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日々是々

金神26巻の感想。 ゴールデンカムイ

表紙はヴァシリ。*1
モノクロだと、彼の瞳はアイスブルー、髪は金髪でイメージしてたけど、アニメで髪がダークブラウンなのが意外に感じたものだった。→CHARACTER -TVアニメ「ゴールデンカムイ」公式サイト-
この絵だと、ブラウンよりは金髪で、元々イメージしてたのに近い。
作中、必然的にキャラのほとんどがアジア人なので、貴重な、黒髪でも白髪でもないコーカソイドですよ。

よく見ると、ヴァシリの吐く息は白い。
このへん、尾形よりももうちょっと「人間より」なのかもね?

裏表紙にはオオヤマネコ。
ってことは、これは樺太の場面ってことになる。

紙本限定特典の、本体表紙の服装図鑑は、アットゥシ。

ところで、紙本の表紙だと、ヴァシリの頭巾や装備、画面全体が緑がかって見える。いわゆるオリーブ色に近い。
しかしKindle版だともっと赤味が強い。国防色というような。
iPhoneの画面で見ても、やはり、緑味は薄い。
どの色が正しいのだろう。*2

杉リパのカラー口絵は、254話のカラー扉。

目次

各話

第251話『札幌ビール工場』

お互いの位置関係がよくわからない……
と思うと、この地図、連載時には人物配置が全く違ってたのですね。
*3

牛山と宇佐美のバトル、そいうや宇佐美も体術得意なんでした。
この一連のシーケンスが流れるようで美しい。
離れろといわれても退かない宇佐美、さすがですよ、彼も一流の戦士。宇佐美が表情消えてるのも滅多にない。
美しいシーンなのに、鯉登と宇佐美のお見合いとか、宇佐美が門倉追っかけてくとかって、「なんでだよ!!」

牛山たちがいるのが工場の外なので、尾形は工場外の火の見櫓にいるようだ。
そもそもどうしてここにいる?
ビール工場が決戦の舞台だといつ知ったのだ。
ヴァシリは更にその外の一般の建物の屋根の上にいることになる。

ケガして土方に誉められて目を潤ませてる夏太郎。
嬉しかったろうなあ、やっと土方に認められた。

みんな、前ヘ前ヘと進もうとする。
そのアグレッシブさ。「前進」といえば聞こえがいいけど、今までの多くのバトルと違って、皆が皆、誰かを仕留める・狩る――殺すのが目的なせいか、いっそう殺伐だ……

獲物を狩りに来たジャック・ザ・リッパーや上エ地*4、その刺青の囚人を狩りに来た杉元や土方、鶴見たち。
何の目的なのかぜんっぜんわかんない尾形、それを狩りに来たヴァシリ。
杉元狩りたい浩平*5

まさに、「そこに愛は在るのか?」
積極的に、個人に関わろうとすることを愛というなら、今回は愛に満ちあふれてはいるな。
これも愛、あれも愛、たぶん愛、きっと愛~♪

第252話『貯酒室』

案の定……
酒蔵で大混戦とか、大惨事が目に見えてるじゃないのさwww

アシリパさん、杉元の弾除けになるつもりだけど、二階堂は杉元殺したいだけだから、アシリパさんじゃ弾除けにならないんだ……
月島がいて助かったけど。
このへん、すんなりと思うようにはならない、焦燥。

皆が皆殺し合いになってるとこに、ビールでみんな酔っ払うとか、……ナニコレ。
鯉登のお高いオーダーメードの軍衣が! うぇぇぇ……
ビール塗れとか、洗濯大変だ……

フラついてる杉元は『酔拳』が元ネタ。*6
でもジャッキー・チェンじゃないから、酔えば酔うほど強くはならない(たぶん

菊田さんは常識人だ。
少女をぶん殴るなりして大人しくさせようとは考えない。
一番冷静だし。
彼は軍中央についたし、今後40年近くは勝ち組なのだ。もっとも彼のついた中央が生き延びるだけで、菊田さん自身がどうなるかはわからないけども。

なぜ、鶴見や菊田は、アイヌ殺害事件を調べていたのか?
鶴見はそもそも何の為に、宇佐美や月島や鯉登や尾形を、日露戦争前に集めてたのか? そこには戦死者たちに報いる大義はない。
1902年の音之進拉致監禁事件のときには、菊田も尾形も鶴見の配下にいる。

あれ。
尾形「鶴見中尉に渡っちまうな」
ってそれを阻止したいのだとしたら、尾形は菊田とは組んではいないことになる。
菊田は、鶴見が金塊を見つけ出すところまでは成功させたい。
ホントに、宇佐美の言ったとおり、鶴見を恨んでるだけ……?

245話のカラー扉を解釈するなら、鶴見はやはり本気で戦死者たちに報いるために満洲国のようなものを作ろうとしているのかも知れない。
しかしそれを尾形が阻止したいのなら、結局は、父親である花沢中将の遺志の通りってことになる。
中央は、鶴見に金塊を見つけ出させるつもりだろう……
満洲地域は今後着々と日本が支配圏を広げて、30年後にはとうとう満洲国なんて傀儡政権の独立国を作るわけで……この満洲国樹立した関東軍板垣征四郎ってちょうど鯉登の世代なのだ。

今の尾形の立場が、5巻のときから決められてたのだとしたらスゴいんだけど。そうでないとしたら、作者氏も扱いに困るキャラなのかもね?
尾形の、特に女性への人気は、作者氏には(それに恐らく多くの男性にも)想定外であるらしい。*7
尾形のような、他のどの人物に対しても、同じ人間としての共感や友愛を持たない、物語全体を見下ろしてるのって、読者や作者の立場に一番近い。
だから尾形はたまに第四の壁(誌面)の手前にはみ出る。
彼は、物語全体を崩壊させるほどの力を持ってる。
その尾形を、作中に引き戻す存在としての、勇作さん。

勇作さんは、目下、尾形にしか見えていないので、それが幽霊のような超自然の存在なのか、尾形の幻覚なのかは、実はどうでもいいことかも知れない。*8
どのみち尾形を通してしか、読者には語られないので。
この作品は、絶対的客観的視点を持つ者がいないので。客観的視点で描かれてるように見えても、必ず、だれか作中のキャラの視点だ。
そして、おそらく尾形は、鶴見と同様に、勇作さんを美化し過ぎてる。

尾形の前に現れた勇作さんは、アシリパさんも、尾形も、読者も、作品そのものも救ったことになる。
勇作さんを殺したことで、勇作さんは尾形の(その他多くの者たちへの)弾除けになってる。

従前。
尾形は徹底したエゴイスト故に、自身の目標を持てないタイプのように思ってるんだけど。
その彼に、外挿的に目標や行動の指針を与えるのが、勇作さんやアシリパさんではないのか?

まるで北極星みたいだなあ、と思ったら、そういや、ここはサッポロビール工場。
サッポロビールのエンブレムって北極星なんだった。

サッポロビールロゴマークであり、 札幌市の名所にも掲げられた星。 実はこれは、 「五稜星」と呼ばれる星なのだ。 五稜星は、北極星をモチーフに、 開拓使のシンボルとして誕生したもの。
1876年の年伝説|サッポロ年伝説|サッポロビール

ヴァシリには、なぜ尾形がそこで躱したかわからないだろう……
そもそも尾形が勇作さんを幻視するようになった原因ってヴァシリとの対決だしね。
樺太篇の決着がまだ着いてなかった。
最後のコマ、視点はヴァシリなのに台詞は尾形。この声がヴァシリに聞こえるとも思えないし、聞こえたとしてもヴァシリには日本語わからないだろうし。
影を感じて仰け反る尾形、彼がこんな顔するのもレアだ。
勇作さんは決まって右側に現れるので、尾形は失った眼で勇作さんを見ているのか。

第253話『父の汚名』

尾形が戦士っぽいアクションしてるのも珍しい。
そこらの通行人のおっさんオトリにして死なすのも躊躇しない。
高みから全てを見下ろしてる尾形も好きだけど、こういうときの尾形も、活き活きとして、チンピラっぽくてお茶目で好き。

尾形「機会はそうそう巡って来るもんじゃねえぜ」
ってそれは尾形自身にもいえるよね。
彼の目的がなんにせよ。

勇作さん、つくづく。
物語の開始時点で既に死んでるのに、すごーく重要な役割になってる。
尾形は悪霊だと思ってるようだけど。
ようやく、勇作さんに関しては、なにか感じるようになった様子。
勇作さんが、尾形のトゥレンペなんだ。
アイヌの「憑き神トゥレンペ」、フロイトがいう超自我(スーパーエゴ)と似たような考えなのが面白いよなあ、と。人の心を分析して考えようとしてる。
>……アイヌは、自分とは別の意志を持った存在が自分の中にいて、それが自分にそういう行動をとらせるのだと考えています。それは現代の言葉で言えば「無意識」とか「意識下」と呼ばれるもので、アイヌはおそらくずっと前から、そういうものを自分たちの世界観の中に位置づけてきました。(→アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」 (集英社新書)
*9

尾形が、弟くんを自分に仇為すものだと捉えてるとするなら、それは尾形自身の罪悪感の投影ってことになる。

尾形「そこまでお人好しではないだろう?」
勇作さんの正体が、尾形の幻覚であれ、超自然の存在であれ、素直に助けられたことを認められない尾形。
彼は無償の「愛」を信じない。
彼にとって「愛」とは供物の引換に向けられる眼差しだから。まして、殺したのに自分を助けてくれるような底抜けのお人好しなぞいていいはずがないので、自分に仇為すために出てきたと思いたい。

宇佐美が八面六臂の奮迅してて、コイツ、戦士としてすっごく有能なんだけど。
……でもなんで門倉に執着するの……
殺伐としたバトルなんだけど、台詞がどうにも間延びしてて緊張感削ぐのが、宇佐美ってキャラ。

アシリパアイヌの未来を優先させる」
ってのは大きい。過去ではなく未来を。
もしかすると父は罪人かも知れない、と認めることは、また、一つの成長だ。神に等しい父を、象徴的な意味で彼女は殺す。*10
菊田さんがまた幾重にも陰謀を抱えてるのに、いうことは嘘がないのがコワイ。

菊田「お前の周りの人間はみんな殺されるんだぞッ」
アシリパさんは、「鶴見に殺される」んだと思ったろうけど、実は軍中央のことかも知れない。

みんながみんな、工場内へ駆け込んだけど。
……なんで警備の人とかいないんだ……
不審者しかいないじゃん……

ちなみに。
杉元「俺の30年式!!」
ってのは、実は尾形が5巻で病院から脱走したときに持出した個体だったりする。10巻飛行船の上で交換してそのままのはず。

第254話『ウオラムコテ』

尾形の思い出すヴァシリ、美化されてないか?
かたや、ヴァシリの描く尾形は妙に童顔だし。*11
お互いに気持ち通じ合ってて、なんだかな、この相思相愛っぷりは。
尾形、相手を手練の狙撃手って力量を認めてて、それでことさら美化してるのかも知れない。
狩りの獲物は、手強くて美しいほうが仕留め甲斐があるというもの。

我々読者は一体なにを見せられてるのだ。
宇佐美と門倉がパンパンパンとか。
なんで宇佐美、軍衣の前開けてるのだ。いつ開けた。
宇佐美「オジサンですねぇ 体力無いなぁ」
のときには、宇佐美、軍衣の前きっちり閉めてるのに、
宇佐美「このお腹…」のコマではもう詰め襟開いてる。
しかも、弾薬盒つけた革帯まで外してる!
門倉のお腹まさぐってるのと同時に革帯とボタンはずしてることになるんだけど!?
息弾ませながらスパンキングしてたり、シーンとしては単なる拷問なのに、どーにも性的暴行の絵。
服の前開けて臨戦態勢だったり、効果音だったり、門倉さんも喘いでたり。*12
エロスでなく暴力が、性的な行為に結びつくのは、この『ゴールデンカムイ』って作品全体そうだけどさ?
特に宇佐美ってそういうキャラだよね。暴力と下ネタが渾然一体。
宇佐美「出してくださいよ!!」
なにを!?

……ええもちろん刺青人皮デスヨ。
これ牛山のコピーだ。オリジナルが失われる可能性が低そうな牛山のコピーを持たされてたってあたり、土方の門倉への評価なのだろう。

その直後に尾形と宇佐美のバトルになるとか、こういう展開には痺れるゥ。
尾形、右の視界ないから気付くのが一瞬遅れた。まだ右眼がないことに慣れてないようだ。
尾形と宇佐美、鶴見の下では一番に親しい、戦友と言ってもいいような仲ではあったんだろうけど、所詮はサイコパスナルシシストなので、類は類になっても友にはならない。
尾形は戦闘よりも殺害を優先するし、宇佐美は虐待と支配。

ジャック・ザ・リッパー、あれ、アシリパさんには優しいのが意外。ペドフィルじゃなかった。
というか、誰も、アシリパさんを性的な存在ではなく、無性別の子供としか見てないんだな。
アシリパさん本人は、杉元に対しては恋心があって、女として見て欲しいようだけど。*13
男同士で性的なニオイが濃厚なバトルしてるのに、女性が出てくると一気に性的要素なくなるのが、このマンガ……

ジャック・ザ・リッパー処女厨のミソジニストだった。アイヌの伝説に涙まで流して歓喜するとか。
つまり女性嫌悪ヘイトクライムだと。
史実でも犯行動機が、娼婦嫌いって説は根強い。
この「娼婦嫌い」の感覚は古今東西、どこの社会でも割と広まってて、買う客(ほとんど全て男)の側は無視して娼婦を一方的に堕落した犯罪者と見做す言説は多い。男尊女卑の形態の一つだよ。
P72、最後のコマに描かれてるのはロンドンの事件の被害者たち。だけどみんな綺麗な、眠るような顔に描かれてるのが、優しい。

JtR「やっぱり女性はひとりで子供産めル」
アシリパ「私は父と母が愛し合って生まれたんだ!!」
ちょっと唐突に思えるこの応酬。
人を、女性というだけで人間ではなく偶像として見なそうとする人達、それは、ジャンヌ・ダルクに擬える土方や、父の娘として見る鶴見やキロランケ、自分の純真さの象徴として見る杉元、全てへの反発でもある。
父と母にも名前があって、自分は自分個人としてこの世に在る、って、脱アイドル宣言*14
一番の対象は、自分の遺志を継がそうとするウイルクに対してかも知れない。
アシリパさんもいずれ(象徴的な意味での)親殺しをするのか。

アシリパさんの母親。
リラッテ
メインキャラの母親で名前が出て来るの、鯉登ユキ、尾形トメに次いで3人目。

にしても、ジャック・ザ・リッパーのおかげでまた一つ、父との記憶が蘇った、って、どこに切掛があるのか、わかったものじゃない。

第255話『切り裂き杉元』

彼女、どうしてオストログが息子だと知ったんだろ? 「腹に痣のある男」のことを娼婦仲間に聞いたのかな?
このマイケル・オストログは、現実のロンドンの事件で名前の見られるマイケル・オストログとは、プロフィールも全く違う、架空の人物になってる。*15
母親が娼婦だった、って説はちょっと新しい。

ジャック・ザ・リッパーの正体が王家やその関係者って説も根強い。
ジャック・ザ・リッパー「ワタシは処女の母から生まれた神の子だ…」
金神の作中で「神の子」と称される者は何人も出てくる。アシリパさん、勇作&尾形、稲妻&蝮の子。
彼は教会で育てられたので、強力な性嫌悪を植えつけられたのかも知れない。特に社会が個人に与える抑圧が現代よりもずっと強かったビクトリア朝時代のことだし。
自己の性欲を恥じていて、それでも抑えきれない性衝動を女性のせいだと転嫁する。*16だから自分は処女から生まれたと思いたい。ナザレのイエスって実例があるから自分もまたそうかも知れないと。
それが、自分の母が娼婦だと知って絶望した。

アシリパさん、やっぱり尾形を射たことがトラウマになってるようだ。
そこに現れる杉元。
彼女の命を、でなくて、彼女を殺人の罪業から救うために、ってのがイイ。

杉元「人殺しの風上にも置けねぇぜ」
……うん、まあ、今まで多くの人殺しに会ってきたし、杉元は自分もまたその人殺しの一人だと自覚してるからね……
ぎりぎりのところでやっぱり人を殺すことに躊躇するアシリパさん、彼女のためなら人殺しなんか平気な杉元。

ここからサブタイ通り、延々と杉元がジャック・ザ・リッパーを殺す場面。
連載時から5頁増量しての惨殺ショー。
なんで、このシーケンス、こんなに大増量なの!? 即死させないで、痛めつけてる。杉元が!
もしかすると、杉元自身は意図してないだろうけど、ロンドンの事件の被害者「5人目」メアリー・ケリーを模してるのかも? 今も残る現場写真からするとメアリー・ケリーの死に方のほうがヒドイ。*17
あるいは、処女厨のミソジニストによるヘイトクライムというのが、杉元的には*18一番に許せなかったのだろうか?
ただし作中では、JTRの殺人そのものはあっさりとしか描かれないし凄惨な死体の様も出て来ないから、杉元の怒りに納得し難いのも確か。JTRはアシリパさんには妙にジェントリーだし、むしろアシリパさんが一方的にストゥでぶん殴って矢で刺そうとしただけなんだよね。

JtR「我がたましいを御手にゆだね…」
ジャック・ザ・リッパー、両手・脇腹・額の傷は、なんだか、ナザレのイエスを思わせる。神の子を摸して死ねたのなら、本望なのかね。

彼にトドメさしたのが、女で人生狂った牛山ってのが出来すぎだ。
牛山は、正統派のオンナスキーなのだった。
彼は娼婦を観音様といい、むしろ崇めてるくらい。

暴力にいちいち思い悩んで理由を求める杉元やアシリパさんより、もっと暴力にカジュアルな上等兵たち。
二人とも「生まれながらの戦士」だ。戦闘能力だけでなく度胸、殺人や暴力に躊躇しないってタフな精神。だからこそ、上等兵になったともいえる。

この宇佐美×尾形のバトル、連載時から大幅加筆されて、いっそうドラマが深まった、というか、殺伐感が強まった。
大歓迎だけどね。

アシリパ「私は父と母が 愛し合って生まれたんだ!!」
と、
杉元「誰から生まれたかよりも」 と、二人の台詞が微妙に咬み合ってないと思うと、これは同時進行してる上等兵たちのバトルに呼応してるのかも知れない。
尾形は自分を愛のない結果だと思い、宇佐美は生まれがコンプレックス。
で、宇佐美が尾形のことを、「商売女の子供の分際で!」と罵るのは、愛の不在と、生まれの賤しさとを同時に見下してるわけだ。少なくとも宇佐美は、自分の父母には愛があったと知ってるから。
両方を欠いてる尾形よりはマシだと。
宇佐美はそこでも上下にこだわる。
そしてこの二人とも、杉元のいう「何のために生きるか」って目的を欠いてる、っていう。杉元的にはそれが一番大事であるらしい。

宇佐美が本気で怒るのは尾形に対してだけ。
尾形に対してだけは心底の感情をぶつけてる。
25巻の加筆も合わせて、宇佐美のキャラが、それまで茫洋と掴み所なかったのが、作者氏のいう「危険な男」という具体像がハッキリしてきた。

宇佐美は喋ってる、尾形に対して対話、というか、服従を求めてる。同朋として。
彼のプライドは、ホモソーシャルな集団の中で上位に立つこと。だから、身分にこだわるし、尾形を商売女の子供と貶す。
宇佐美、この時点で尾形に対して絶対的優位にあって、いくらでも殺すチャンスあったのに、結局、尾形に話しかけることで機を逸してる。
宇佐美がなかなか尾形を殺さなかったのは、尾形に対して、銃剣や体術で自分に向かって来るか、自分に縋りついて命乞いをするか、を期待したのだろう。常々、宇佐美は尾形に、兄貴分のように振る舞う。
宇佐美「銃剣を抜いてかかってこい」
の台詞からしても、チカラで組み敷いて力関係をはっきりさせたいのだ。
二人の付合いはかなり長いはずだから、体術で組み合うことも何度もあったろうけど、尾形は勝てたことがなさそう。だから格闘や命乞いなら、宇佐美は絶対的に優位に立てる。

尾形は喋らない、宇佐美を対話の相手ではなく、ただ排除すべき障害としか見てない。
彼は自分の力量にプライドを持っている。他者と比べたり序列にこだわったりしない。彼は他の人間を同朋と見做さないから。他者に対して、母の身分を蔑んだり、父を誇ったりもしない。徹底して孤高でいる。
宇佐美「結局お前は銃にしかすがれないのか」というのは、尾形の本性を捉えてる。尾形は人間の共同体ではなく、銃の腕だけをこの世の拠り所にしている。
尾形が今回、呻き声以外は喋らないの、宇佐美を対話の相手と見なしてないばかりか、読者にすら、感情を説明しない……尾形、しばし、そんな描写がある。
宇佐美のほうがずっと人間らしい。

尾形がまるで化け物のように描かれるのは、それが、彼の本性だからかも知れない。
彼は普段はフツーの人間のフリをしてるけど、余裕のないときは、化け物じみた本性が剥き出しになる。
作者氏によれば美形らしいけど*19、たまに彼はひどく醜い顔したり、化け物のようになったりする。
「人間」とかいう幻想を剥ぎ取った、ナマの本性として。

念為、私は、そんな尾形が一番に好きだけどねっ

仰向けに倒れたり、腹這いになったり。そのたびに、弾薬盒、どこいくの……硬いし、20g*20の実包が最大計120発だから弾薬だけで2kg、容れ物の重さ合わせて3kg超えるはず……あれ装備してごろごろ転がってるとかなり痛そうな。

宇佐美、自信過剰で機を逸するのはいつものこと……
あの位置はヤバい。杉元も腹の真ん中には貫通銃創ない。*21
現代の医療技術でも、あの部位の貫通銃創は厳しいんでは?

よくよく見ると、宇佐美が38式のリリースボタン押して落下した弾は3発、その前にボルトレバーを引いて飛び出した1発。宇佐美が蹴散らしたのは3発なので、1発どこかに散ってる。
宇佐美、弾を数え忘れてる。
P95の3コマ目、弾薬が4発に見えるのは、1個は最初に飛び出したやつらしい。 牛山との格闘のときに1発撃って、その後尾形が補充して5発入ってたかどうか? 補充してなくて4発しか入ってなかったとしたら、宇佐美が蹴散らしたのが3発、尾形が咥えた(P97の3コマ目、弾薬の影が見える)のが最後の1発ってことに。

ところで
宇佐美「取れよ その弾薬を装填するのが早いか…」
のコマの宇佐美、なんでズボンの前ボタン開けてるの?
これも単行本で追加になったコマ。

第256話『篤四郎さんの一番』

宇佐美は自分の死を悟った。
もはや尾形のことはどうでもいい、鶴見の許へ還ろうとする。
彼が望んだのは献身の報いなんかではなく、もっと大きなもの。

尾形に嫉妬して、鶴見に反目させたのは宇佐美自身だ。
造反に至った決定的な原因は、やはり、宇佐美の言葉だったのかも?
巡り巡って、尾形と宇佐美は殺し合い、尾形が勝った。

尾形は、仮定法で話してる。
尾形「その陳腐な妄想に付き合うとすれば」(第243話)
尾形「安いコマかどうかそんなに不安なら
本気で、鶴見が宇佐美のことを安いコマとしか見てないと思っていたのだとすると、尾形は誤解してることになる。それは彼自身が鶴見にタダのコマとしか見られてないと思ってたことの投影。
それとも、そもそも尾形は他人に全く関心ないので、二人の思惑を考察することもない、それで宇佐美の「妄想」を前提として話したのか?

みんながみんな、少しずつ誤解していたのかも知れない。この作品に全知全能の者はいない。
宇佐美は鶴見の寵を疑ってしまった。
鶴見は、宇佐美の恋情の激しさを計り損ねた。

尾形が腹を撃ち抜いた時点で、宇佐美はじきに死ぬことが確定してる。
二度目の射撃には、弔辞と腕試し以上の理由はない。
杉元たちのいる部屋越しに、窓枠の重なった狭い隙間を通した精密射撃をしてる。
これがスゴいの、宇佐美が一旦建物の角に消える、次に窓枠の隙間に現れるはずだと狙い付ける。
トリガー引いた瞬間は宇佐美の姿を見てなくて、移動速度から予測射撃してる。宇佐美は既にヘロヘロになってて動きが予測出来ないし、馬を走らせてるので、さすがにヘッドショットは狙えなかった、かな。
尾形の射手としてのプライドを賭けるに相応しかろう。
……ところで、尾形の弾丸、杉元を掠めてるはずなんだけど、気付かれなかったのか。

恐らく軍では宇佐美が一番に親しい、「戦友」と呼べる相手だったんだろうけど、殺すことに躊躇もない。
相手を撃つときに言葉をかけるのは珍しい。いつも標的はただの獲物としか見てないのに、宇佐美に対してはメッセージとして言葉代わりに銃弾を撃ち込んでる。
やはり多少なりとも戦友という感情はあったのかも知れない。
彼の言葉どおり、宇佐美は、死に瀕して鶴見の顔を見て、自分は安いコマではないと確信した。

「顔を見る」というのは、神との対話の比喩かも知れない。「神の顔を見た者はいない」という。もちろん自分の葬式で会葬者の顔を見ることはできない。
尾形は自分の父の死にゆく顔を見つめた。もはや父は神の代理人ではなく、ただの獲物に過ぎなかった。
尾形が母や勇作さんの顔を思い出せないのは、自分とは別の世界にいると思っているからかも知れない。

スローモーションで3頁もかけてくずれおちる宇佐美。
その身体を受け止めるのは唐突に現れた鶴見。
この鶴見の顔はとことん優しい。
243話で描かれた三角関係の、一つの帰結。

鶴見は、宇佐美を仕留めたのが尾形だと気付くだろか? 気付いたとしてもそのカタキを討ちたいとは思わないだろう。
宇佐美の願いは、既に成就してる。

<あなたの中に入りたい、あなたとともにいたい>と、差しのべられた指を噛み千切る鶴見。恐らく彼はそれを飲み込んだ。この瞬間、二人は心身共に一体だ。

鶴見「やっぱりお前は信頼できる優秀な兵士で大切な戦友だ」
標準語で皆に聞こえるように言った後に、新潟弁になる。
二人っきりの言葉。……いや月島も新潟人だけど、この場にいないから。
23巻で回想が新潟弁になっていた意図がハッキリする。
二人はもう軍隊組織の中の上官と部下ではなく、故郷で出会ったころに戻る。
言葉はそれ自体が一つの国であり故郷であり、「聖地」なのだ。*22

月島に対しては標準語だったのに、宇佐美に対しては新潟弁で話しかけてる。
しかも皆に聞えないように。
宇佐美は、鶴見がとことん策謀家で、部下たちに向ける愛も偽りだと思ってたようだけど、実は、鶴見の愛情は本気なのかも知れない。
宇佐美は宇佐美で、最後の力を振り絞って、頭を持上げてる。鶴見と視線を交すために。

鶴見「私の中で一番のひととして」ひと」ですよ!?
戦友以上の絆がある。
このページは狂おしくて見てられない……全力でボーイズラブに振って来た……*23

ところで、なんで鶴見、睫毛が伸びてるんだ……

最期に下の名前で呼び交わす。無言でないのがいい。名前を呼ぶことは、相手を所有することでもある。
鶴見は「愛」で相手を支配する。
宇佐美の鶴見に対する愛も、けして無私や献身や慈愛でなく、ナルシシズムの邪念があったにしても。最期に鶴見に抱かれ、その一部になったことで至福を得た。
宇佐美は鶴見を所有したい、一体化したいと望み、鶴見はそれを受容れることで宇佐美を支配し、隷属させる。それこそが宇佐美の願いでもある。
お互いに納得ずくなのだ。
グロテスクで壮絶で淫靡で、崇高な、死。今までに、何度も描かれたエロスとタナトスの絡み合いのドラマの完成形かも知れない。
至福の瞬間に時が止まった、彼の世界はこの上なく美しい。
完璧な死。

最後の最後まで相手を支配する鶴見、相手を所有し一体化を望む宇佐美。
マキャベリストナルシシストが、全力で聖地への愛の道行。その場面を用意したのが尾形、て、デキすぎ。

鶴見と宇佐美の絵は、ミケランジェロの『サン・ピエトロのピエタ』。(→ピエタ (ミケランジェロ) - Wikipedia))*24
ミケランジェロ、4点のピエタ現存してるけど、これが一番有名な作。
……なんだけど、連載時はそのままミケランジェロの彫刻のポーズだったのに、単行本だと微妙に違う。*25
もしかすると、ミケランジェロの彫刻ではポーズにウソがあって、非現実的だったのを、作者氏は実際に人間にポーズ取らせてより現実的に描き直したのかも知れない。

念為。「Pietà」の題は、刑死した我が子イエスの死体を抱く母マリア。救世主としてこの世にあった息子が、自分が救うべき民衆によって死刑に処せられる。その死体を十字架から下ろして抱く。とはいえ、ナザレのイエス、後でちゃっかり生き返るんだけどな。

鶴見が、またもや、聖母マリアに擬えられる。
鶴見は実の子も、我が子同然の部下たちも失う。

ここでふと、この作品全体を象徴する(その割に本文ではずっと出てこなかった)言葉が浮んできてしまう。
カント オワ ヤ サク ノ アランケ シネプ カ イサ
「天から役目なしに降ろされたものはひとつもない」
前にも書いてるけど。
この言葉は二通りの、正反対の意味に解釈出来てしまう。
一つは、「生まれたときに貴方の役目は決まっているのでそれを探せ」という定命論。
もう一つは、「予め決められた役目など知ることは出来ない、どう生きて死のうとも、それが役目」って不可知論。*26
私は、後者の意味に解釈したいのだ。

私は尾形が一のお気に入りだし。
宇佐美の死も、手を下したのが尾形だから、納得出来る。宇佐美を射殺して、晴れ晴れと嬉しそうなのもいい。もしここで後悔や寂寥なんかを見せてたら、ガッカリだった。致命傷を与えたとき、尾形に悪意はない。ただ宇佐美を敵として排除しただけだ。
宇佐美、尾形に遭遇したときに、さっさとその場を離れれば良かった。鶴見に合流するって重大な役目があるのだから。すぐに刺せば良かった。ただ尾形を下して罵倒したかった、そのために隙を与えてしまった。
実力はあるのに、衝動や感情に振りまわされて自分でツケを払うことになる。いつもはコメディにされてしまうのだけど、今回の相手は死神の尾形だった。

とはいえ、ピエタを演じてる二人を他所に、ガキのようにはしゃいでる尾形が、カンに障るのも確か。死亡フラグっぽいじゃん。
目に陰が射して化け物じみてたのが、人間の世界に戻ってきたようだ。
この銃も宇佐美のだっけ。
尾形、義眼入れてるんじゃん。眼球失った人が義眼入れずに眼窩を空洞のままにしとくと、脳に余計な圧力がかかって、よろしくないと聞いてたので、ちょっと心配だった。
狙撃手として完成するまでは、繃帯を外したくなかった、と。
でも、ガラスの義眼のほうが人間らしい輝きがありそうな。

尾形「狙撃手の俺を完成させた」
確かにあの超精密予測射撃はスゴい。
尾形「狙撃兵は「人間を撃ってこそ」だ」(第243話「上等兵たち」)
宇佐美が撃たれることは、ここで予言されていたらしい。

もうこれ以上、宇佐美の変態物語が綴られないのは残念である。
精子探偵とか。

上エ地がなにかやってるんだけど、まったく、気にならないぞ……!

第257話『がっかりした顔』

上エ地、良い家のわりに歯並びが悪いのは、きちんと子供の面倒を見てなかったのか。
彼は抑圧的な父親に自分が埋められてると感じてた?
犬が殺されて、庭のどこかに埋められてると思ったので、子供らを殺して庭に埋めるクセがついた、と。
何故に子供ばかりを狙ったのか? 単に肉体に自信がないので安易な獲物として子供をターゲットにした?

犬が父に殺された、っていうのはあくまで彼の思い込みで、真相は不明のまま。
とにかく、彼は、父が犬を殺して埋める人物だと思ってたってことだし、その復讐のために自傷的に墨入れるとか。他人を傷つけるために自分をまず傷つけるって、厄介なヤツ。
皆をがっかりさせようとした彼が、いちばんガッカリして死んでくのも、哀れ。
彼は神に近づこうとした。父権的、抑圧的な父親を下すために。
とすると、花火は彼の上昇の意志の象徴みたいだし、煙突に登るとともに昂揚した気分が、いっきに失望に転じて本人も落下する、て、寓意的だ。

鶴見「24枚すべて集めなくとも暗号は解ける」
ほらーやっぱりー
何度もこのブログで繰り返してるけど!

24人全員の刺青を無事に集められる保証はないので何人かは欠けても大丈夫なように作るんじゃないかな。

金神102「稲妻強盗と蝮のお銀」 ゴールデンカムイ - day * day

……とかね?

とはいえ。
土方「最低何枚で暗号が解けるのかわからない」
冗長性の具体的な量は不明だし。後藤や辺見、二瓶、「夕張」、姉畑あたりは失われる寸前だった。岩息も、樺太渡ってたこと誰も気付いてなかった。取敢えず、上エ地の一枚は欠けても大丈夫っぽい。
それ以外、永遠に失われたことが確定したものがないってのは、奇跡かもよ?
のっぺら坊が想定した以上に、みんな、真面目だ。ちゃんと刺青人皮のコレクションを保存してるなんて。
網走の囚人=もともとハイリスクな生き方してる連中だから、倍くらい、つまり半分は失っても大丈夫なように設計されてるかもね?
さすがに3倍ってことはないだろうけどさ?

皆がいっせいにソッポ向くコマの連続は、なんだか安っぽい表現に思えて興醒めだ……
あ、ちゃんと尾形が描かれてるのは嬉しい。こういうときは大抵忘れられるから。

杉元「みんなとっくに気がついてた」
親分と、238話時点の房太郎はまだ気付いてなかった様子。

最初、彼が登場したとき、顔のタトゥーが各地域の寄せ集めで*27、そのオリジナリティのなさが彼の精神の貧困さを意味してるのかと思ったけど。
26巻の改訂で、もっとキャラクタに深みが出たというか。
あの全身総彫りを入れるだけの精神力(と経済力)も大したもの。自分じゃ全身には入れられないから、数ヶ月か数年か、彫師に通ったはず*28 墨一色のようだし、伝統的な絵柄でもないけども。
彼は単に臆病な卑怯者ではない。

煙突の上での上エ地の逆ギレの演説はまるまる、単行本の追加分。
しかし上エ地の懊悩の原因も謎……彼は父親や周囲に無視されてたわけではない……虐待されてたようにも思えない。
全身タトゥーを入れた理由もよくわからない。

彼がなぜそんな情熱を抱いたのかはわからないけど、上エ地の言い分にも一理ある。
上エ地「金塊なんかで心の穴を埋められると期待してる大ボケ野郎ども!!」
彼は、即物的物質的な充足を否定する。彼は精神的な情熱で高みを目指そうとする。
その意味では、
上エ地「お前らなんかよりずっと美しい生き物だ!!」
というのは正しいかも知れない。
だけど、現実に彼がやってるのは、子供らを殺したり、人々を失望させたり、って、どうにも美しくない行為なんだけど。*29

彼はエンタテイナー、表現者だ。観客の感情を掻き立てようとする。
ただし、彼が与えるのは、恐怖や絶望なんだけども。
現代だったらホラー作家やホラー映画の監督になってたかもね? イヤゲ系作家。
上エ地「無視すんな!! 僕を見ろ!!」
っていうのは、創作や表現する人、全てが共通して持つ言葉だろう。*30

彼が一種の芸術家に擬えられてるのは、もしかすると、元ネタのジョン・ウェイン・ゲイシーが、捕まった後に刑務所の中で絵を描いて売りまくってたことを踏襲してるのかもだ。
特にアメリカではこの手の有名な犯罪者にまつわる品のマーケットがあって、売買も盛んだし、こういう絵画や彫刻も人気でコレクターもいる。作品の売上げは、被害者への賠償に使われる。 日本にもたまに展示会が巡回したりするし。
上エ地とゲイシー、全然違うキャラに仕立てた(ゲイシーは地元の有力者であり、ティーンエージャーの少年を狙って、レイプの犯行隠しに殺して埋めてた)と思ったけど、芸術家志向って点では、共通してるのかもだ。

彼なりの美学があったにせよ、凶悪犯罪者として死刑囚になる、生命を失う寸前で脱獄するけど、その新たな命を与えてくれた刺青を無効にして、最後は頭も失って死ぬ。

>上エ地圭二によってこの物語で明かにされた
のキャプションは単行本での追加。
えええええ、もしかして、今、まさに連載で進行中の展開、単行本でまた大改訂されるかも知れないの!?
複製で、ダブってるものが何枚もあるので、複数の陣営が同時に解読に成功してしまうのだよね。

ウイルクはおそらく、土方とキロランケ、鶴見がそれぞれ黄金争奪戦に参加することは想定してたはず。
ソフィアが加わるとは思ってもなかったかもね。
そして、杉元の存在はまったくのダークホース。

最後の24人目は門倉だった。
て、あれ、脱獄事件の後に、門倉の刺青は彫ったんだよね?
土方主導の脱獄事件で逃げたのは土方入れて24人、じゃあ門倉含めて25人、刺青の男はいる?
刺青の暗号に冗長性があるなら、まあ、24人でも25人でも復号に問題はないんだけどさ。
しかも中途半端だから、24.5だな。
門倉が24人目だとしたら、脱獄事件の際に逃げたのは23人てことになる。誰も人数正確に数えてなくて、ただのっぺら坊か土方に言われたとおり「24人」だと信じてた……?
土方は23人だと知ってたはずだし。

24人の脱獄囚の中に実は無効のブラフがあるのか、のっぺら坊、脱獄事件の後で自分のミスに気付いて慌てて門倉を修正パッチとしてリリースしたのか……
もしかして、のっぺら坊が想定してたはずの和人の協力者、ホントに、門倉なんだろか?

で、宇佐美、門倉の背中になにを見たの…… もしかして24人目!? 門倉がっ? のっぺら坊が想定してたはずのアシリパさんの和人の協力者が、門倉だったりしたら、なんか、イヤ……*4 あれ、18巻で門倉、ヌード披露してなかったっけ、って思ったら、背中はお尻のあたりだけだった。*5

金神254話「窮鼠」感想 ゴールデンカムイ - day * day

監獄にしろ土方一味にしろ、風呂はどうせ共同浴場のはずだから、看守仲間や、土方一味の人達は、門倉の刺青を知ってるはず。
少なくとも土方は知ってるだろ。
土方にすら隠してるなら、門倉、自分の背中も模様もロクに知らないかも知れない。(鏡で見ることはできるけど)

上エ地を仰いだときの鶴見はまだ宇佐美の死体を抱いてるし、その後のコマで二人の部下達がおそらく宇佐美の死体の搬送作業始めてるようす。
まだ宇佐美は作品中に存在してる! 死んだら即退場ではなく、過去の人として思い出されるわけでもなく、まだ彼の肉体はそこにある。
言及はされなくても。

第258話『重荷』

ギリギリのときにアシリパさんがさらわれるって、またこの展開。
どんなに気が強くても、アシリパさん、やっぱり小さいから、テイクアウトされやすいのね……

インカラマッ「みんながあなたを巡って殺し合いになる!!」(14巻)
の通りだ。

尾形にしろ房太郎にしろ、なんで私のオキニのキャラばかり、こうやって死亡フラグ立てるかな!*31
いやしかし、この『ゴールデンカムイ』って作品、死亡フラグなくても死ぬけど!

房太郎は深謀遠慮があるように思えない。
体力に自信があるから、周到に計略巡らすよりも、その場その場で最善策考えて行動するタイプではなかろか。
ザ・脳筋
7頁にわたるバトルとアクションの間、息止めてられるんだし。

火災による死亡原因のほとんどは、「煙」である。――連載時にはアオリでこう書かれてた。*32 単行本で消されたのが惜しい。
一酸化炭素中毒ってヤツですね。一酸化炭素は酸素よりずっと赤血球のヘモグロビンに結びつきやすいので、呼吸するごとに全身の細胞から酸素を追い出して、息苦しさを感じることもなく体組織が窒息していく、という。血色はむしろ良いくらい。死斑や解剖時の血が鮮紅色してるのも、一酸化炭素中毒の特徴だそうで。
気付いたときには体が動かなくなってる。
体の小さい子供はやっぱりこういうとき、耐性も低い。

杉元、今度はシャベルで頭、殴られてる……
杉元の頭もスゲェ頑丈。

房太郎「運が良かっただけだ」
ってのは確かにそう。
今まで、何度も戦場やバトルで重傷負っても、致命傷は避けてるんだから。

門倉さん、そんなに不用意に扉開けると、バックドラフトしそうですよっ

え、尾形も、菊田ともども、中央のスパイなの??
中央-菊田は、鶴見に、金塊を見つけさせたいんだよね?
じゃあ、尾形はなんのために造反組を煽ったん?
造反組の行動は、鶴見の計画にマイナスだろうし、その向こうの中央の陰謀にも影響してくるんじゃ?
もし尾形が、中央に忠実なスパイだったとしたら、菊田と同様に鶴見に忠誠を捧げるフリをするのがベストなはずで。

尾形がずっと中央のために動いてたのなら、網走で、アシリパさんを使ってのっぺら坊から直に在処を聞き出すのが最善だった。それはどの陣営にとっても。
キロランケについて樺太にいったために、ソフィアって新勢力を参加させることになったんだから。

そもそもウイルクたちが北海道に来た一番の理由ってコレなんだよね?
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これは1892年前後、日清戦争以前の話。まだアイヌ殺害事件も起きてないし、黄金も隠されていない。
ウイルクとキロランケがなにを目的で日本に来たにせよ、ソフィアはロシアに留まった。
これの内容は、後々、明かされることになる――これも史実をうまーく取り込んでアレンジしたなーと。

房太郎「重荷は下ろしちまえよ」
またこの話。
尾形も杉元も菊田も、アシリパさんに、民族運動なんて諦めろっていう。
民族運動に積極的なアイヌって、アシリパさんだけじゃん……
有古は菊田さんにくっついて中央政府に恭順しそうだし、キラウシは呑気にすんなり時代に順応しそうだし、アシリパさんのコタンの人達もちっとも参加してないし。
ウイルクにしろアシリパさんにしろ、「弱い者は喰われる」って唱えるなら、少数民族が帝国に虐げられるのも必然ってことになっちゃう。
現に世界中の多くの少数民族の人々は、武力闘争ではなく、帝国に順応して、いずれ少数民族の権利が回復されるまで民族文化を守っていった。国の大多数の民に、民主主義が広まって、様々なマイノリティの権利を尊重するようになったり、国の議会にマイノリティの代議士を送り込んだり。そもそも「民族」という枠組みも実はかなり曖昧で、一つの「民族」の中にも地方があったりするし。

第259話『故郷を作る』

なんでw 網走、長髪可なのwww
(土方や家永もだけど)

岩息、良いキャラだwww
二瓶はこの中で一番、良識的というか常識的というか。
いちおう、白石の身を案じて「止めとけよ」なんて言ってるし。
普通に妻子いるんだもんな。
この作品の男性キャラでは珍しく、妻子持ち。

なぜ、房太郎は、そういう穏当な生き方で家族を作ろうとしなかったのか?
房太郎「故郷で杉元と家族になっちまえ」
ってアシリパさんには言ってるのにね。

彼の王になりたいって動機は、故郷や家族とはまた別のところにあるのではなかろか?
白石の「脱獄王」のような「王」もある。彼は自分の国を持たない「王」ではあるけど。

房太郎は、秩序からハブられたゆえに、新たな秩序を作ろうとする。
秩序とは安定であり、安心・不変の場所。
王はそれより上はない。
後は王殺しによって殺されるしかない。

房太郎が、国民たちに語り継がれることによって永遠の生を目指しながら、その為に波瀾万丈の生死の境を彷徨うっていう矛盾。

白石「立てるか!?」
白石が杉元を救うのは、8巻夕張炭鉱の場面の逆転。*33
今度は杉元は自分自身に「役立たず」と言いながら、かつて「役立たず」と罵った白石に助けられる。
このへん、いかにも、「kanto or wa yaku sak no a-rankep shinep ka isam/天から役目なしに降ろされたものはひとつもない」って言ってるみたいだ。

鯉登と房太郎の対決とか……
房太郎、あの長髪は伊達じゃなかった。
正統派の剣士で実戦経験の少ない鯉登には、無頼漢の搦手って難しそう。
右耳、右手、左肩、って、満身創痍の房太郎、それでも泳いで逃げるってスゴイんだけど。
鯉登の背後に現れた房太郎、なにこのサメ男。
傷付いて、どんどん化物じみてく。

第260話『死守』

鶴見と合流した鯉登。
今回の白眉はこの鯉登の表情の移ろい。なんでこんなことになってるの……?
鶴見に対してマトモに喋れるようになったことを、喜んでもいいはずなのに、むしろ彼は背徳を覚えてる。
まるでロストバージンを親に隠そうとしてるティーンエイジャーじゃないのさ。
親の所有物であったはずの子供が、いつしかその庇護下を脱してる。それは親への裏切りであり、一種の親殺しでもある。もはや鯉登は、鶴見の無邪気な子供ではない。彼の他に秩序のあることを悟った。
今の鶴見は、鯉登にとってはただの上官でしかない。

しかしハナから秩序だの親だの神だの気にしない尾形と違って、鯉登は、鶴見を見捨てることは出来ない。
自分の正義の道程に鶴見がいるかもしれないと。騙されてる、んじゃなくて、賭けてるんだよね。それが覚悟。

鯉登が鶴見の庇護下を脱した切掛は、そういや、尾形だった。
尾形が、鯉登に、鶴見の陰謀をにおわせたことから、鯉登は鶴見への疑念を抱くようになる。
尾形がしばしばサタンに擬えられてることからすると、今回の鯉登は、ロストバージンと同時に、パラダイスロスト、「失楽園」でもある。

無思考に鶴見に隷属していれば、鯉登は、愚者の楽園にいられたのに。
尾形(=サタン)の言葉で新たな知恵を得て、自分がいるのが楽園ではないことに気付いてしまった。
知恵を持つことと自由であることは同義だけれど、同時にそれは楽園を失うことでもある、と。
神に隷属することを拒否したサタンは、神に復讐するために、人間に知恵を与えて楽園を失わせる。

鯉登が失ったのはバージンでありパラダイスである。
親の庇護であり支配であり、他の秩序を知らないという無垢性。
音ちゃん、8年間も父ちゃんにほっておかれたので、社会秩序が身についてない――それが、20巻で大幅に描き換えられた、音ちゃんと鶴見の邂逅の意味。
野放図に育ってた音ちゃんが、鶴見にブチのめされて直後に手を差し伸べられて、初めて、男を、もとい父親なる者を知った、と。(象徴的には、「父親」は、社会秩序や正義、法を意味する)

それまで鯉登が戦って殺してきた相手は皆、犯罪者だった。
だけど、谷垣一家に直面したときに、鶴見の命令以外にも、守るべき正義があると、はっきりと認識して、それを月島にも伝えた。
まるで、知恵の実をアダムに差し出したエヴァのように。

にしても。
鶴見のために童貞喪失した宇佐美と、ロストバージンを鶴見から隠そうとする鯉登、って、対比が面白い。
宇佐美は、友や家族のいる羊の楽園から、自分と鶴見だけの世界へと旅立った。
それと対称的に、鯉登は、鶴見の支配する世界から、自分自身が支配する世界へ。
それぞれの巣立ちのドラマ。

鯉登、鶴見の御蔭で父との仲を回復させて、そして今度は月島と谷垣の御蔭で鶴見の支配から抜け出した。

鶴見が、鯉登の変心に気付かないわけもなく。
鶴見は、鯉登の巣立ち-親殺しを、言祝ぐのか、それとも裏切りと見做すのか?
そして月島もまた試される。

あれだけ兵士達が右往左往して、結局、二階堂がアシリパさん捕まえるとかね……
人生万事塞翁が馬?

ウソを責められて、
鶴見「あそう!!でも良かったじゃないか」
って鶴見、軽い。

門倉のルーブゴールドバーグマシン的な強運、ナンナノ!?

キラウシ「門倉~~」
のキラウシの顔がやたらカワイイ。
たまにこんな顔が出てくる。

その他、連載時からの変更

全体、描込みが細かくなってるのは、恐らく、連載時には時間的余裕がないせい。

■ 第251話 札幌ビール工場

  • 連載時はカラー扉付で奇数ページ始まりだったのが、偶数ページ始まりに。ちなみにその時のカラー扉は、単行本24巻のカラー口絵。
  • P13、夏太郎、連載時は声を掛けるだけだったのが、無言で発砲になった。より暴力的な描写に。
  • P19、すごーく細かいところ。最後のコマのキラウシの台詞、「あ…!!」の後に空白が入った。(和文組版の作法として記号の後にはひとつ空白を入れることになってる、それに合わせたのだと思う。空白のサイズは字詰めに合わせて任意)

■ 第252話 貯酒室

  • P25、月島「やめろ」のコマ、構図が左右反対に修正。二階堂の右手の義手、ボルト握れないもんね。
  • P32、「ロンドン ビール洪水事故」の説明が追加。*34
  • P40、最初のコマ、尾形の顔が詳細に。

■ 第253話 父の汚名
■ 第254話 ウオラムコテ

  • 連載時にはカラー扉付。今巻のカラー口絵の絵。
  • サブタイ、連載時には『窮鼠』だった。第9話と同じにしたのは意味があってのことかと思ったけど、……ただのミス? 杉元が造反組に追われる話だった。なにもかもが懐かしい。

■ 第255話 切り裂き杉元

  • P86~90 丸々5ページ追加。
  • P294 以下、床のパターンが変更。連載時はレンガ風だったのが、木材パネル?*35
  • P96 最初の弾が飛び散るコマ追加。ここで3発しか描かれてない。
  • P97、最初と最後のコマ追加。
  • P98-99、2ページ丸々追加。
  • P100 弾を装填するコマ、ほぼ全面描き換え。尾形の表情や銃の細部。*36
  • P101、最後のコマ追加。

■ 第256話 篤四郎さんの一番

  • P103 3コマ目の尾形が、キレイ目に修正。
  • P111~113、尾形が照準するほぼ3頁追加。
  • P119、「やっぱりお前は」のコマから以下2頁分追加。
  • P120、丸々追加。鶴見と宇佐美を見つめる兵士たちの絵は、25巻の鶴見と月島の絵のリフレイン。
  • P121、兵士たちの横顔追加。
  • P123、1頁追加。睫毛! 睫毛!
  • P124、ピエタの構図が修正。鶴見のポーズとか。
  • P125、宇佐美の顔も修正。

■ 第257話 がっかりした顔

  • P132、白石「プリッ」だったのが「プイッ」に。
    f:id:faomao:20210922222129j:plain
  • P134-135、2ページ分、上エ地の咆哮が追加。
  • P140、キャプション追加。

■ 第258話 重荷

  • P148、アオリのキャプションが削除。
  • P150、最後のコマ、房太郎の手に水掻き追加……連載時には忘れられてた。

■ 第259話 故郷を作る
■ 第260話 死守

  • P200 最後のコマ、駆け付ける一同、追加。

連載時の記事

これらを元に書きました。

*1:ところで彼はまだファミリーネームが明かされていない……元ネタの人は、ヴァシリー・ザイツェフというが。

*2:軍用品、特に古いものは実物でも変色してたり、作られた時期やロットによって色が変わったりするから、「正しい色」はなかなか難しいようだ。

*3:連載時
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*4:って上エ地は別に、獲物探しに来たわけじゃないんだ。

*5:彼のヘッドギア、なんで、ビーチクが触角みたいになってるん……

*6:Zui quan (1978)

*7:5、6巻あたりで、ああ尾形って女性に人気が出るだろうな、でもその理由は男性にはわかりづらいだろうな、と思ったものだった。その後の作者氏や津田健次郎氏もインタビューなどで、なぜ尾形が人気あるのかわからないと仰ってるので、やっぱりな、と。個人的には、男性が思うような女性にモテる男らしさとは対極にいる点が、尾形の人気だと思うけどね。ジェントリーでもマッチョでもない。熱気ムンムンで汗と汁飛ばし合ってる野郎どもから一歩退いて、全体をクールに俯瞰してるあたりが。それでいて必殺のチカラがある。

*8:17巻の修正部分からして、超自然の存在って線は薄れたけど。

*9:


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*10:このへんも、尾形が彼女を予言してるようにも思える。

*11:
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*12:尾形、もうちょっと早くこの場に来てたら、そっと後退って見なかったことにしたかも知れない。

*13:あれくらいの歳だと、女の子にとって同年代より大人の男性のほうが恋心の対象だもんな。

*14:念為。アイドルidol の原義は宗教の偶像。人間ではなく、崇拝の対象やなにかの象徴としてみなされる存在。

*15:現実のマイケル・オストログは、ロシア出身で永倉と同じ世代。

*16:対象が違うけど罪悪感の転嫁って意味では姉畑と同じタイプか。

*17:ただし彼女は最初の喉への一撃で死んだのでそれ以上の苦痛は感じなかったろうと言われる。

*18:作者氏的にも?

*19:正直、彼を美形と言われてしまうと、私の中で「美形」とはなにか、と、根源的な問が沸き上がってくるのだけど。

*20:これは火薬抜きの実弾→
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*21:
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*22:言葉の聖なる力については、マクルーハンが解説してる。

*23:念為。少年愛の元々の意味は、成人男性と未成年男性の関係性。未熟な少年を成人男性が教導するって意味なのだけど、性的な関係も含まれる。そういう風習は世界各地にある。この鶴見×宇佐美の関係って、ド直球に少年愛だと思うんだけどなー

*24:昔、バチカンで見た。銀塩フィルムのプリントからスキャンしたから荒いけど。もっといい画像はWikipedia、その他、ネットで探してください。
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*25:
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*26:「人間到る処青山あり」と同じ意味。

*27:例えばあの「犬」は、元々は西日本の黥刑だしね? 本来は額の真ん中に、犯罪を繰り返す毎に1画ずつ足していって、3回目で更に点を足して「犬」にして、非人の身分に落とす、ていう。

*28:1回ではせいぜい手のひらサイズだそうで。伝統的な彫り方だと。

*29:他人に依存する時点で。

*30:ふと江渡貝くん思い出す。彼も鶴見たちに認められてようやく心を満たされた。

*31:マンガでもアニメでも、私のオキニのキャラは大抵、主人公に敵対して、死ぬのである。まあこのパターンで最大の喪失は、声優の塩沢兼人本人だけどね!

*32:
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*33:
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*34:ちなみに、1919年には、ボストンで糖密のタンクが破裂して、数十人が糖密で溺れ死んだって事故もある。→ボストン糖蜜災害 - Wikipedia

*35:
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*36:
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こういうコダワリが凄まじいと思うの……