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日々是々

金神243話「上等兵たち」感想 ゴールデンカムイ

今回は最初から最後まで密度高くて、読んでるほうもテンション上がる。

鶴見×尾形、上等兵s、尾形×勇作、なんて、私の好きなエピソードだけ詰め合わせという感じでお腹いっぱい。*1

総じて、作者氏のファンサービスには敬服仕り候。
尾形の物語描いとけば読者が満足するだろうって、その通りなんだけどさ?

扉からいきなり怪しく不穏で妖艶で。なにこの三角関係。
サイコパスな尾形、マキャベリストな鶴見、ナルシシストな宇佐美、て、ダークトライアド*2な人たちの、性行為だか殺し合いだかわかんないような愛憎劇に、感無量! そこに光の勇作さんまで絡んでるしっ
病室にまで現れる勇作さん……でも彼、尾形を責めるわけじゃないんだ……笑ってるし164話では兄様の身を案じてるし。
尾形が感じてるのは罪悪感ていうより、痛恨のミスってふうにも? 今まで合理的な理由のない殺人はしたことないから、ちょっとバグってる。
宇佐美が勇作さん殺しを唆したようにも見えるけど、でも、尾形の心の内はもう決まってて、同意してくれる相手だから宇佐美に相談したのかもね。
宇佐美は宇佐美で、なにが理由で勇作さん殺したかったのか、単に人死にが見たかったのか、尾形困らせたかったのか、鶴見の命に背かせて不興を買わせたかったのか……
尾形と宇佐美が妙に親密で、今までこの二人の関係が出て来なかったけど、絶対、この二人、気が合いそうって思った。 二人して戦闘や殺人術について延々と語り合ってたりとか(で、そこに鶴見がやって来て、刃物で狙うなら心臓か腎臓だ、とか実例交えて指導しそう)

戦場で、おかしい二人がおかしな会話してるのが可笑しくて(笑)
二人ともおかしいんだけど、おかしさの方向性が違ってて、共通してるのは剣呑なとこっていう――このコンビ、「パルプ・フィクション」のヴィンセントとジュールスとか、タランティーノの映画思い出した。
尾形が宇佐美にいちいち相談してるけど、おかしいといや二人揃っておかしいので意味ないし ――ここで「おかしい」ていうのは、非難したり断罪したりではなくて、エキセントリックとか、平均からの乖離が著しい、てくらいの意味。
私としては、彼らのような人物、現実で身近にいては欲しくないけどフィクションの中では大好きだし、むしろ応援したくなるんだが。

226話でわざわざ宇佐美の家庭環境が描かれたのが今になってわかる。
二人の共通した特質は両親からの愛情の多寡とは関係ない。
でもその違いは、社交性、対人スキルの差に出てるんだ。
尾形は自分の心の有り様に疑問を持ってて「おかしい」んじゃないかと不安で、だから高位の存在からの祝福や承認を求めては、失望するを繰り返してる。だけど彼は自分に祝福を与えるに相応しいかって、相手を値踏みする……で、それにそぐわない相手はさっさと見限るか最悪殺してしまう。母も花沢パパも鶴見も、彼を失望させたのだ。

対してナルシシストな宇佐美はちっとも自分の存在に疑問持ってない。
彼に取って家族からの愛、同胞愛は疑うまでもなくあって当たり前だから。人の横の繋がりを信じてる。自己肯定感強い。
だから宇佐美は尾形を甘えん坊とかカワイイとか言っちゃう。マウンティングも含めて。
その尾形はまた鯉登のことボンボンとか言うし。鯉登どんだけ甘ちゃんなんだか。
鯉登や月島のことは眼中にない宇佐美が、尾形には殺意を抱くほど嫉妬するのが意外で。
んー従前、鶴見の一番のお気に入りは、実は尾形だったんじゃないの(サイコパスサイコパス同志惹かれ合うっていうしね?)て思ってるので、もしかすると尾形ももっと若いときに鶴見に出会ってスカウトされたんでは、などと妄想が膨らむ。

馬車のシーン、あの馭者が宇佐美だったというのは納得。陰謀に一番深く関わってる人物のはずだしね。
にしても鶴見、馬車の中で何やってんだ(笑)
膝触るだけじゃなくて、わざわざ距離詰めて左手に変えて胸触ってるとか……え、その先までヤったの!? 尾形と鶴見、もしかして肉体関係まであったの?!などと期待妄想してしまうじゃないか。
……あ、でも、これ、あくまで宇佐美の視点だ、尾形の記憶では膝触られただけ、宇佐美はもっとツッコんだ記憶をしてる、のかも知れない。
だけど、鶴見のセクハラ目にしてるのに、「愛してくれると」なんて、宇佐美からするとそれは愛ではないと……宇佐美にとっての愛情表現ってなんなんんだよ?

尾形の「最後にいろいろ話したかった」て台詞、まあ額面通りに受け取るとして、腑に落ちる。103話のあの花沢パパとのシーンが、なんだか、告解に思えたしね。
最後に父が両手で×*3……もとい呪いを与えたのはむしろ尾形にとって救いとか解放だったんじゃ?って気がする。逆にあの場で「許す」とか「愛する」とか言われたりしたら、ずっと父やその代理の鶴見に捕らわれそうで。
ああそれが、宇佐美のいう「愛」なのか。宇佐美は、自分だけを見つめてくれることが「愛」だと……彼は情動が激しすぎる……尾形にとっては眼差しをくれることが「愛」だけど、そんなのは宇佐美にはあって意識すらしない、それを尾形は渇望してる……二人の「愛」の重みが違うんだな……

私は尾形がイチオシなのでどうしても尾形を主軸に物語を読みたくなるけど、宇佐美を主軸にすると全く違う話になる。
病室で宇佐美の、「勇作を殺した」から始まる台詞が、なにか、節を付けて歌うようで。
前半は尾形のことなのに、次のコマでは宇佐美自身のことだ。子供っぽい言葉になって、で、それを受けて尾形がまた冷静で大人な口調になってる。
勇作や鯉登を挙げて、尾形も将軍の息子だから有効な駒として見られてるだけ、ていう……これ、智春殺しのときと同じだ。
対して自分は父の威光でなく自分自身で鶴見に寵愛されてるんだ、と思いたい。でも尾形は、彼も所詮は駒で、父の威光のない分「一番安い駒」だと。
尾形は将軍だのってことはどうでもよくて、ただ生身の父として自分を見て欲しかった、むしろ世俗の権威しか見てない宇佐美を「安い」て言っちゃう。
尾形からすると、両親に愛されて健全な家庭で育った宇佐美のほうが、鯉登や勇作と同類で、羨むはずなのに、そうは見えない。
凡夫の父に愛された息子と、御立派な父に愛されなかった息子とが、同じようにエキセントリックな人物に育った、というのは、尾形には救い、気休めだったのかな。親の愛とは関係ないと。

宇佐美が、尾形思い浮かべて自慰してるのが割と衝撃的……鶴見じゃなくて。宇佐美の中では、尾形と智春が同一になって、で、殺し損ねた尾形を思い浮かべてる…… 宇佐美、尾形に対しては素直に嫉妬をぶつけられるのは、類は類的な親近感なんだろうけど、尾形は智春みたいに純真無垢じゃなかった。
元々鶴見の命で、尾形を逃がす予定だったのが、宇佐美、尾形に煽られてつい、本気の殺意で銃剣抜いた。
P12では怒って鼻に皺寄せてるのに、次のページではもう感情が振り切って、目を見開いて、表情作ってる余裕ない。
宇佐美の表情の変化が見事。
もしかすると病室での件は性的暴行未遂のメタファかな? 銃剣で刺し殺す、なんて性的要素が濃厚な。でも尾形は付き合う気がなくてさっさと逃げた。
きっと床に倒れたまま動けないでいるのは賢者タイム

宇佐美が射精のときに馬になるのがオカシイ(笑) 彼にとって馬って殺される側じゃん……そのへんドMなんだ……ドSでもあるけど。
智春殺したとして射殺された馬に自身を重ね合わせてるんだとしたら、鶴見の馬になりたいとか、より一層、変態度高いな!

宇佐美、尾形と鶴見の仲を裂きたくて、満鉄のことを持出したのだとすると、結果として造反組を作って鶴見隊の戦力を削いでるし、智春殺しのときも鶴見の左遷の原因になってるし(でも、あくまで鶴見が宇佐美に罪悪感背負わせるために言っただけで、ほんとの理由はわからないけど)、宇佐美、自身の嫉妬のためなら鶴見を困らせることもするので……この先の展開が楽しみ(笑)
もっとデカいことやらかしそう。

そうしてようやく、今現在の尾形。
尾形の表情がこれだけ繊細に描かれるのも珍しいw
尾形「狙撃兵は「人間を撃ってこそ」だ」
この台詞!
妙に端正に描かれた尾形の顔といい。
これでこそ尾形だよなあ。
やっぱり尾形のこと大好きだ。

あーもしかして、少年尾形と鶴見の出会いの話も今後、マジで語られたりする~?

ところで巻末の今週の質問、
「思わずジャケ買いをしてしまったCD・本・漫画など」とあるけど。
私には、『ゴールデンカムイ』が正にそうだった。
2015年5月26日、3巻が出た直後、たまたま本屋で、ジジイ侍が刀振りまわしてる表紙が目に留まったんですよ!
事前に全くなんの予備知識もなくて、その表紙目にして、見本誌読んで、即レジに向かったのさー
ジャケ買いは滅多にしないけど。*4

*1:青年誌だし男性作家だし登場人物ほとんど男性だしというか今回は女性が全く出てこないし、なのに、性的なニュアンスのある愛憎劇が延々と語られるってなんですかコレ。私は一次でも二次でもキャラというより自分が読みたい物語を書きたいんですよ。どうせ原作では語られないだろうって油断して腐要素込みで補完するつもりで二次書くと、原作で腐要素入れてそれ以上のドラマ綴るとかズルイー。特に尾形周辺。103話でほんのり匂わされてから17巻までずっと放置だった鶴尾ってやっぱり公式だったのねっ、とか、尾勇にしても本誌掲載から単行本でだいぶ詳細にされてたし、全然関係が語られないけど絶対この二人はなんかあるだろうと妄想してた上等兵sとかね?

*2:ダークトライアド - Wikipedia……冷淡なサイコパス、たらしなマキャベリスト、自分が一番なナルシシスト――共通してるのは、共感性の有無と傍迷惑。必ずしも犯罪者になるわけではないので、まあそういう人格なんだとしか。中でもサイコパスは先天性の要素が大きいっていう。

*3:昔「ひょうきん懺悔室」の神様はグレート義太夫だと思ってたのが自分だけじゃなくて安心した - Middle Edge(ミドルエッジ)

*4:今までジャケ買いした本って……ポール・オースターマイケル・スレイド、クレイグ・ホールデンくらいか……