day * day

日々是々

金神237「水中息止め合戦」感想 ゴールデンカムイ

ぎゃああ。

(ゲーセン小僧だったころの出来事をちょっと思い出してしまった)

ついさっきまで殺し合ってたのが肩組んで、それからまた殺し合いになる、って、めまぐるしく関係性が転換してくって展開が見事!
杉元たちの狙いに気付いた房太郎、心底、残念そう。

房太郎、良いヤツなんだ。
彼は一般社会から追放された。彼と社会の間には大きな断裂がある。
だから彼にとって社会は単なる狩猟場であり、犯罪稼業は悪行ではなく、生活の手段に過ぎない。一般人は狩りの獲物。
そして彼は、自分自身の王国を志向する。自分を拒絶した連中の国に馴染むのではなく、自分の居場所を自分で作り出そうとする。
それは社会への復讐なんて卑屈な行為ではなく、自分の国の再構築、レコンキスタだ。

ゴールデンカムイ』には、この手の人物が少なくない。
子供っぽい無知や無謀ではなく、社会の枠組みを知ったうえで、秩序にそむいてでも自分を貫こうとする。
上官殴って恩給フイにした杉元もだし、とことん権威を嫌う尾形もそう。
山で死ぬために脱獄に参加した二瓶も。
白石も。
岩息も。
そうするだけの意志とチカラを彼らは持ってる。さもなくば、自分を殺して秩序におもねるだけ――鶴見に囚われていた月島のように。
更に、土方や鶴見、ウイルクは、新たな秩序――国を作ろうとする。
うーん、それからすると、アシリパさんやソフィアは、理不尽に迫害された体験を持たないだけに、動機が弱いんだよね……逆に、だからこそ、「国を作る」って権力志向に囚われないのかも知れないが。
あるいは、権力志向ではないのは、彼女らが女性だから、だろうか?

房太郎のようなキャラは、ある意味、典型的なパターンでもある。
私が真先に浮んだのは、高村薫の「李歐」だけど、そういや、「ベルセルク」のグリフィスもそう。
美形、国造りに情熱を燃やすコンクエラーで、時に冷酷なマキャベリスト、って点。
彼らは既存の組織に頼るのではなく、一から自分の王国を樹てようとする。
強固な意志と、一人でも自分を守れる実力と、子分らを従える圧倒的なカリスマと――そのカリスマ性を端的に表現するのが美形ってことなのだろう。
元祖マキャベリストチェーザレ・ボルジアにしても、塩野七生はじめみんな美形にしたがるし?
シェイクスピアによれば「あまりの醜さに親にも疎まれる」リチャード3世ですら、シェイクスピア史劇で一番人気なくらいに、見た目以上に魅力的なのだ。*1
他にもこの手のキャラの物語はいくらでもある。
作品世界に神のような善悪の基準の存在する伝統的な作劇が幅きかせてた昔は、その手のコンクエラーは悲劇的に終わるのがオヤクソクだったけど、今時そんなプラトニックはどうにも時代遅れ。李歐にしてもグリフィスにしても、国を造るとこまでは達成しちゃったしなあ。
まあっ私が好きなのは、どっちかっていうと、彼らのようなコンクエラーより、正反対の尾形のようなアナーキストだけどねっ。
実力で孤高を貫くって点では両者は似てる。

砂金。
え、袋が一山45個×4山、計180個で、総量75トンだって?
1袋416.66キロ……金の比重が19.32なので、21.57リットル。
小型のリュックくらいか。あのコマの袋の大きさからしてもだいたいそんなもの。
まるで房太郎がナニゲに持ってるように見えるけど、あくまで大きさ示してるだけだからね……あれで400キロ超えてるんだ……
袋一つでも、一人じゃ運べない……アイヌの人たち、どうやって運んだんだ。もっと小分けにして、現地で袋詰めにした? ちなみに75キロだと3.88リットルだから、1ガロンほど。
小さめの猫くらいの大きさ。

ふたたび、房太郎と杉元のバトル。
顔を歪めて苦闘する杉元に比して、房太郎はひたすら美しい。
もぉ笑っちゃうくらいにwww
なんでwww
こうも、ワタクシの嗜好にピンポイントでクリティカルヒットなキャラ描かれるの、先生……
長い黒髪を揺蕩わせて、優雅に水中に舞う。
溺れかけてる顔ですら、文字通り「絵に描いたような」美形に描かれてるのが……って、
車軸に髪が絡まるって、今まで想定したことなかったの!?
ちょっと!
房さん! ぬかりすぎ!
ロン毛と機械は相性悪いんだって!!!

私も昔、髪を伸ばしてたんですわ。それこそ房太郎くらいに。
三つ編みのお下げにしてたんですけどね……
ゲーセンに日参するようなゲームオタクだったんだけど。*2
ちょうど体感ゲームが流行ってたころで。「アフターバーナー」とか「スペースハリアー」とか「ギャラクシーフォース」とか。
さすがに、大型の可動筐体乗るときは、髪が絡まないように気をつけてた。
中で、R-360って機体がありまして。(→Sega R-360 - Wikipedia
シートが縦横360°グルグル回って、下手すると逆さになったままなかなか戻せないっつー……だから4点式シートベルトにサイドレバー引いてシートにガッチリ身体を固定するような、遊園地の絶叫マシーンよりも厳重な、究極的な体感ゲームだった。
で、私が乗ったとき、オサゲの房がシートから躍り出て、筐体の外のセンサーにばんばん触れてアラート鳴りまくって、しまいに強制停止かかったことが。
乗ってる私は何が起きたか分かってなかったけど、外で見てた友人らに爆笑されましたさ……
ロン毛は機械と相性悪い。
*3

正直、キレイなにーちゃんが溺れかけて苦悶してる顔に、余計な嗜好がいたく刺激されるじゃないか……!

結局、杉元は房太郎を助ける。
単に、情報を手に入れるとか、刺青人皮剥ぐためではなかろうて。
杉元にも、房太郎に共感できることが少なくなかったはず。それは、2巻で鶴見の誘いにココロ動かされかけたときも同じ。

今週の小ネタ。

  • 死んでも白石とキスしたくない杉元。尾形とはディープキスしてたのにね? 眼窩にだけど。
  • アシリパさんは泳げない。
  • 水に入ると自動的におりてくる杉元の帽子の顎紐。
  • これに懲りて、房太郎、今後、ダイビングナイフ装備してくれないかな……*4

*1:個人的にはイアン・マッケランの現代版の映画「リチャード3世」が好き。

*2:ちなみに専らゲーセンとパソコンで、コンシューマはほとんどやってないっす。ドラクエゼルダもFFも知らねえです。

*3:私が知る限り、昔のゲーム業界ってロン毛の人少なくなかったように思うけど、テストプレイのときはどうしてたのか……ロン毛はソフト業界だけで、ハード部門はいなかったのか? ロン毛が流行ってたのは、ファッションよりも、多分に、切りに行くのが面倒くさいのと、美容院が苦手なためだろうな……

*4:ダイバーの命を守る!ダイビングナイフのおすすめ7選