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day * day

日々是々

『二百三高地』(とゴールデンカムイ

映画 ゴールデンカムイ

Twitterで名前が流れてきて、俄然、気になって探した。*1

この映画、はるか昔の中学時代に学校で観させられた記憶が……平和教育の一環なのかその反対なのかよくわからんが。
「旅順が見えます!」のシーン以外憶えてなかった……多分、寝てたわ、他の場面。

そもそも、ゴールデンカムイ読むまでは、日露戦争なんてちっとも興味なかったし。
最近になってようやく司馬遼太郎の『坂の上の雲』読んだくらいで、このドラマも見てない(長いし!
あくまで金神のファン目線で。

この映画が、金神のルーツの一つではあるのだろう(というか、日露戦争描くなら最低限、見ておくべき作品の一つだよね)
戦闘の場面は、どうにも金神と脳内で重なって、ああ、あの中に杉元達もいたんだなあ、て思ってしまった。
にしても、杉元にしろ尾形にしろその他、キロランケも鶴見隊の面々も、よく、あの戦場から生還したものだな! なんせ、生還率1割以下て場面もあったくらいだ。

映画そのものが、確か、公開時、左右両方の政治的立場から議論されたように思う。
反戦映画なのか、翼賛なのかは、まあ、どうでもいい。製作側はとことんリアルにこだわったとかで、戦場のシーンもカネかかってるし、一兵卒から天皇から銃後の家族から様々な人々が出てくる中で、最前線の兵士達が次々と死んでく有様は凄まじい。

映画の一方の主役である、あおい輝彦*2演じる小賀中尉の小隊長が、どうにも、金神の鶴見と重なるのだ。元々はインテリで温厚な小賀中尉が、ムチャ振りばかり命じる指令部本部にキレて、乃木将軍に怒りを爆発させるシーンは、まんま、鶴見の抱える赤黒い焔のような怒りを彷彿とする。
「乃木閣下の御子息も戦死なさったんだぞ!」「当たり前です! 自分たちは安全なところから無謀な命令を下すつもりですか!」みたいな遣り取りは痛烈だ。
(このへんの組織に隷従することへの批判て、東映のポリシーみたいなもんだねえ)
指令部の連中もお気楽なもんで「死者が4000人とは想定より桁が一つ多いな(笑」とか言ってたのに、その中に乃木の息子がふくまれると知ったときの変わり身の速さよ……

乃木希典、凱旋将軍として持て囃されて、死後は軍神にまで祀られてるけども、彼の指揮下で大量の無駄死にとも言える戦死者が出たのは確かで、そりゃー恨みもかうよな。
司馬遼太郎なんかは徹底して乃木や副官の伊地知をdisってるのだよね。

この映画だと仲代達矢演じる乃木も主役の一人だから無能な愚将というよりは悲劇の将軍として描かれてる。
乃木はこの一連の出兵で息子が二人とも戦死して、どんどん厭戦的悲観的になってくのだ。
意地悪な見方をすれば将軍にとっては戦死者なんて数字でしかないのに自分の息子が死んで初めてその数字の持つ意味を肌身で感じることが出来る、最前線で死線を這う兵卒の立場に立てるてことだよ。
しかしその厭戦感ゆえに思い切った作戦をとれないで無為に戦闘を長引かせたのだとしたら司令官として不適任かも知れないし本人にも指揮下の軍にも悲劇だったとしか。
業を煮やした大本営から丹波哲郎演じる児玉源太郎がやってきて強引な戦術でどうにか戦局を打開して203高地と旅順港の占領に成功したと。

一斉突撃とともに大砲(28サンチ榴弾砲ってもともとは横浜や東京のお台場に設置されてて艦船を撃つための大砲)を撃ち込む、大砲の弾幕でチカラ押しして前線を進める。
これが金神だと、鶴見のいう、

二十八珊米榴弾砲の援護射撃が敵味方を問わず 若い男たちの身体を引き裂き 臓物と血の雨を降らせた

という状況(この94話、コメディタッチなのに毒気が強くて悪酔いするわ……好きだけどね!)。

ただしこの乃木が無能って見方にはだいぶ反論もあるようで(乃木は熱心なファンが多いからねえ)、乃木を擁護するならば、とにかく圧倒的に人員も物資も足りない(なんせ日露の国力差は1:10くらい)、近代以前の長閑なイクサから物量がものをいう現代戦に移り変わる過渡期で、日本は最新鋭の装備や戦術を使いこなせなかった、大砲の弾も当初の見積もりの数十倍は必要になって製造が追いつかない、さらには東京の大本営でも作戦方針について意見が割れてた……てな状況ではあった。

金神では実在の軍人達はほとんど名前が出て来ないのだ。唯一有坂が変名で出て来たくらい。日露戦争と言えば!の乃木将軍すらまったく名前が出て来ない(あくまで娯楽作品で冒険活劇だし史実の戦争を描くことが主眼ではないからね)。
そこで花沢中将というのが乃木の悲劇の面を強調して代理として名前が挙がってるように思えてきた。
あまりの死者の数に自責の念に駆られた、割腹自殺を遂げた、てあたりが乃木と符号する。乃木が死んだのは明治天皇の死の直後だけど日露戦争の戦死者に対しての負い目も多分にあるだろて。少なくとも仲代将軍にはそんな悲痛さを感じる。史実で当時の第七師団長だった大迫尚敏も三男が戦死してるのだ。
とすると、金神の花沢も嫡男が戦死したりしてるんじゃなかろか? 花沢、尾形のほかに嫡子がいたろうし(じゃなかったら庶子でも引き取って嫡子にしたりしないか? 代々の武士の家系のようだし家督にはこだわるだろう……いや待て、庶子が一人とは限らんか。尾形、異母兄弟が何十人とかいたりしたら、なんか、ヤだ……みんなあの性格だったりしたらもっとヤダ)。それで嫡子も死んで他の子息達も大量に殺したことを悔いて乃木のように家系を断絶させることにした……てのはありうるな。

映画はタイトル通り203高地攻略が主眼。
旅順なんて満州の南の果ての遼東半島の更に先っちょの軍港で陸軍の戦略からは何の意味もなくて海軍からの要請で旅順に停泊してるロシア艦隊を全滅させるための作戦でしかないのだよな。
旅順の艦隊を攻撃するには203高地に陣取れば済むのでその後の旅順攻略は掃討戦みたいなものか。
(しかし、この旅順のロシア艦隊を沈めたことが日本海海戦の勝利の一因であるし日露戦争の一応勝利に貢献してロシアの南下政策も止められたし少なくともロシア革命起きるまでの時間稼ぎにはなったと考えると、戦争の様々な局面が複雑に絡み合ってて、いちいち細部の良し悪しを論えないよねー。ロシアで革命が起きても、結局、革命政府は帝政ロシアと大して変わらずに諸民族への侵略や迫害もそのまま、南下政策も未だに続いてるし)

私事。10年以上前に中国に旅行した折に203高地にのぼったんすけどね(他にも東鶏冠山とか水師営とか見て回った。かつての地獄の丘陵地帯も今はすっかり観光地ですわよ。同行者達が戦中派の年寄ばっかりで、みんなして「水師営の歌」とか歌ってましたわよ)。
その時は旅順は軍事基地があるとかで外国人観光客の立ち入りはできなかったけど。

映画のクライマックス、小賀中尉の隊が山頂に立って有線電話で司令部に報告する。
「旅順港が見えます!」と。
むかーし映画を観たときこのシーンだけ憶えてたので実際に203高地の山頂から旅順の町が一望できたときはわけもなく感動したものですわ。

だから司令本部は203高地にこだわったのだね。
日露戦争最大の激戦って言われるくらいに。
ここに陣取れば旅順港の艦隊を狙い撃ちし放題。
大本営の上から目線では大きな意味のあった戦闘ではあるけども最前線の光景は凄まじい。

進軍ラッパ吹いて突撃すると機関銃の乱射乱撃雨霰が降ってくる。機関銃という新型兵器に対抗するために塹壕戦を考案したり、煉瓦造りのやたら立派な永久堡塁をダイナマイトで爆破したり(ちょうどダイナマイトも実戦使用されるようになった嚆矢)。
それまでの戦争よりも、簡単に、多くの兵士が死んでく。無数の血飛沫と肉片になって。
よくこういうシーン、映像化したなーーと。1980年の映画だ。CGなんかない時代だし。

金神では描かれてないこともいくつか。
戦闘中でもたまに停戦して、死体や負傷者の収容をするけどもその間は割とフランクに敵味方が交流して酒酌み交わしてたりする。
あくまでルールに乗っ取った戦争の時代。
そこでちょっとした誤解から一気に銃撃戦になったりもするので油断はできないのだけど。
基本的に夜間は停戦するし。

小賀中尉の小隊の面々(東京第1師団)が主として戦場が映されるんだけどこれがまた個性的な面々で。
子だくさんの男とか御立派な紋々入れたヤクザ者とか一見気の弱そうな豆腐屋の息子とか。

この新沼謙治演じる豆腐屋の息子ってのが気になったのだよ。 Twitterで見かけた。

グロスマン、ってのはおそらくこの本が出典

「人殺し」の心理学

「人殺し」の心理学

戦争における「人殺し」の心理学 (ちくま学芸文庫)

戦争における「人殺し」の心理学 (ちくま学芸文庫)

こないだ朝日新聞でインタヴュー記事に出てたけど。

戦場で心はどうなるか 元米軍教授の「人を殺す」心理学:朝日新聞デジタル

*1:私はDMMで探してしまったけど、Amazon Primeにもあった。Prime会員なら見放題だよ。

*2:以下、ずっと西郷と書いてしまってたけどよく見たら輝彦違いだった……てへ