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日々是々

金神229「完璧な母」感想 ゴールデンカムイ

faomao.hateblo.jp

また財布忘れたの?

家永の動機が語られるのも初めてだ。
この作品全体、母親が、個性の剥脱された象徴として語られるけど、家永の母もそうなのか。
家永、永倉(1839年生)とだいたい同じ歳くらいだそうだから、現68-9歳。
中身は高齢男性な彼にとって、母になるってのは絶対に叶えられない願望、「無い物ねだり」なわけで。
妻でなくて母親、妊婦フェチでなくマザコン、聖母崇拝であるらしい。
家永、あのホテルの跡地から肖像画を回収したようだ。え、これ、母の肖像なの? でも耳の大きさからして男だよね?
家永の母だと、19世紀初めの生まれだから、御維新のときには60代とかのはずで、こんな洋装姿はしたことがあるかどうか。 母のコスプレしたチカノブなのかな?

家永を凶悪犯と言う月島も、また冷酷非情になりきるって、皮肉だ。
この物語のキャラたち、みな、多面性を持ってるけど、家永の凶悪な部分に注目した月島、それは月島自身の凶暴性を投影してる。

月島は、家永に妨害されなかったら、谷垣を庇おうとするインカラマッを撃ってたように思う。逡巡はしても。
月島は、あくまで鶴見の作った舞台上の仮想世界だと思ってるから、どんな惨劇に直面しようと、イゴ草ちゃんのいる「真の世界」とは関係ない。髪を捨てたことで、「現実」と「真の世界」とは完全に訣別した。だから彼は鶴見を疑えない。その二つの世界をわけてるのは鶴見の言葉だから。

谷垣(俺は杉元佐一を殺せるような冷血漢ではない)
って、でも最初は、谷垣と杉元、殺しあいしてたのにー
次の瞬間、誰と誰が殺し合いになるかまるで予想が付かないのが、この作品。

家永が、谷垣とインカラマッのために身を挺するなんてっ
窓に浮ぶシルエットは6巻の裏表紙*1思い出す。
家永が注射したのは恐らく麻酔薬*2だろうけど。
月島はやっぱり戦闘が巧い。彼に直に対峙するには、薬物がベストなのか。
弾丸、貫通してるなー

家永なんて、医学の黒歴史を象徴してるようなもの。
不老不死とか、安心安全なお産とか、医科学の永遠のテーマだ。
彼に罪悪感はない。
彼の無垢さは、マッドドクターのゆえかも。
同物同治の考えって、臓器移植と根本的には同じだし。*3
人体組織由来の製剤は日本でも伝統医療にあった。エジプトのミイラが、ヨーロッパでも日本でも、薬として売られてたり。*4
動物の胎盤(プラセンタ)なんて健康食品にも使われてるじゃないですかー
脳外科ったら精神外科手術もあるし?*5

正直、家永の母子への慈愛は唐突な気がしないでもない。
そして「鶴見隊の良心」って言われる月島が、107話「眠り」で見せたように妙に赤子に冷淡な。
おそらく家永の幼少期はそれほど不遇でもなく、素直に母親を崇拝出来たのだろう。
家永の凶悪さは生来の気質だろう……彼の歳だと医者を始めたころはまだ江戸時代だ。*6
月島は父から激しい暴力を受けていたが、母親は早くから不在だったのかもね?

*1:紙本特典の一つ。→
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*2:家永、自分で拷問して殺すのが趣味だから致死の毒薬は使わなさそう……いやストリキニーネとか白燐の殺鼠剤みたいなすごく苦しませる毒はアリかもね?

*3:宗派によって輸血すら拒否するのは、命が血に宿ると考えるから。彼らにとって輸血はカニバリズムと同じなのだ。

*4:ミイラの製作に、没薬とか薬剤使うので、その分の薬効はあったらしい。

*5:前頭葉は損傷しても命に関わらないことが多いそうで。脳幹部はヤバイ。

*6:私の曽祖父の父・高祖父が1846年生れの医者だった。福島で医学を目指して漢籍蘭学を修め、後に東京で勉強続けて国家資格を得たそうな。都内で開業して、内科を主に、耳鼻咽喉科や簡単な外科や産婦人科も兼ねてたと。恐らく家永のプロフも似たようなものではなかろか。