day * day

日々是々

金神314話「大団円」感想 ゴールデンカムイ

faomao.hateblo.jp

まさに大団円。

各キャラのハッピーなその後が描かれ、今回は誰も死んでない。
よく言えば大団円だけど意外性もない、予定調和的でなんだか物足りない……

と思うと、山猫。ここでも不意打ちくらいましたよ。
どうせヴァシリ、まだ生きてるだろと思ってたら。
1コマに籠められた情報量が多すぎる。
この二人の関係性も面白くて。互いに互いを「人」ではなく獲物としか見てないのに、ある意味相思相愛なんだ……狙撃手として共感し合い、銃弾で対話する。
ヴァシリ、悔しかったろうな、線路脇で尾形の死体を見て。とうとう仕留め損なった。二度も撃ち負けた。恐らくこれ以降、軍を抜けて画業に進んだのだろう。
死体を見たのなら、死の状況もわかるはず。超遠距離狙撃も可能な山猫がゼロ距離で自分を撃つ。彼の狙撃手としての死をも意味する。
ヴァシリは辛うじて「オガタ」の名を知った。そのぶん微かに同じ人間としての共感がある。だから絵を描いた。尾形は最後までヴァシリの名を知らない=言葉を交わす人間ではない。銃弾でのみ対話する。尾形は、撃った相手の死も確認せず、撃ち返してこないことで仕留めたことを知る。
もしヴァシリが尾形を自分の手で仕留めていたのなら、絵の題は「男の死」などになったはず。自分がとうとう仕留められなかった、自分の狙撃手としての死をも意味してる。
二人の狙撃手の死を絵に塗り込めて、その値が3億円。
最後まで孤独で孤高を貫いた尾形を、いまさら皆でその死を悼んで愁嘆場になったら醜悪だけど、ただ、銃弾と死を介してのみで対話しあったヴァシリが自分の死までその面影を抱く。自分と同じ山猫として。
三億円の下りは、安田生命の「ひまわり」が元ネタなのかも知れない。→安田火災がゴッホの「ひまわり」を58億円で落札【1987(昭和62)年3月30日】 | トウシル 楽天証券の投資情報メディア
ヴァシリ、尾形と同い年とされてるので恐らく1882年生だから、21世紀まで生きてるとは思えない。生誕100年で1982年、とするとオークションにかけられたのは80年代~90年代か。
80年代~バブル崩壊までは企業が企業メセナといって文化芸術活動に熱心だった。恐らくは辻井喬堤清二セゾングループを嚆矢として。*1
その当時「日本のIT企業」でアート買うところはどれだけあったか……そもそも「IT企業」って言い方自体、その当時はしなかった気もする。
「著名な画家」の小品(1.4:1ほどの比率なのでP10号かな?)なら3億円は妥当かも知れない。*2 この「山猫の死」、30年もネタを温めてたのか、もしかすると何作もバージョンがあるのかも知れない。これは1940年に描いたもの。最終版か、あるいは最高傑作か。
あるいは「山猫」シリーズで何作もあって、山猫が躍ってる絵もあるかもよ? その完結編としての「死」。
ところで。これ、耳の先の房毛からしてオオヤマネコっぽいけど、尻尾が長い、謎。*3
ヴァシリの下の名前もようやく明らかに。ヴァシリの元ネタは「スターリングラード」なんかで有名な英雄的狙撃手ヴァシリ・ザイツェフ*4だけど「パブリチェンコ」のネームは同じくソ連の、というかウクライナ地方出身のリュドミラ・パブリチェンコからであるらしい(→リュドミラ・パヴリチェンコ - Wikipedia
基本的に、銃は、刀剣や弓矢よりかずっと簡単に人を殺せる武器だけど、狙撃手というのは個人の資質が重視される特殊技能職だし遠くから敵の指揮系統を狙い撃ちできるので、現代戦では英雄として持て囃される。一方で標的の認識の範囲外から一方的不意打ち的に命を奪うので敵からは悪魔のようにみなされる。

梅ちゃんの嫁ぎ先の花屋のモデルは、江戸東京たてもの園の花市生花店だそうな。
園内マップ│江戸東京たてもの園
東ゾーン|復元建造物の紹介│江戸東京たてもの園
ちなみに隣にある三省堂書店は、16巻155話の扉に描かれてる。*5
実際には昭和初期の建造物であるらしい。

榎本武揚は1908年10月26日に死んでるから、冒頭のシーンは遅くとも08年11月中、12月に入るかどうかというところ。
……危なかった……死ぬ前に会えた……
伊藤博文は1909年10月16日にハルピンで暗殺されてるし。
とすると、暴走列車のシーケンスは5月なの??

杉元「役目を果たすため頑張った今の自分」
やっと杉元は自分を肯定することが出来た。
もしかすると。彼の「役目」は同時に罪悪感も負わせてたのかも知れない。
それが、役目を終えて、今度こそ自分のために生きることが出来るようになって、罪悪感からも解放された。
たった一包(でもちょっとした財産だけど)の砂金と金貨を渡すために、杉元は作中で1年半頑張った。おそらく梅ちゃんに会うのは1889年以来9年ぶりってことに。

二人と別れた白石が向かったのは、吉原っていうwww
さすが裏切らないぜ白石は……

鯉登と月島の縁はずっと続くようだ。
月島、生きるために仕える誰かを必要とするってのも寂しいが。
鯉登が中将になるころには月島はとっくに退役してるはずなので、多分それ以降はプライベートでの右腕ということらしい。

最後のシーンは決まってたというので。
白石が脱獄王から本物の王になるのが、最初からの予定だったのだろう。

そして鶴見の生死は不明のまま……
ゴールデンカムイ』の物語が終わって次はゴールデントライアングルの話が始まったりしませんかね……白石がジャングルの奥に作った王国に*6、鶴見が絡んで阿片栽培したりとかね。

紙本限定の通知表。
なんで谷垣だけそんなに長いのwwwww
……はともかく。
あれ~やっぱり尾形って孤高で孤独なキャラなんだ。
鶴見と関連付けられて書かれてるのが気になる。
うーん、1巻で、杉元とアシリパさんの個人的な物語で幕を開けて、尾形の登場で鶴見の大きな物語が示唆されたので、尾形は彼らの先駆けのように感じたのだけど。
宇宙征服とか、物語がちょーっと大過ぎる……そっちにいかないでよかった……

私が『ゴールデンカムイ』に出会ったのは2015年5月26日だったので、7年11ヶ月付き合って来たことになる。
連載が終わっても、まだまだ、大改訂されそうな単行本もあるしね? アニメや実写映画やその他はどうせ二次創作だと思ってるし。

このブログは元々、身辺雑記的な日記のつもりだったのでした。
ほとんどゴールデンカムイの感想ブログになってるけど。
連載についての記事はほぼなくなると思うけど、SNSでは書ききれないネタがあれば書いてく方針で。

*1:1990年代、私は美術の勉強で池袋に通ってたので、池袋セゾン美術館にはしょっちゅう行ったものだった。西武百貨店に続く美術館のロビーに展示された、アンディ・ウォーホール毛沢東のコレクションとか、皮肉が効きすぎてて(笑) 池袋西武、パルコ、リブロポート、セゾン美術館からサンシャインシティまで、池袋東口全体が、辻井喬インスタレーションアートみたいなものだった。

*2:1996年に宇都宮美術館がマグリットの「大家族」を6億円で買ったときはだいぶ物議醸したものだけど。なんでも所有者がかなり渋ったのを言い値で無理やりに買ったとのウワサもあるしね? この絵、知名度あるし壮大な構図からすると、意外と小さいんだよね。約50×60cm、12号くらい。→【作品解説】ルネ・マグリット「大家族」 - Artpedia アートペディア/ 近現代美術の百科事典・データベース

*3:オオヤマネコは尻尾短い→オオヤマネコ属 - Wikipedia

*4:ヴァシリ・ザイツェフ - Wikipedia

*5:

*6:地獄の黙示録」的な。