day * day

日々是々

山猫少年H。

この文章、本誌掲載時に沿って書いたので、単行本ではまた結構、変わってしまいましたけども。
本誌分は本誌分として残しておきますね。

HはHyakunosukeのH。

未だに103話の衝撃が抜けないのですよ。
尾形百之助の回想。
彼の過去や為人について描かれることが怖くもあったわけで。自分の想像や妄想より「つまらない」キャラクタだったら、いろいろと失望するじゃないですか。キャラというより、作品、さらには、作者に対して。
新年1作目で明かされた彼の過去は、そんな不安を一掃して、何から何まで、期待以上に、尾形は尾形らしかった! と言わざるを得ないっすよ。

父親である花沢中将の弑逆については、さもありなん、実に彼らしい、という感じだが、母親の一件は、ああ、やっぱりそういう人なんだ、と、パズルのピースがハマるように合点がいった。尾形が最近はなんだか頼れる先輩、ナイスガイみたいに振る舞ってたから、あれ、この人もしかして意外と“フツーの”人なの? と危惧してたけど。
やっぱり彼の冷血はぬるくない。

念のため。おそらく彼は、ひどく虐待を受けたりとか、あまりに悲惨な幼少期を送ったわけでもなさそうだ。それにかなり理知的な人物だから、凶悪事件やらかして網走送られて刺青の脱獄囚として皆に追われる側にはならないで済んだタイプとみた。
祖母さんには感謝だわ。

母親を殺した真の動機はなんだろう? 案外、花沢中将の「哀れで疎ましかった」というのが図星かなーという気もする。
尾形自身がいう「母を父に会わせたかった」というのはなんだか取って付けたような気もするし、父に会いたかったのは百之助少年自身じゃね? とすると、これ、都市伝説にいう「サイコパス診断テスト」髣髴とするんだよね。*1
父親のことばかりで自分を振り向いてくれない母に絶望した、というのもありそう。母親にとっては息子は花沢が来なくなった原因の一つで邪魔な存在ともいえるし、しかも息子がなにか普通ではないことに気付いて愛情注げなかったかも。そんな母を「これ以上嫌いになりたくなかった」。
彼が本当に殺したかったのは自覚するように出来損ないの自分自身で、しかし死にたくはないから、母親か自分かで親殺しを選んで、幼少期から「巣立ちした」。

彼はすごく理知的な人物だ。
彼自身、自分に欠けてるのは「愛」や「神」に反応する良心や心だとわかってるのだよ。
さらに、人がなぜそれを求めるのかということまで頭で理解しちゃってる。理解はするけど自分には共感できないから存在をあやふやだと言ってしまうし、だからこそ鶴見の甘言に乗せられないし、彼に心酔する者達を見下げてる。

百之助少年に対して祖父母はどのように接してたのだろうね。本人「バアチャン子」ていうように少なくとも祖母は孫を愛する平凡な人物っぽいよね。
彼らは娘の死を百之助少年の仕業だと気付いたのかどうか……全く知らなかったのか、あるいは気付いても孫を愛するあまりに病死や自死として庇っちゃったのか。
きっと幼少期から“扱い辛い”子供だったろうなあ。利発なのに、どこかオカシイ、協調性ない、目を離すとなにしでかすかわかんない鬼っ子……絶対、一人で山で行方不明になって村中挙げて捜索されたことがあるはずだ。*2

尾形を、カッコイイというのとはちょっと違う気もする。リアルに周囲にいたらけして付き合いたいとは思わないし、イヤな人物であるのは確か。
他のキャラたちにことごとく疎まれて、クソ尾形とかまで言われてたりする。
しかし、そのイヤなところ、冷血さ、凄烈さ、孤高、総じていうと、非人間性に強く惹かれてしまう。
尾形自身であることには憧れるのだ。
いや、不健全だっつーのはわかってるけど。

*1:「幼い子を遺して夫に死なれた女が、夫の葬式で夫の同僚だった男に出会い恋に落ちた。数ヶ月後、女は我が子を殺した。その理由はなにか?という問いに、普通の人は『再婚に子供が邪魔だった』と答えるが、サイコパスは『子の葬式で再び彼に会えると思った』と答える」てやつ。あくまで飲み会のネタ程度の都市伝説だけどな。これ自体、八百屋お七の話にも似てる。

*2:子供時代の鳥撃ちが動物虐待にあたるのか迷う。子供時代から見られる問題行動としてよく論われるけど。