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日々是々

金神216「謎の白い熊」感想 ゴールデンカムイ

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なんか、樺太篇以降、「高く売れる」ってハナシが増えたような。

「ヒグマの胆嚢だ」「生薬としてとても高く売れる」
(『ゴールデンカムイ』1巻)
「鷲の羽根 思ったより高く売れたぜ」
(『ゴールデンカムイ』4巻)
「麝香といって漢方として高く売れるんだ」 (『ゴールデンカムイ』16巻)
「黒貂だっけ? あの毛皮すっごい高く売れたよね」
(『ゴールデンカムイ』16巻)
「オオヤマネコを獲った」「毛皮がものすごく高く売れたな」
(『ゴールデンカムイ』17巻)
「ホイヌ(貂)」「毛皮高く売れマス」
(『ゴールデンカムイ』18巻)

アシリパさんにとっては、ヒグマは、凶暴で危険な猛獣ではなく、狩りの獲物で、高価な商品であるらしい。

きっと今までの道中、紙面で語られなかった部分でも、ずっと、金策についてこんなやりとりしてきたんだろうなあ。
現金収入大事。*1
彼らはけして無人の荒野でサバイバルしてるわけじゃなくって、商売相手のいる人間の世界で旅してる。

杉元「クチはクチでも」「下のクチ だッッ!!」
いや真剣な場面なんだけど!
……どうにもエロマンガでオナジミの台詞だけに、つい失笑。
白石「やった!!杉元の野郎 やってのけやがった!!」
これは姉畑篇のリフレイン。
*2
アニメでは絶対に不可といわれた姉畑篇の、むしろリベンジかも知れない……
ウコチャヌプコロは不可でも、殺戮なら可なのね。

杉元は、まだ、例の三〇年式使ってる。
これ、尾形が病院から抜け出したときに持っていった銃だ。
谷垣、三島、前山、その他鶴見の部下や第七師団の兵士たち撃ってるし、茨戸でも活躍した個体。
自由と、それを手に入れるための暴力、組織の論理に対立する個人のエゴイズムを象徴するアイテムでもある。それが陸軍の制式の歩兵小銃であるって皮肉。
この銃、いずれ、尾形の手に戻ったりするんだろうか。そんな展開があったりすると、ちょっとエモい。
この銃のカムイは誰を選ぶのか?って。
――でも、尾形は、カムイなんか頓着しそうにないんだよな……彼はめちゃくちゃプライド高いから、カムイなんて無責任に外部に転写した自分の感情に頼るより、良い道具の性能とそれを十二分に活かす自分の腕だけを信じてそうで。*3

満身創痍の杉元に、我に返るアシリパさん。 いやほんと、熱いシーンなんだけど!

結局、白い熊の正体は謎のままなのか。
個体数と地理的に考えると、これ、白いヒグマの個体群だと思うけど。
千島からやってきたのか、シベリアにも白い個体群がいるのか。
ホッキョクグマ、北極圏の生き物なんだしなあ。宗谷岬なんて、パリよりも南なんだし*4ホッキョクグマの行動圏からはあまりに懸け離れてるように思える。
明治24(1891)年に捕まった白い子熊、その場で殺されないで、上野動物園で飼育されて命拾いしたことになるな。

この白い熊の毛皮、尾形が拾ったりしないだろか。

鯉登の音之進生きてた! 数日間、樺太で入院してたようだ。
人目を憚るお父さん。
お父さんにとっては息子が生きてればそれでいいと。一人亡くしてるだけに。
しかし、音之進は、拉致監禁事件の真相を知ってしまった。
それを、父は知らないということも知ってる。
最後のコマが月島ってのが意味深だ。
音之進は、父に真相を話すのだろうか?
音之進は、父を敬愛してるけど、鶴見がその父を軽んじて陥れたことについてはどう見るのか?
鶴見の一味として父を欺く側に回るのか?
敬愛してるはずの父を裏切ること、それもまた、「親殺しの通過儀礼」だし、その切掛が尾形(の言葉)だというのも、因縁めいてる。
尾形はつくづく他人の人生を引っ掻き回すトリックスターなのであるらしい。

*1:伝統的なアイヌ、狩猟民というだけでなしに、交易民としての立場も大きくて、樺太通じて山丹交易や、あるいは千島やカムチャッカの民や、和人との取引をしてた。例えば鋼や白米、漆器なんか、伝統的なアイヌには生産出来ないので交易で手に入れてた。

*2:
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*3:“カムイ”がモノに対する執着心だとしたら、自分の肉体さえ執着しない尾形は徹底して神やその類を否定する。否定すると同時に、祝福って神の愛を望んでもいて、だからトリックスターとして振る舞うんだろうな。神の定めた運命をぶち壊そうとする。

*4:ヨーロッパはメキシコ湾流のおかげで高緯度なのに温暖……ロンドンでさえ亜港より北に位置する。