day * day

日々是々

金神211「怒りのシライシ」感想 ゴールデンカムイ

アオリ、雨って、矢の雨なのね。

今回から22巻分のはず。

ここしばらく、鶴見が悪人どころか悪霊のように描かれてて気になったんだけど。
有古の視点、杉元の記憶では、鶴見は化け物じみてすらいる。
鶴見の仮面は、アシリパさんには通じない。
アシリパさん、そんなに人生経験もないのによく人を見る目があるな。
谷垣だって本性に気付かないのに。
鶴見の目は誰に似てるのだろう。

よくよく考えたら、これ、アシリパさんが「鶴見の本性を見抜いた」わけではなくて、単に鶴見を信用できないと思っただけだ。鶴見については杉元や白石などから散々聞かされてて、それも悪い話ばかりだろうし。
そもそも、アシリパさんの「人を見る目」ってあんまり信用できなくて。
読者からするとウイルクやキロランケだって鶴見と同類の冷徹なテロリストなんだけど、ウイルクのことは心底敬愛してるのだ。
もしかすると、アシリパさん、幼い頃に、なにかのはずみで、ウイルクのテロリストとしての顔を見てしまったことがあって、普段は忘れてるけど、鶴見を見て思い出したのかもね?
或は、幼い頃に、アシリパさん、鶴見と会ってるのかも知れないし。

ウイルクは、「山で潜伏し戦えるよう/アイヌを導く」って言ってるけど、その一方で、
「人殺しの心得までは教わらなかった」アシリパさん。
彼女は不殺の誓いを立ててるけど、それは、父の教えではないはずだ。

矢の毒を事前に削ってあるので、アシリパさん、前から考えてたんだな。
鶴見の為人を見て、この先を決めようと。
その決意を、杉元にも知らせず。
きっと杉元はなんとか言いくるめようとするから。鶴見と協力したほうがアシリパさんの為だというに決まってる。
アシリパさんは、杉元がそういうのをわかってるから、相談もしなかった。

杉元「毒矢だッ」
咄嗟に、アシリパさんの意図を見抜いた杉元。
もしかすると頭の片隅で、アシリパさんが鶴見から逃げようと行動することを期待してたのかもね。
彼の本心は、鶴見に協力することじゃない。

どさくさ紛れに鶴見を押し倒してるのは宇佐美。さすが機を逃さない。
宇佐美の忠誠心にはどうにも邪心があるwww

前回の月島と鯉登の、汚泥に首まで浸かったような対話と比べて、今回の杉元と白石の遣り取りは痛快だ。
鶴見に付くのが得策だと理解しようとしてても、心の底では信じてない杉元。
それをガンガン暴き立てる白石。
白石は、杉元のイドの部分を受持ってるんだよね。直感的、衝動的な自我。
彼の怒りは、本心を偽っている杉元が自身に向けてる怒り。

杉元「カネカネ 汚えんだよ」
というが、果してそうだろか?
杉元だって、自分を救いたいがために、アシリパさんに依存してるだけだ。

ひたすらカネを求めて、遊んで暮らしたい白石。
「金」が象徴するものは意味深だ。
地上での価値、安楽、即物的な富。
その対極にいるのが、神を求めて殺人鬼になった関谷や、宇宙との融合を計った姉畑や、大義を掲げてテロリストになったウイルクやキロランケだ。
作中の「凶悪犯」の多くが、信仰心にも似た動機で罪を犯す。彼らは罪悪感を、より高次の存在に対峙する痛みにすり替える。
その挙句、凶悪犯として追われる。
大きな存在に対して幸せや救済を求めることは、実は自他ともに破滅をもたらす災厄のように描かれる。(本人はそれに満足しているのかも知れないが)
神とかなんとか崇高な目的よりも、浅ましくこの世の美や富を求めるほうがマシだと。*1
「美しいもの、美味しいものは、魂を卑しさから救ってくれる」といい、「時よ止まれ、お前は美しい」ですよ。*2
それは、尾形の勇作殺しにも繋がってるのかも知れない。
求めるべきは、ゴールデンなのかカムイなのか。

杉元も、即物的に、金を求めていたうちは「ギラギラした狼」だったのに。
アシリパさんってピュアな小娘に依存して、日和ってしまった。

しかし。
白石「全部覚悟の上で」
と白石はいうけど、その覚悟というのがどれくらい深い沼なのか、杉元は身に染みてる。
杉元は、アシリパさんの意思を尊重したいけど、「覚悟」なんて綺麗事で殺し合いをさせたくない。 尾形をも殺せなかったアシリパさんに、覚悟を強いることが出来るのか?

だから、武力闘争以外の道を探ることになるんでは。

……これさ、大義だの権威だの信じない、守るものも持たないったら、尾形こそその典型なんだよね。
彼は徹底した無神論だし。
カネすら目的じゃあなく、スリルを味わうこと、獲物を仕留めることに至上の快を感じているんじゃないかって感じる。
彼はギラギラした山猫だ。
生粋の冒険者で、そんな、険を冒すことに邁進する彼が、自分の存在意義だの価値だの悩む余地はない。悩んだら死ぬだけだ。
窮地のどん詰まりで笑えるんだ、彼は。
スゲえ傍迷惑だけど!

*3

二人の連携で、虎口を脱したアシリパさんと杉元。
晴れ晴れとした笑顔で走り去っていく。

……この後、どうやって、北海道に帰るつもりなん……北海道に着いてから脱走すれば良かったのに。
港は鶴見が封鎖するでしょ。
亜港から大陸渡って浦塩敦賀のルート?
それとも大陸を西へ行く?
でも、杉元もアシリパさんも、ロシア語出来ないし。
うーん、ソフィアと再合流するか、あるいは、日本語ロシア語出来るっていうなら、尾形がまた関わってくる??*4
白石はシラッと杉元たち追っていきそうな気がする。
谷垣はどうするかなー。彼は、小樽のコタンにアシリパさんを連れて帰ることをミッションにしてるから。
でも鶴見は、谷垣を信用しないよね。いざとなったら自分ではなくアシリパさんにつくだろうから。

*1:それを実存主義という。

*2:それぞれ、高村薫「レディジョーカー」、ゲーテファウスト」の台詞。→レディ・ジョーカー 上 (新潮文庫)新訳決定版 ファウスト 文庫版 全2巻完結セット (集英社文庫ヘリテージ)

*3:前回と今回の二組の対話見てて。ふと、自分が恋愛モノに興味が持てない理由がわかった気がする。恋愛モノって、要は依存関係でしかないからだ。恋愛が横方向の依存なら、縦方向の依存は忠誠心。鶴見隊の面々は、皆、鶴見個人や彼の大義に依存してる。どっちにしても、自我の確立のために他人の存在、承認を必要とするキャラには興味持てない。相手に依存するから束縛する。
尾形筆頭として推しキャラにしても自作の主人公にしても、恋愛感情皆無なのばかりだ。自己完結というか孤高というか、自分の足で立つのに何の支えも要らないと。そういう強さこそ彼の魅力なのだ。それは他面では、冷血とか、ニヒリズムかも知れないが。尾形がまさに、恋愛感情も忠誠心もない、推しキャラの典型なわけで。同時に尾形の母が恋愛=依存の典型って皮肉。そりゃー母親のあんな状態目のあたりにしたら、恋愛に興味持てるはずなかろうよ。
……と延々と呟いてたのがこちら→https://twitter.com/FaoMao/status/1167936361069867009

*4:希望。