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日々是々

金神270話「全ての元凶」感想 ゴールデンカムイ

鶴見のいうことは何一つ信用出来ない。

尾形「くさい台詞で若者を乗せるのがお上手ですね」
(『ゴールデンカムイ』8巻)

結局、鶴見も、(樺太の尾形と同様に)アシリパさんを籠絡して、キーワードを聞き出したいだけだ。
あっさりとアシリパさんに見抜かれた尾形に対して、やはり鶴見は年の功だけある。

鶴見「全ての元凶はどこにあると思う?」
といって、その後でウイルクの皮を被ってみせるのが、語るに落ちてる。
ウイルクが元凶だといいつつ、それは鶴見自身にも帰ってくる。

7人のアイヌを殺し合いに導いたのは鶴見だ。
アイヌと和人の分断は許せないっていいつつ、彼は、クーデター画策してるんじゃ?
ウイルクが妻子を殺したというけど、その弾丸がホントに妻子を殺したのか、証明してないし。
そもそもの妻子の死の原因は鶴見のスパイ活動。
そして道化を演じてみせることで、鶴見自身への憐憫を引き出す。
鶴見の詭弁は多層だ。
ウイルクの所業への罪悪感、鶴見への憐憫、アイヌへの責任感、って、あらゆる感情を揺さぶろうとする。
誰も、妻子の非業の死を欺瞞に利用するなんて思わないだろうけど、鶴見ってそういうことしそうな人物の気もする。
鶴見が、妻子を愛してた、のは本当かも知れないけど、でも彼、「愛」を他者を操る為の道具に使うじゃん。

こうなると、
鶴見「あくまで私の目的は日本国の繁栄である」
の言葉すら怪しくなってくる。

鶴見「だがその個人的な弔いだけのために」
のコマ、ケシの咲く道の行く先が気になる。鶴見は「断じて無い」と明言したのに、わざわざこのコマが描かれてることの意味ってナニヨ。
なんで妻子がケシなんだ。
過酷なスパイ任務の中で、妻子の存在が癒しになってた、けど、いつしかそれが依存症になってた、なくてはならない、失われたら我を忘れて取り戻そうとする、そんな存在だったということだろか?
家族はスパイの阿片なんだ。*1

とはいえ。

じゃあ、妻子の復讐でも、日本の繁栄でもないとすると、彼の目的はなんなのか、ってのが謎になってくる。
彼は今までとことん無私で行動してる。
彼のいう「日本」とは中央の軍や政府、天皇主権国家ですらなくて、国民全体の「国」なのか?*2

最初、鶴見が独立国を作るって構想を語ってたとき、ふと、「闇の奥」(コッポラ監督の「地獄の黙示録」の原作)髣髴とした。*3
鶴見はクルツのように、満洲に自分の王国を作るつもりなのかと。
今でも、なんだか彼は、昭和維新から、満洲国作った関東軍のように感じるのだけど。
*4

あっさりとコマされてる月島、鯉登。
鶴見が彼らの盗み聞きに気づいてるとは思えないけどなあ。

ウイルクの顔の皮を被ってみせる、鶴見。
こういうグロテスクさは、この『ゴールデンカムイ』ってマンガの真骨頂だよね(たぶん)
しかしソフィアもアシリパさんも、彼を哀れんでしまう。
その哀れみこそが、鶴見の思惑かも知れないのに。

有古が、第七師団・土方・中央、どこにつくにしても。
もし鶴見の言うことが真実ならば、鶴見隊も土方も中央も、すべては同じ目的ってことになる。
ロシアの脅威に対抗して、和人や少数民族含めた「日本」の繁栄を志向するっていう。

*1:なぜマルクスは宗教を「民衆のアヘン」と批判したか(佐藤 優) | 現代ビジネス | 講談社(1/2)

*2:彼が公式現パロで「公安」てされてたのもちょっと気になる。公安警察って、警察組織の一環だし、少なくとも建前上は国民全体のために活動してるわけだし。

*3:

闇の奥 (光文社古典新訳文庫)

闇の奥 (光文社古典新訳文庫)

*4:石原莞爾は、欧米との最終戦争を見据えて、それに備えて満洲などの植民地から収奪してアジア含めた日本帝国の国力を高める目的が。しかーし、彼、この最終戦争論、戦後はあっさり撤回してるんだよね。