いかたが変わりました。
作品が好きなこと、特に尾形が大好きなことに変わりはないですが、作品を最後まで通して見ると、いろいろと合点もいくことも多く。
自分が尾形ファンであることに「間違いはない」というのが私の結論。
アニメの延期もあり、まだもうちょっと作品と付き合うことになりそうですが。
実写版もありますし、公式ファンブックや中川裕氏の著作も期待大です。
2022年に読んで面白かった本。
私が今年中に読んで面白かった本。ゴールデンカムイは除く。
あくまで私が今年に読んだうちなので、新しい本は少ないです。
読んだ順番。
ってのが特に印象的な一節。
帝国軍人|戸高一成・大木毅
なぜあなたは自分の偏見に気づけないのか|ハワードJロス
原題は「Everyday Bias」。bias=偏見。誰にでも偏見はある、それは生物としての生存本能ってところから始まって、でも現代社会では無意識の偏見が様々な問題を引き起こしている、と。
偏見を、「アリエナイ悪徳」として全否定するのではなく、自分の持つ偏見をまずは自覚して制御すべき、と。
モラルファンデーション理論*1とか、ステレオタイプ脅威*2の話も出てくる。
- 骨が語る兵士の最後|楢崎修一郎
主に南の島々で戦没者の遺骨の拾集・鑑定をしてきた人の――どっちかっていうと旅の記録か。骨の本人についての記述はアッサリ。人種による骨の違いは興味深い。
- リンゴの文化誌|マーシャ・ライス
リンゴの歴史、品種、等、雑多な話。筆者、レッドデリシャス嫌いすぎw
栽培の文化が中心で、利用法の話は案外少ない。一番大きな用途は、リンゴ酒用だったというのも。
カザフスタンのリンゴの故郷の森は幻想的だ……
つい庭にリンゴ植えちゃったよ!
- 手話の世界へ|オリバー・サックス
といっても手話の入門書ではなく。手話とはいかなるものか、歴史や現在、「一般社会」との関わりについて。
「言葉」とはなにか、と考えさせられる。
- 食の歴史|ジャック・アタリ
- 毒性元素|ジョン・エムズリー
「殺人分子の事件簿」*3の姉妹編。砒素・水銀・アンチモン・鉛・タリウムの5つについて、それぞれ章を取って歴史や事件などを詳しく。その他、錫なども。
17世紀の詩人サー・トーマス・オーバーベリーの事件が面白すぎる。国王の寵臣グループで同性愛関係のモツレで毒殺されたとか、なにそのBL。
- 堕天使殺人事件|ボリス・アクーニン
ロシアのミステリ小説。主人公がいろいろ危機に遭って助かって謎が解決される……
正直、「敵」のほうが魅力的だ。舞台が1876年、帝政ロシア時代なのが巧妙。最後のドカンがむしろ爽快に感じられる。
- 罪と罰|ドストエフスキー
いわゆる「ドストエフスキー的人物」については後世の諸作でイヤってほどお目に掛ってきたわけで。しかし、最も強く連想したのは、手塚治虫、特に「火の鳥」シリーズだった。
やはり金神も連想する……「作者氏ドストエフスキー読んでるのか」問題はちょっと気になるけど読書家らしいのできっとお読みになられてることであらせられましょう。読んでないとしたら、ドス氏と同じような境遇を経験したのかな?とも。飢餓感が相通じる。
ラスコーリニコフの「犯罪論」、ラスコーリニコフ、というかドストエフスキーが語ってるのは革命とか大きな「犯罪」についてなんだけど、実際にはケチな強盗殺人の正当化の方便でしかないあたりがラスコーリニコフの凡庸さだよね。むしろドス氏だ、真の革命家は。
- いっぱしの女|氷室冴子
1992年刊のエッセイ集……の2021年に出た新版。2008年に亡くなられた作家のエッセイが30年経って復刊されるのもエライ。
「少女小説家」と呼ばれた氏が受ける様々な抑圧の話も多い。前半、女同士の品定めみたいなネタが多いと思うと、シスターフッドへと収束していく。
- アイヌが生きる河|北川大
昭和~1990年代後半までの二風谷の現状、萱野茂と貝澤正を中心に。著者は和人のカメラマン。
「和人の輪郭としてのアイヌ」の言葉は重い。アイヌと和人だけでなく、様々な場で、「マジョリティの輪郭としてのマイノリティ」の構図は出てくる。
- 異貌の人びと|上原善広
世界中の様々な被差別集団のルポ。バスクやネパール、パレスチナ、等など興味深い、と思ってると、最終章が樺太のウイルタ・ニブフの話で俄然、興味の度合いが深くなる。彼らが先の戦中と戦後に歩んだ歴史もやはり重い。
- ニュートンと贋金づくり|トマス・レヴェンソン
アイザック・ニュートンの造幣局時代に焦点を当てた伝記、と、天才的偽金師ウィリアム・チャロナーとの対決。
……細部は興味深いんだけど全体を貫くストーリーが薄くて、いまいち面白みが。
通貨の意味とか、銀行とはなにか、とか、考えさせられる。
ニュートンはマジスゲエ天才なんだけど、中盤の精神疾患て水銀中毒じゃん? 彼はマルクス主義を先取りしてこの世の限界を見ちゃったんだ……でも神を否定出来なかったから、オカルト、錬金術に走ったのかもね?
- アイデンティティと暴力|アマルティア・セン
おそらく911の後の社会の分断に危惧して書かれた本。
著者は単一のアイデンティティで個人を語ることに否定的だし、そのアイデンティティでそれぞれの共同体に隔離、囲い込むことを共同体主義として批判する。それこそが社会の分断を生むと。
「アイデンティティ」という言葉をあまりイイ意味で捉えられなくなった一因。
- 隣に棲む連続殺人犯|ヘレン・モリソン
著者は長年、シリアルキラーの研究をしてきた精神分析医。「羊たちの沈黙」のクラリス・スターリングを地で行くような。
著者は遺伝子説を強く採る。エイドリアン・レイン*4と同じ方向か……でも「生れつきの犯罪者」って言い方はどうよ? 犯罪を実行するか否かは環境の影響が大きいんじゃ?
サイコパスとシリアルキラーを明確に分けてるのも興味深い。
柳下毅一郎の解説によれば、モリソンの先天説はすべての宗教や道徳教育を無価値にしかねないと、反対意見が多い、と。遺伝子説に対する環境要因説には思想的な面が強いってのに納得。
- 殺人少年|ドロシー・ルイス
著者は刑務所の精神科医。1998年原著。少年時代に殺人事件で死刑判決を受けた若者(たまに成人女性)の研究をしてる。
出てくる例がどれもヒドイ生立ちばかりで気が滅入る。
「人を殺してなんの罪の意識のない人間が本当に存在するのだろうか?」という著者の探究は興味深い。
- 世界史を動かした脳の病気|小長谷正明
脳神経の専門家のエッセイ。2018年刊。
ヒトラーがメタンフェタミン中毒だったって説を前に聞いてて。シャブでもないとやってらんないのかと思ってたら、パーキンソン病を発症してて、覚醒剤は一時的に症状を緩和させるのだと……うーむ。
そんな歴史上の有名人の脳の病気と世界に与えた影響。
- 片手で自絞死できるか?|桂秀策
1998年刊。法医学の泰斗による実際の法医鑑定の事例。まるで法医学サスペンスのノリ。
なんといっても書名がキャッチー過ぎる。結論としては、現実にそういう事例があったと。
著者の専門は血液鑑定だそうで、冤罪事件に触れて何度か出てくる「血痕鑑定の大御所」って、古畑種基だよなあ。
- 暴走する日本軍兵士|ダニ・オルバフ
イスラエル出身の情報将校による、幕末~WW2終戦までの日本軍の「暴走」についての研究。
維新前後の志士から西南戦争、閔妃暗殺、満洲事変、昭和維新……とそれぞれのフェイズの首謀者や事件の詳細。
日本軍には伝統的に愛国無罪・上官不服従の文化がある、その集大成が226事件であり、その後の大戦と敗戦に帰結する、と。一貫したストーリーは明確で、ナルホド、て思っちゃう。
- ヴィクトリア朝の下層社会|ケロウ・チェズニー
ヴィクトリア朝中期の下層社会のお仕事名鑑、みたいな。1991年の刊行の割、旧字だったり、なんか古いぞ……
ちょうど「アサシンクリード/シンジケート」の時代なので興味深い。
- ポピーと桜|小菅信子
軽いエッセイ調の語り口なのに、内容は深く重い。WW2中、ケンブリッジの町から出征していった兵士たちがシンガポール陥落で日本軍の捕虜となって辛酸を舐めた、その記憶のあるケンブリッジの町と、日本人の研究者の、和解のための戦記。
「和解とはなにか?」。英語のreconciliationには「帳尻合わせ」の意味もあるというのがナルホド、と。
単に、日本軍が悪い、英兵は被害者、てわけでもなく、旧植民地の人々の目線もあるし、英メディアのイイ加減さだの、英国人の差別意識だのと、様々な視点が語られる。氏が「天使」とされてしまう下りがそも。
著者は、和解より理解、という。結局は、「二度と戦争を起こさないこと」こそが和解って結論は単純だけど力強い。
「握手するとき、相手の手の汚れについて話してはいけない」という警句も然り。
- ロウ管の歌|先川信一郎
1987年の刊行だからいろんな面で古い。「ピウスツキの蝋管」の復元プロジェクトを中心に、ピウスツキの生涯、冷戦下のポーランド、と、ページ数の割にバラエティ豊か。ピウスツキの資料を探してポーランドまで行ったついでにワレサ委員長に会ったりと寄り道も多い。
復元の技術的な話は多いけど、蝋管の中身についてはあまり踏み込まず。中身の研究はこの後の話。
蝋管復元プロジェクトが世界的ニュースになって世界中の研究者が注目する、ブラームスや夏目漱石の蝋管も出てくるっていうのが面白い。
- 狂牛病ショック|石原洸一郎・鹿野司
2001年刊。1996年に出た「狂牛病パニック」の増補改訂版。旧版は他国の話題ばかりだけどその後に日本国内でもBSEが見つかって、その経緯が追補されてる。
各国の対応や国家間の諍い等などってソフト面もあれば、プリオン病についての科学的な総論も。
- 陸軍士官学校の死|ルイス・ベイヤード
エドガー・アラン・ポーをメインキャラにした、いわゆる本格推理小説ってやつ。正直、フーダニイットな小説はいまいち好きじゃないけど、文章、語り口が面白い。比喩とか皮肉が巧み。
- SAVE THE CATの法則|ブレイク・シュナイダー
ハリウッド流娯楽映画の脚本の書き方の指南書。
脚本のページ単位で構成が決まってる。全体110ページ、12ページまでが第1幕、55ページにミッドポイントがある、などと、かなり具体的なテンプレート。
これ読むと、『ゴールデンカムイ』って(全31巻の長篇漫画ではあるけど)この本で指南されてる通りに構成されてるのだなあ、と、つくづく思った。作者氏が読んでるのかどうかわからないけど、読んでないとしても、ハリウッド映画のテンプレートにかなり沿っているように思える。
タイトルの「SAVE THE CATの法則」とは、主人公は「窮地にいる猫を助けるような単純でワカリヤスイ善良さ」を必ず見せること、と。そして最終的には主人公と共に世界も変わる、悪役は最後まで改心せずに滅ぼされなければならない――まんま杉元と尾形だ。
- 美しき死体のサラン|ムーン・グッチン/上野正彦
韓国の監察医の泰斗が日本のために書き下ろしたらしい。上野の監訳。
エログロネタが多いのは上野の趣味か? いやそのほうが売れるのは確かだけど! 面白いし!
サラン(사랑 )=愛っていうけど、実際は、特に女性への差別や憎悪からくる犯罪のケースが多くてヤレヤレ。著者は1922年生だし現役時代は民主化前で、今よりもずっと旧弊だの男尊女卑の強い時代ゆえだろか?
法医学、生理学的な真面目なネタも多いんだけど。青酸カリ舐めてその場で昏倒した捜査官の体験は貴重かもだ。
- 人間の測りまちがい|スティーブン・ジェイ・グールド
重く長い本。1981年。当時発表された「ベルカーブ」って科学的人種差別本への抗議として出版されたのかな。
知能の測り方の歴史、それが人種や性差別にどう利用され、政治にもどう影響を与えたのか。
差別を正当化したいためにあらゆる数値、理屈が持出されると。ところがその測定値がまた、至る所で捏造や誤解釈が紛れてて、数字としても全く信用出来ないことがしばし。差別したいというドグマが先にあるのだと。
- 犯罪学|ティム・ニューバーン/岡邊健/大庭有美/ 林カオリ
200ページほどの薄い本かと思うと、……これ3000ページくらいある論文のアブストラクトじゃないのか……? 「犯罪とは何か」から延々と、「犯罪」の全体を俯瞰する。
「犯罪統計」という数字は難しい……社会や司法制度の違う国ごとを比較するのも無意味、というのも目からウロコ。なにを犯罪と見做すのか、違法行為か、「ハーム」か? などと考えさせられる。
そして、司法機関にしろ犯罪学者にしろ、富裕層や政府の犯罪にはさして関心を払わないが、社会に与える損失は市井の窃盗なんかよりずっと大きいってのも深刻な問題だ……例えばリーマン・ショックとか。
でも、ホントにオモシロイ部分は言葉に出来ないの。
31巻、連載時との違い。
長くなったのでページ分けました。
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