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日々是々

金神313話「終着」感想 ゴールデンカムイ

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鶴見はああいうけれど。

鶴見がウイルクに向ける憎しみは、実は自分自身への、というか、長谷川さんの鶴見への憎しみではないのかという気もする。
顔を失ったウイルクが無慈悲な神だとしたら、半分だけ顔のない鶴見は真の神に嫉妬する半神だ。
ウイルクは鶴見の妻子の死に関わった上に、自分自身は北海道で妻子を持ってるのだしね。
長谷川一家の悲劇に負い目を感じて、家庭を持つことを断念したソフィアさんのほうがまだ誠実だ。
だから鶴見は、ソフィアさんのことは「許した」という。

鶴見「全部お前の責任だぞウイルク!!」
鶴見はそもそもが日本軍による大陸侵攻の先兵として、ウラジオストクに潜入していて、ウイルクらと出会ったんだ。
彼の計画は日露戦争以前から始まってるし、長谷川写真館にウイルクらが来てなくてもいずれ一家団欒の場に秘密警察が踏み込んできて、そうしたら鶴見は自分の手で妻子を殺すことになったろう*1
29巻の加筆分で鶴見が打った演説が本心ならば、彼の真の目的というのは大陸への領土拡大――要は侵略戦争ということになる。
それはロシアの南下政策に対抗し、国力を付けて世界の一等国になるため、という遠望かも知れない。
つまり彼は、坂の上の雲を掴もうとした多くの近代日本の壮士の一人に過ぎないのかもね。

最後の最後で妻子の遺骨より、権利書を選ぶ鶴見。過去よりも未来を選んだ。
今の鶴見の素顔が露わになるのも初めてだ。
ズルムケになってる割に、繊細な目蓋の組織、特に二重瞼もそのまま残ってるのも意外。

杉元「俺は不死身の杉元だ…」
「俺は不死身の杉元だ」というのが杉元の口癖のようだけど、313話現在、意外と彼がこのセリフを叫ぶシーンは少なくて、(「俺は不死身だ」を合わせても)20回あるかないか。しかも他人に向かって言ったのはほとんどない。*2
今まで、杉元は自分に向かって「俺は不死身の杉元だ」と叫ぶことで自分を鼓舞していたのだよね。ほんとうの自分はそんな超人ではない、ただ生きるために死に抗ってきただけだった。
今回セリフが最小限で、これが最後のセリフ。
今回のセリフはアシリパさんに向けたもの。もう叫ぶ力もない。

杉元も鶴見も互いに胸の真ん中貫通してるな……
目を真っ黒にして歯を鳴らせてる鶴見は死神。杉元との相対死にを覚悟して。互いに互いの死神になる。
宿命のライバル同士が抱き合って落下してく、なんて、定番のクライマックスだけど。*3
とうとう杉元が(帽子を)脱いだ! 今まで1巻の風呂屋とか、ごく僅かな場面を除いて絶対に取らなかったのに。*4

最後のページ、谷垣も白石も怪我してる、アシリパさん、ものすごく暴れたのね……

ここが杉元の旅の終着なのだろうか?
うーん、最終回、314話って、もしかして、「サイチのシ」の語呂合せだったりするの……
私も7年間付き合ってきた主人公だけに*5死んで終わりは一昔前のマンガや映画で散々目にしてて辟易してるのだけど、一方で、尾形筆頭にオキニたちがことごとく死んだので、杉元だけ平穏無事というのは許しがたい気もする。
大団円とは。

*1:当時の秘密警察の拷問は苛烈を極めたという――ボリス・アクーニンの「堕天使殺人事件」、すごく面白かったんだけど、主人公がその帝政ロシア下の体制側のノンポリ青年なんで全く同情できないのが狡猾だw むしろ「敵」の堕天使たちを応援したくなる。

*2:アニメ第2期のラスト、原作にはないオリジナルのシーン(作者氏が脚本書いた)で、アシリパさんの夢の中で杉元が「俺は不死身の杉元だ」と叫ぶ。

*3:逆襲のシャア」とか「ジョジョ」の第一部」とかさああああ

*4:いや樺太とかで変装のために着替えてたりするけどさ。回想シーンとかもね。

*5:ゴールデンカムイ』に出会ったのが2015年5月26日なので。