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日々是々

金神296話「武士道」感想 ゴールデンカムイ

土方のヌードって珍しい。

土方歳三、1835年生れだそうだから、作中のリアルタイム1908年(予想)で満73才ですよ……
のっぺら坊=ウイルクと土方、ずっと、信頼関係がないっていう。
回想とか精神論とか、死亡フラグっぽくて。

「武士道」って言葉は曖昧で便利で。
「武士道」の言葉自体は江戸時代初期の「甲陽軍鑑」に遡るらしいけど、現在、通俗的に知られる“武士道”の概念は、新渡戸稲造の著書「Bushido」(1899年、原著は英語)で成立したようだ。
新渡戸が、西洋人に向けて、「日本は未開の野蛮国ではなく西洋の騎士道に等しい精神性がある」と説明するために、騎士道を真似て「武士道」の概念を作った。*1
それ以前は、禅宗由来の求道精神や、戦国時代のビジネスライク(主人との関係はあくまで互恵的な契約で、自分と一族のためにならなければ主を変えるのも当然)、江戸時代の泰平の御時世で朱子学が混ざってきたり、と変遷してる。

土方ら新撰組佐幕派だったけど、榎本武揚はさっさと明治政府に恭順してるし、他にも佐幕派で明治時代に出世した軍人は少なくないし*2
それだけ明治政府は人材をかき集めるのに必死だったわけでも。
史実で土方が箱館で生き延びて明治政府に降伏してたら、高級軍人くらいにはなってたかもね?

土方「愛する家族や育てられた故郷 その延長にある日本という国土」
土方があくまで、家族・故郷・国土と挙げてるのが現代的だなーとは思う(笑)
この時代だと、天皇がもっと上位に来そうなものだけど、まあ、佐幕派の土方にとっては実際、天皇なんかどうでも良かったかもね。
日露戦争の従軍記なんか読むと、みんな天皇万歳なんだけど。いちいち闕字*3で書いてるとかさ。

そして延々と続く剣戟、戦闘。
今まで何度か描かれてきた集団戦。
こういうバトルの描き方がつくづくカッコイイ。外連ではなくリアルに。
ちゃんと足元まで描かれてて、杉元と土方の身長差までわかるし。
皆が少しずつ傷付いてく。
アクションとか、こういうのが作者氏の本領発揮なんだよな、と。
1巻冒頭が旅順攻略戦で今度は五稜郭攻囲戦。
どっちも、ロシア兵が守ってるところへ日本兵が攻め込むって構図なのに。
旅順では杉元は攻める側だったけど、函館では守備側っていうのが皮肉。
丘から艦隊を砲撃するのも同じだったりする。*4

あれ、杉元、三十年式持ってる? 前回、二階堂と共に吹っ飛んだと思ってたけど。
……と思ったら、二階堂と共に吹っ飛んだのは、鶴見の兵士が持ってた三八式か。
杉元、三十年式で兵士を刺す→兵士の三八式を拾って二階堂を刺す→吹っ飛ぶ、って成り行きだ。

*1:ただし騎士道の大きな柱にはキリスト教があるんだけどね。

*2:八甲田山事件や日露戦争で名前の出て来る青森第8師団長の立見尚文とかね? 彼も土方歳三の仲間だった。

*3:ケツジ。天皇に関する語句を書くときは畏まって・あるいは目立たせるために、一字開ける慣習。法律で決まってたわけではないけど。
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ただしこの著者の猪熊敬一郎は割と合理派な人で、現代人の感覚に近い。

*4:正確には、203高地は砲撃するための観測地点であって、山頂に対艦砲担ぎ上げたわけではないが。