day * day

日々是々

金神30巻の感想 ゴールデンカムイ

ゴールデンカムイ』30巻の感想。

表紙は鶴見。4巻、13巻に続いて3回目。
4「死」、13「死神」(タロットカードなど)、……で今度は十三をひっくり返して三十なんだろか?
顔が半分だけ火傷してるとか、背景は戦場とか、意味深だ。
ちなみに紙本特典のカバーの裏表紙は月島。

CONTENTS

本文

今後はひたすらバトル、たまに人間ドラマが続く。
そしてメインキャラ達のリタイアのラッシュが辛……
最後まで生き残るか、まさにサバイバル。

第291話 骨董品

血と肉の雨を浴びて、なんだかハイになってる鶴見。
部下たちの希望が全て、自分一人に掛ってると、彼もわかってるはずだけど、それでも最前線で先駆けする。
いずれ自分もその血と肉の雨になるかも知れないという覚悟と、同時に、しかし今自分は生きてる、という無敵感もあるのかも知れない。

鶴見「父の愛があれば息子に砲弾は落ちん!!」
弾に当たるかどうかは運次第。
ここでいう「父」は、神の暗喩かも知れない。この作品全体、「父親」が神の似姿として描かれることはしばしばある。それはどのキャラにとってもそう。
鶴見が鯉登に対して「自分を信じろ」というのでなく、「父」を出すのが狡猾だ。鯉登は鶴見のことは信じ切れていないけども、父への敬愛は確か。
連載時から、鯉登の表情が大きく変わったのが意外だった。*1
鯉登は鶴見のカラ元気をもはや信じられない。

ワタシ個人としては、今回の一番の見所は、鯉登平二のビックリ顔。
自分たちが砲撃されるとは全く予想してなかったろうな。
所詮、相手は土方やソフィアたち、ギャング団だし。*2
でも、すぐに提督の顔に戻るのもイイ。
鯉登提督、鶴見のせいで道化役演じてることも多いけど、日清日露と実戦で叩き上げてきた将軍なんだ。

妙に職人面したマンスールとか。
ハイになって奇妙に躍ってる永倉とか。
ベテランたちが今回は楽しい。
決して骨董品なんかじゃない。

P16はまるまる単行本での追加頁。
火薬とか湿気てないか不安だったんだけど。
ちゃんとフォローされてるwww

第292話 函館湾海戦

ようやく尾形の目的が?

とはいえまだまだ信用出来ないけど!
だってさー権利書と黄金に辿り着くのが目的なら、網走でアシリパとウイルク会わせれば最短経路だったんじゃ……?
榎本武揚、政府の人間になってるから、それで権利書の存在はハナから中央と尾形は知ってた。
相変らずヴァシリと相思相愛。お互い、どこにいるかわかってないのに。相手がこの函館に来てるかどうかも知らないのに。
……尾形、ホントにアシリパさん撃つつもりなの?

鯉登パパと、キラウシは相撃ち……?
航行中の船に当てるって技量もスゴいけど。
そこでキラウシの回想描く!?

提督が自分の艦隊失ったら、生きて帰れない。天皇陛下から預けられた装備だ。
「父の愛が息子を守る」のなら、父は誰が守るのか。
鯉登パパ、鶴見にずっと騙されて、ここにいる。
「息子を助けてくれた鶴見への恩義に報いる」ために艦隊まで出動させてる。
不動のままカッコつけて渦に呑まれていくけど。
最後まで知らなかったんだとすると、まるで道化役だ。

尾形 政府が破棄したがってる土地の権利書が
尾形が、権利書のこと言い出したの、そういや彼は一貫して、神殺しだった。
権利書の存在は重い。
アシリパさんによれば悪しき金の神はカムイの住まう土地に変換された。
土地はただの山野でしかなくて、モシリを継続させるにはアイヌの伝統文化が生き続けることが必要になる。
その土地とアイヌをつなぐ証、和人が大多数を占める「日本」(当時は大日本帝国)という近代国家が明文化したルールの上で、カムイを生き延びさせるのに重要なアイテムが、権利書ということになる。
それを失わせるというのは、カムイを殺すことに他ならない。
カムイホプニレといった、「神として殺す、生き物を殺して神とする」儀式ではなく、その儀式、信仰そのものを奪うという、神殺し。

尾形、ずっと、神に類するものを殺してるもの。
人を殺すという行為自体が神の秩序に背くこと、そして彼は罪悪感もなく罪を贖うことも、贖おうと思うこともない。それはそれで幸せなことではあるよ。

尾形の目、左右で瞳の大きさが違うのも細かいけど、この義眼デカいよな……球面ですらなさそう。
珍しくw尾形がキレイ目に描かれてるのが嬉しいですけどね☆

第293話 侵入者

意味深なサブタイだ。
鶴見のアレなポーズ、後ろの月島の顔からして笑い所なのは確かだが、解釈が難しい。

  • 宇佐美の小指喰ったせいで宇佐美が憑依してる説。
    サブタイが「侵入者」だしね、宇佐美が侵入して肝臓あたりに寄生してるのかもよ? 10年後くらいに発症するのかもね?*3
  • 121話の全裸バトルの回で尾形も似た様なことやってるから、鶴見の嗜好が宇佐美と尾形の上等兵sに伝播してる説。あるいは、もともとダークトライアド三人衆で共通した嗜好なのかもだ。*4

凄惨な場面のはずなのになんだかシモなお笑い要素が紛れ込んでくるあたりが、『ゴールデンカムイ』ってマンガ。

侵入者といや、ソフィアたちロシア人勢力もそうだし、蝦夷地の和人もそうだし、いや日本列島全体の人類だってそうとも言えるし……*5

そして、都丹庵二はここでリタイアか……出血からして致命傷っぽい(宇佐美と同じ箇所だ)
土方を庇って死ぬのが、都丹庵二の、「天から降ろされた役目」だったんだろか?

連載時のアオリ、
戦争は誰が正しいかを決めるのではない。誰が生き残るかを決めるのだ。*6
は大きい。
作品全体、このスタンスが貫かれてるように思う。
作者氏は徹底して作中で善悪を語らない。どのキャラも、所業に対して天からの懲罰的な、オヤクソク的な死ではなく、命がけの死闘の挙句に生死が決まる。
そもそも、多くのキャラが、殺人って、最大の罪科を犯してるしね?
主人公の杉元にしても「自分は地獄行きの特等席」とか自負しちゃってるし。

都丹庵二の元ネタについて。
先日のツイキャス「純喫茶 彼岸花」で教えを請うたところ*7、以下3つが挙げられてました。

なるほど。
都丹のモデルはずっとわからなくて、イカニモ元ネタのありそうな名前なので気になってた。
ちなみにアニメの声優は水島裕。1980年代のアイドル声優の筆頭だったころを憶えてるオールドオタクだよ、私ゃ。
都丹、最初はもっと渋い重厚なキャラかと思うと、(往年の)水島裕のイメージのせいか、軽くなったように感じる……

第294話 静寂

都丹、こんなにドラマチックに死が描かれるようなヤツだったのっ!?
周囲が明るく、白い闇の中に沈んでく。
乱戦のホワイトノイズかな。

このところのキャラの死の描き方があまりに定石通りで、物足りない気がしないでもない。みんながみんな覚悟決めてて。上エ地のように「死にたくない」って最後まで抗い続けるヤツがいなくなってしまった? 勇作さんにしてもさ。
神威(シンイ)の本来の意味は、圧倒的な神のチカラ、脅威だけど。
そのチカラに、皆、素直に従うようなヤツばかりだ……

一方で、真昼のはずなのに闇に包まれる、音之進少年。
直前まで軍刀奮って味方の先頭切ってたのに。
五稜郭は因縁の場所。鯉登にも、鶴見にも、月島にも。
拉致監禁事件は1902年だから、せいぜい6年前でしかないのに。*10
もはや鯉登に、かつて鶴見に対して抱いていたような崇拝はない。
むしろ疑惑と混沌。
この目の真っ黒な鶴見がホントに怖い。
月島はどうするのか。

ジャック・ザ・リッパーの犯行日時が20年前のロンドンの事件そのままだとすると、「5件目」は1908年の何月かの8日の夜ということになる。*11
杉元たちも鶴見組もそう推理してその日にビール工場に集まってるはず。

  • 8日夜:249話~ ビール工場でのバトル、工場崩壊
     267話~ 1902年アイヌ殺害事件の真相
  • 9日朝:274話~ 汽車で札幌から函館に向かう。
  • 9日夕:281話~ 函館着、五稜郭で宝探し
  • 10日朝:284話~ 鶴見のモーニングコールで戦闘開始

ビール工場篇以降、作中の時間の進み方がすごーく遅い。26・27巻なんて、2巻で数時間の話。
その間に、宇佐美・房太郎・菊田・都丹が死んでる。

第295話 ふたり

二階堂の妄想の中で喋ってるのは洋平だ……足も手も無事。しかしその顔は剥がされている。その顔の皮仮面を被ってるのは髪型は杉元だけど義手・義足のある浩平っていう。杉元の顔の皮は剥がされて脇にある。
ヘッドギアの乳首が千切れたのは右側のはずなのに、ここでは左側。その前のページでは右半身の乳首なのに。
もう洋平と浩平の区別がなくなってるのか、本人。
二人で二人というか。杉元も足して三人で二人なのか。

榴弾のピンは、なんだか「レオン」思わせる。
二階堂、とうとう股間まで有坂さんに改造されちゃったの……?
ずっと三枚目な役柄が続いてたけど、こいつはやっぱり凶悪な顔してるときのほうがカッコイイ。

二階堂の最期は圧巻、というか、初期の頃のビザールなノリが戻ってきたというか。
たぶん、作者氏、ずっと前からこの死に様、考えてたんだろな。*12
ここで杉元が兵士から奪った三八式で二階堂仕留めて、三十年式を温存してるのが巧妙だ。
この三十年式、元はといえば尾形が病院から逃げ出したときに持出した個体なんだ……

鯉登パパの死、「なんのため?」て考えちゃうと。
鶴見の大義をどこまで信じてたのか。
そういや、花沢将軍が鯉登提督に送ったと言われてる手紙の真相も気になるところ。花沢将軍の自裁そのものが謀略なんだから、彼の手紙も鶴見がデッチ上げたんじゃないかって気がしてるんだけど。
その手紙に騙されてるのか?
そもそも花沢将軍と鶴見は、満鉄についての意見が対立してたんだから、花沢将軍が本心を書いて鯉登提督に送ったのなら、鯉登提督は、鶴見に協力するものだろうか?

旧兵舎での鯉登と鶴見と月島のドラマは単行本で大きく変わった。
人情の機微がわかるようになったなんて、成長してる。
鶴見は常に偽りの愛で相手を絆そうとする。フィーナさんですら。彼はホントにフィーナさんを愛していたのかどうか? それすら怪しくなってきた。
鶴見の人間的限界がここらへんにある。無償の愛を信じられないのは尾形や宇佐美とも同じ。鶴見は月島のことすら疑ってる。
鯉登はつくづく真っ直ぐだ。薩摩弁になってるのは本心から。
そして月島も。

というか、あのあんぱん、まだあった!?

第296話 武士道

のっぺら坊=ウイルクと土方のシーンも単行本で増量。
回想とか精神論とか、死亡フラグっぽくて。

「武士道」って言葉は曖昧で便利で。
「武士道」の言葉自体は江戸時代初期の「甲陽軍鑑」に遡るらしいけど、現在、通俗的に知られる“武士道”の概念は、新渡戸稲造の著書「Bushido」(1899年、原著は英語)で成立したようだ。
新渡戸が、西洋人に向けて、「日本は未開の野蛮国ではなく西洋の騎士道に等しい精神性がある」と説明するために、騎士道を真似て「武士道」の概念を作った。*13
それ以前は、禅宗由来の求道精神や、戦国時代のビジネスライク(主人との関係はあくまで互恵的な契約で、自分と一族のためにならなければ主を変えるのも当然)、江戸時代の泰平の御時世で朱子学が混ざってきたり、と変遷してる。

土方ら新撰組佐幕派だったけど、榎本武揚はさっさと明治政府に恭順してるし、他にも佐幕派で明治時代に出世した軍人は少なくない。それだけ明治政府は人材をかき集めるのに必死だった。
史実で土方が箱館で生き延びて明治政府に降伏してたら、高級軍人くらいにはなってたかもね?

土方「愛する家族や育てられた故郷 その延長にある日本という国土」
土方があくまで、家族・故郷・国土と挙げてるのが現代的だ。この時代だと、天皇がもっと上位に来そうなものだけど、まあ、佐幕派の土方にとっては実際、天皇なんかどうでも良かったかもね。

土方とウイルクの対話。紆余曲折を経て、キムシプの名と「コチョウベアスコ」の名が交換されて互いの信頼が結ばれた、って皮肉。
「コチョウベアスコ」の名はウイルク(とリラッテ)しか知らないのだから。*14

そして延々と続く剣戟、戦闘。今まで何度か描かれてきた集団戦。
こういうバトルの描き方がつくづくカッコイイ。外連ではなくリアルに。
ちゃんと足元まで描かれてて、杉元と土方の身長差までわかるし。
アクションとか、こういうのが作者氏の本領発揮なんだよな、と。
1巻冒頭が旅順攻略戦で今度は五稜郭攻囲戦。
どっちも、ロシア兵が守ってるところへ日本兵が攻め込むって構図なのに。
旅順では杉元は攻める側だったけど、函館では守備側っていうのが皮肉。丘から艦隊を砲撃するのも同じだったりする。

しかしみんなどんだけ血の気多いんだ……出血多量になるやついないんか。

第297話 五稜郭脱出

永倉と鯉登のチャンバラ、絶対、あると思ってた!

このブログで以前にこんなこと書いてました。

鯉登、薩摩自顕流の使い手とは、やるな……! 新撰組の宿敵みたいなものじゃないですか。うわー土方や永倉との斬り合いとか、見てみたい。

金神 99「飛行船」 ゴールデンカムイ - day * day

まあ果たして、この作者様が、そんな、安々と想像つくような展開するとは思えないけど! 終盤だから読者サービスかもね?

鶴見とソフィアは同じような体験をしている……
かつてウラジオストクで語らい合ってたのに。あれから、もはや、フィーナもオリガもウイルクもキロランケも殺されてしまった、っという。
2人をとりまく世界はひたすら、血と肉片にまみれている。

白石『ひとりで泳いで逃げて~!! アシリパちゃん!!』
……アシリパさん、泳げないよね。そもアイヌの文化では女性は川とかに近寄っちゃいけないっていう……*15
8巻で川遊びしてたりするけど、あのへんが限界なのだろう……

第298話 ウイルクの娘

人間らしさ=弱さということなのか?

鯉登、永倉の気迫に圧されて、逃げたようにも見えてしまう……確かに21・2の若芋と、幕末から死闘してきたツワモノとじゃ、経験値も肝っ玉も違うよ。
袋の中身が偽物だったと知ってもリアクションが薄いから、もしかすると薄々気付いてて、永倉から逃げるために袋を追ったんじゃないかって気がする。以前の鯉登だったらそんなこと考えもしなかったろうけどね。
彼がホントに逃げたのだとしても、納得するけどね。
鶴見ではなく、部下達のために。彼には生き延びる理由が出来てしまった。
逃げることは弱さを表れでもあるけど、それは彼が取り戻した人間らしさでもある。

一方でソフィア。
彼女を躊躇させたのも、人間的な「弱い心」ではある。
命がけの戦いの最中に、敵を憐れんでしまった。
その憐みも、鶴見が仕掛けた「毒矢」。確かに鶴見は長谷川さんの悲劇を背負っているけど、ウイルクやソフィアが抱える長谷川さんへの負い目を利用して、アシリパさんを籠絡し、ソフィアを仕留めた。
鶴見は相手の弱みに付け込むのが巧い。

皇帝殺しの過去シーンも追加分。

ウイルク「ロシアの革命家たちは「子供だけは巻き込まない」と誓ってる」
のセリフが気になる。
そういっていたウイルクの銃弾が、長谷川さんの妻子を殺した。
ウイルクが長谷川さんへの恩返しとして故意に足手まといになる妻子を殺した、って説もネットで見掛けたけど、さすがにそれはないだろうと。大義のために無辜の女や赤子を殺すような人物は組織のリーダーに相応しくない。誰もそんな人物は信用出来ない。
そもそも非人道的な専制政治にいきり立って革命を志向するんだから。
ウイルクの大義の支柱は、ソフィアの「優しさ」だったのか。
ソフィアとはそも神の叡智、光輝の意味だ。ウイルクたちは彼女に導かれていたとも。

しかしもはや彼女の同志は皆いなくなった。

ソフィア「でも…未来はあなたが選んで!!」
ソフィアは、ウイルクの遺志を貫徹するためにここまで来たのだけど。
しかし最終的にはアシリパさんの意志に任せるという。
その、娘の幸せこそが、ウイルクの真の願いだとソフィアは考えたのかもね。
取敢えず土地の権利書さえあれば、アイヌのカムイは保護できる。運動の資金の黄金は失ったとしても。

そして最後の谷垣。
どうせそんなこったろうと思った。「南へ向かう」って言ってたしね。
谷垣も、杉元もヴァシリも、アシリパさんに命を救われてて、その借りをきっちり返してる。
彼はもはや軍服着てない。
月島は、アイヌコタンで谷垣を殺さなかったことを後悔するだろう。でも鯉登は、谷垣一家を助けたことは正しいと信じてるはず。
鯉登には鯉登の正義がある。

第299話 許し

許し、とは。

鶴見「キミのこと許した」
といってソフィアとウイルク(の肖像)を撃つ、じゃあ許してないのは誰のことかって言ったら、私は、鶴見自身のことだと思ってるんだけど。
3人が来なかったとしたら、妻子がいるとこにいきなり秘密警察が踏み込んできたことになる、そしたら鶴見はどういう行動取ってたの? その事態を予め想定してないはずもないだろうと。

ソフィアに、本人が一番聞きたかった言葉を贈るのは、鶴見自身の罪悪感の払拭かもね?
「甘い嘘」というやつだ。

大義のために他国に潜入して妻子まで作る、ってとこまでは、鶴見とウイルクは同じ。
でも鶴見の妻子は非業の死を遂げた。
もしかすると鶴見は、自身への憎しみを、嫉妬を経由して、ウイルクへの憎悪に転嫁してるのかもね? 
鶴見の怒りの底にウイルクへの嫉妬があるのだとすると、なんだか、真の創造主に嫉妬したデミウルゴスっぽいじゃん。だから鶴見の言葉は信用出来ない、彼の大義にしても個人的な感情にしても。彼が偽りの創造主でしかないから。
ウイルクが遠大な民族運動の大義を唱えていたことは信じられるにしても。そのために北海道に潜入して、根を下ろし、新たな人生を作ったけどそもそもの民族運動も忘れていなかった。
だけど鶴見は? なんでウラジオストクに潜入してたの? それは彼自身の大義ではなく、恐らくは軍の命令に従ったに過ぎない。
妻子の復讐って目的が出来たにしても復讐相手は誰だというのか。戦死者たちへの贖いという彼の言葉すら疑わしい。

革命家たち三人衆は皆死んだ。
彼らへの恨みがあったにしてもここで果たされたことになる。
しかし月島の背後で絶叫する彼は、復讐を遂げた歓喜にはとても見えないが。
次々と死んでく仲間たちに悲嘆するアシリパさんとの対比。
谷垣は白馬に乗ってアシリパさんを助けに現れた、それは「白馬の王子」に擬えてるのかも知れない。
同時に、隣のページに描かれる月島と鶴見が乗ってるのは、なんだか、青ざめた馬に見える――それに乗るのは死神だ。

ゴールデンカムイ』の作中では、満洲問題をボカしてしまったので、鶴見と中央の対立、花沢将軍の反対論が取って付けたような感じになってる……
だから鶴見の大義がよくわからない。
史実からすれば、鶴見の野望は頓挫することが予め決まってるのだけど。
ロシア革命もすっ飛ばしたので、案の定、ソフィアもここでリタイアだしね。*16

結局、ソフィアが民族運動に参加した強い理由は語られないままだ。
なにが切掛でウイルクたちと出会って彼らにシンパしたのか。
そして何故、ウイルクたちと共に日本に来なかったのか?
彼女は「愛しているから」といった。見込みの薄い黄金探しよりも、組織固めのほうを優先した? もし彼女がウイルクたちとともに日本に来ていたなら、ウイルクが北海道で妻子を持つことも、あるいはインカラマッと出会うこともなかったかもね?

最後の最後に出てくる尾形……
相変わらず義眼がデケぇ ……はともかくとして。
尾形 この一発は何を撃つ一発か…
って、それ、誰が誰に言ってるんだ。尾形、なにを撃ちたいんだ。
もしかしてまた第四の壁ぶち破ってる?

第300話 再延長戦

尾形三百話之助。

第100話『大雪山』、第200話『月寒あんぱんのひと』にも登場したので、300話にも登場してくれるとイイナーと期待してましたよ!!
今回は彼が主役。
サブタイからして「再延長戦」だしね。

100話ごとの記念回、それぞれしっかり見せ場を作って下さる作者様に感謝。
百話之助のときはシカの二頭撃ち*17
二百話之助のときはオガタニゲタ。

で、今回は、No Russian!! *18

いつになく尾形の顔が丁寧に、表情豊かに描かれてて、尾形民歓喜ですよ。

尾形 運命は俺に味方した 世界が俺は正しいと言っている
なにその、慢心のしたり顔。
「世界は俺が」って誰かとの二者択一ではなくて、「世界が俺は」って唯我独尊なとこがイカニモ彼らしい。
尾形の「チシャ猫のような笑み」は今まで何度も出てきたけど、また新バージョンが。
尾形、無表情・無愛想に見えて、結構、笑うんだよね。いつもロクでもないときに。

しかし彼の真骨頂はすぐ次のページにある。
尾形 いや… 噓臭い
いったんは自分の正しさを確信したすぐ後で検討し直す。
合理的な根拠のない想定は信用しない。彼はとことん無神論者だ。「運命は俺に味方した」云々は彼の戯れ言に過ぎない。
結局、彼は、運命も世界も信じてない。

相手の力量を推し量り、戦術を見抜く。返ってきた反撃からこちらの戦果を推測する。
概ね、尾形はいつも正しい。
彼は、たいてい、獲物の視界の外から不意打ちで一撃必殺を狙うけど、接近戦を絶対に避けるわけでもなくて、肉を切らせて骨を断つ戦法も取る……けど白兵戦でも一撃必殺狙おうとして隙が出来るせいかよく反撃される、ていう。*19

尾形「うん… 仕留めた!!」
彼が毛繕いしてるのは嬉しくて興奮してる時!

ヴァシリの初登場は16巻160話だから、14冊かかってやっと日露戦争の延長戦に決着。
とはいえ、ヴァシリがこれで死んだ確信はないしね。
照準を外してモシンナガン取り落とすほどの重傷は負ったようだけど。

尾形とヴァシリ、お互いに対面も言葉も交したことなくて、銃弾でのみコミュニケートしてる。
常に尾形が一手先んじてる。
狙撃手としては尾形のほうが上なんだけど、人間性って意味ではヴァシリのほうがまだマシで、その分、キルマシーンとして力量が足りないのだね。

馬を奪うために兵士を撃って地上に降りた尾形。
もうこの時点で、ロシアの狙撃手が撃ってくることはないと確信してる。

逃走中のアシリパさん一行。
列車に乗ったら……

第301話 第二陣

牛山はモンスター部屋を力でごり押ししてくタイプだった。*20

次から次へと、様々なバトルのステージ繰り出してくのがす、すごい……
アシリパさんが座席の下を移動してくって筋書きも見事。
今の客車だと、下、塞がってるもんね。当時はこういう構造だったから下をくぐれた。

谷垣、どうせ、詳しく命中箇所見せてないから、まだまだ生き残りそうな気がする。
今まで死んだキャラ、みんな、致命傷をはっきり見せてるしね。特に体幹部分。
致命傷かどうか、きっちり描き分けてるのがスゴい。

にしても、皆、痛みを感じてないのかっ。

鶴見の部下、最初、100人ちょっとと言ってて。
そこからだいぶ損耗したにしても。
船で移動できるのが最大64人、1車両50人だから輸送力は充分。
まず函館にいた先兵、鶴見のモーニングコール、鯉登ら、と、今度は4回目の交戦てことになるかな。
前回、三百話之助が、「朝」と言ってるのが引っ掛かる。

杉元 ソフィア 尾形 鶴見 鯉登、月島+兵士 ヴァシリ 兵士2(残り
8日 ビール工場事件
9日 5:00 札幌発
14:00 札幌発 札幌発
18:00 解読、函館着 臨時便で札幌→室蘭 札幌→函館 札幌→函館
19:00 鶴見の先兵と交戦
10日 3:00 函館着 函館着
AM3:30 権利書と黄金発見
05:00:00 函館戦争 函館着、戦闘開始
07:00:00 函館着
11日? 五稜郭脱出 狙撃 五稜郭

トーチカ戦だの、対艦戦砲撃戦だのが、朝の数時間ですべて片付いたとは思えないんだけど、じゃあ、今は10日なのか11日なのか。

そして牛山。
牛山「百年後のアイヌにだって大ウケするぜ」
の台詞はカッコイイし100年後もアイヌたちが神話を語り継いでることを確信してるんだけど、
……これって死亡フラグだな……

第302話 車内暴力

土方が銃を捨てたのは弾切れか。
杉元も兵士の弾を拾ってるが……
あれ、杉元の銃って三十年式小銃じゃん、兵士らが持ってるのは三八式。三八式は三十年式の後方互換なので、三八式で三十年式弾薬(弾頭が丸い)は使えるけど、三十年式で三八式弾薬(尖頭弾)は使えないそうな(サイズが合わないのか炸薬のエネルギーに耐えられないのか、理由は不明) 兵士たち、弾薬も三八式が支給されてるはずだけどな。*21

土方「いや…武士道だよ」
武士道というのも使い勝手のいい都合のいい言葉で、そこに一貫した哲学はない。
これはあくまで土方の解釈。

杉元「自分のためだけならとっくに諦めてる」
あ――……結局、「梅ちゃんの手術のため」って言ってたのも、故郷に帰らないための言い訳だったのか……
とうとう白状しちゃった。
いろいろ後ろめたくて梅ちゃんと顔合わせられない。
金塊探しも、故郷に帰らないための言い訳に過ぎなかった。

父親は「自分の幸せを考えろ」って言い残したのにね。
父親に祝福されたのにそれに反して利他主義に徹して自らを傷付ける杉元。
ちょうど、父親に呪われたのにとことん利己的・自由気ままに振る舞ってる(ように見える)尾形と正反対なんだよね。だけどこの二人のエゴはごく近い。

で、尾形の乱入。

あ、尾形、優しい。
連載時には機関士2名とも射殺してたのに、無辜の市民は殺さないキャラになったのか。
尾形「御降車くださ~い」
とか、そんなこというヤツだったとは。*22

この「ふう!!」はなにかの覚悟に違いないよ。
しかし、ますますわからなくなった……
尾形、機関車暴走させてどうするんだ。
このまま暴走したら、函館の海へドボンしそうだけど、それで確実に皆が死ぬ、というか、権利書も失われるとは限らない。
中央の目的が権利書の破棄で尾形がその命令に忠実なのかどうか。
……いや、石炭の供給止まれば機関車も止まるか……(自動給炭機はまだないしね)

尾形が機関車の暴走を目したなら、自殺行為とも思えるけど、彼が命がけで中央の命令に従うような忠誠心があるとは思えない、一方で彼がそもそも死を恐れるような人物ではないようにも思える。

付録、その他

EXTRA PAGESとして背表紙だの、本体表紙の服装図鑑が収録されたのも初めて。

書店購入特典はB6版のミニポスター。
発表時から話題騒然。
なんでw勇作さんwいるのwww
尾形抱きかかえて。
影があるので物理的にその場に存在してるっぽいし?
尾形はどうせみんなと万歳なんて絶対にしないキャラだから、勇作さんと合わせて一人分なのかも知れない……よく見ると影一人分だしね?

帯は藤岡弘、氏。300話記念(2022年3号、通巻2045号、2021年12月16日発売号)で氏と野田サトル氏の対談というか会食が載ってたのです。

その他連載時との違い

いつも10話のところ12話収録なので。
連載時18ページだから、216ページのところ本文236ページ、20ページ追加ということに。
Paa-bb aaページbbコマ目、の意味。
全体、ロシア人のセリフにロシア語追加されてます。
全体、戦闘場面がコマやページごと移動したりしています。
追加分は人物の過去や内面描写が主。
そしてなぜか、土方や尾形が人を殺す場面が減った。

■ 第291話 骨董品

  • P4~5 見開き追加。
  • P10-2 船の絵、変更
  • P12-2 鯉登の顔が大きめに。表情が変化。嬉しげだったのが戸惑い気味に。
  • P12-3 鯉登提督のコマが小さめに。
  • P14-1 船がより詳細に。そういえば精密モデル作って貰ったって書かれてましたっけ。
  • P15-2~ 箱館山のチームが2ページ分増量して後送りに。
  • P16 丸々追加。
  • P17-5 説明のコマ追加。
  • P21-1 船名の読み、カタカナだったのがひらがなに。
  • P22-2 連載時のセリフ、「三番艦「曙」弾命中」だったのが敵弾に修正。ただの金属の玉だし……
  • P23以下、戦闘場面が2ページ分、292話の冒頭から移動。
  • P25-3 水兵の絵追加。
  • P25-4 1コマ追加。

■ 第292話 函館湾海戦

  • P28 1ページ追加。
  • P29-1~3 次のページから移動。
  • P30 1ページ追加。
  • P31-2 マンスールが砲丸持ってる。
  • P32-2 尾形の台詞が微妙に変化。権利書にちょっと懐疑的。
  • P33-1 尾形の台詞追加。中央とは別の思惑があるっぽい。
  • P34-5 永倉の台詞追加。弱気になっちゃった。
  • P36-2 船が大ゴマに。以下、2ページ追加。
  • P61 1コマ目と3コマ目が入替。

■ 第293話 侵入者
■ 第294話 静寂

  • P82-1 二階堂の足と杉元の頭の位置関係が変化。仕込銃は右足だってば。

■ 第295話 ふたり

  • P83-1 二階堂の仕込銃、右足に訂正。
  • P84-1 血飛沫増量。
  • P84-3 血飛沫増量。
  • P85-1 杉元の顔の皮追加。
  • P88-6 鯉登が俯き加減に変更。
  • P90 1ページまるごと変更。
  • P90-2 鶴見追加。
  • P91 以下半ページ分追加。以下、鶴見と鯉登の乖離が大きく書かれる。
  • P92 2ページ分追加。鯉登の本音。

■ 第296話 武士道

  • P105 1ページ追加。
  • P120-2 矢印追加。

■ 第297話 五稜郭脱出
■ 第298話 ウイルクの娘

  • P139-2 永倉の構えが変更。
  • P140~ 2ページ追加。
  • P145-6 白石の瞳が小さめに。
  • P150~ 4ページ追加。ソフィアの回想と慟哭はまるまる追加分。部下たちの名前も。
  • P161 ソフィアの姿勢がやや俯き加減に変化。

■ 第299話 許し

  • P173-3 ソフィアの台詞追加。彼女の後悔。
  • P174-1~3 ソフィアの横たわる1コマから過去の3コマに変更。台詞が長くなった。

■ 第300話 再延長戦

  • P184 全体のコマに汚れ追加。
  • P187-2 説明が二重線囲みに。
  • P187-5 尾形の舌?がなくなった。
  • P188-1 尾形の顔が真剣に。連載時のなんだか猫みたいな顔も妙に可愛くて好きなんだけどな。
  • P188-2 以下、コマの拡大と追加で1ページ分。
  • P189-1 尾形の顔追加。
  • P190 以下、コマの拡大で1ページ分追加。

■ 第301話 第二陣

  • P217-1 牛山の目に光追加。
  • P220 牛山の台詞の書体。古印体から太明朝に。

■ 第302話 車内暴力

  • P221-2~3 鶴見と杉元、向きが左右逆に。
  • P222-1 左右反転。
  • P225 2名ほど逃げてた兵士が逃げなくなった。
  • P226-3 弾丸が頭を貫通してたのが肩に。土方、無益な殺生はしないことにしたようだ。
  • P227-4 月島の瞳が小さく。
  • P230-2 弾薬盒の蓋が開いた。
  • P230-3 コマ拡大。
  • P231-1~2 2コマ、前のページから追い出されてきた。
  • P231-3 砂金のコマ追加。
  • P231-4~5 コマ追加。
  • P233 杉元の動きがよりダイナミックに効果線追加。
  • P234 1ページ追加。
  • P236-2~3 月島、牛山、それぞれ瞳が小さくなる。
  • P237-3 肩を撃たれるコマ追加。元々次のページで頭を撃たれる絵だった。
  • P238-1 尾形のコマ追加。なにその台詞www
  • P238-2 尾形がパシフィストにっ!? 問答無用で無辜の市民も殺してたのにっっ

連載時に書いた記事

*1:

*2:というか、ロシアの反政府勢力が日本国内で日本の軍隊と武力衝突してるんだから、国際問題ではないのか……?

*3:寄生虫「エキノコックス」、愛知県で犬の感染相次ぐ 人体に入ると重い肝機能障害 | 社会 | 全国のニュース | 福井新聞ONLINE

*4:一方で、自分がふるった暴力への忌避感罪悪感を払拭するために性的に興奮するのは、むしろ正常な反応って説もあるけどね。

*5:最近の説だと、日本人のルーツは、まず4万年ほど前に縄文人が日本列島に到達して、それから弥生時代弥生人が稲作を持ち込んで、そして古墳時代に古墳人が馬や鉄器をもたらした、ということらしい。→日本人の祖先 縄文弥生に加え 古墳時代に渡来の集団もルーツ? | NHKニュース

*6:

*7:「純喫茶 彼岸花」第八回「ゴールデンカムイ」 - ツイキャス

*8:念為。アンジーはアンソニーの愛称。

*9:

*10:あのときこの場所にいたはずの鯉登パパも菊田も尾形もいなくて、もうこの3人だけ。そういや拉致監禁事件、ロシア領事館で擦れ違ってたウイルクたちもみんな死んでる。

*11:元の事件は11月だけど、この作中の季節はもっと早い時期に見える。

*12:(まあ実際、脳幹断ち割られたとこで脳は機能停止しそうだけど)

*13:ただし騎士道の大きな柱にはキリスト教があるんだけどね。

*14:アシリパさんが和名を名乗らなかったのは必要がなかったからだろう。小学校に通ってたら和名を使わされたはず。ウイルクはそれでも構わなかったんだよね。

*15:(漁してるとこに女性が通りかかったら彼女を水に放り込む、て地方もあると)

*16:本来なら、彼女ら、ボリシェヴィキでしょ……レーニンがヨーロッパ転々としてる頃だし、黄金が革命の資金になるはずだったのに。8巻からすると、一応、この世界にレーニンもいるはずなんだけど。

*17:それまで使ってた三十年式より貫通力の高い三八式に変えたので、シカを二頭まとめて撃てた、って意味らしい。

*18:※ゲームネタ→No Russian - Wikipedia……このゲームのネタもヤバヤバにヤバくて好きなんだけど。

*19:例えば1巻の対杉元戦では喉元を狙ってる。

9巻の対モブ戦は恐らく肋骨の下辺から心臓か、あるいは後背の腎臓。

彼は戦闘というより暗殺術を訓練したようだ。

*20:連載時、前回300話の最後のコメントが。第七師団車両《モンスターハウス》だった。→

元ネタは「ROGUE」ってRPG……を元にした「不思議のダンジョン」になるのかな。

*21:

これは宇佐美が支給されてた銃。

*22:だけどコイツ、茨戸で、確信があったわけじゃないのに、妊婦に変装した永倉を撃ってるじゃん。妊婦かも知れない相手でも躊躇無く撃てるやつだったのに、だいぶ、マイルドになった。