金神183「狼に追いつく」感想 #ゴールデンカムイ
狼の掟。
ソフィアの語る回想の中では、何人も仲間がいたのに、ウラジオストクでは3人になってた。
“一匹狼”っていうとなんか孤高のダークヒーローのようなイメージだけど、実際には、群れから追い出されたりしたハグレ者だったりする。
ウイルク「弱いものは負けて喰われる」……Dog eat dog 、弱肉強食とも。
ちょっとマーヴィン・ハリスの本思い出した。*1
ギリギリの環境で生活してる野生動物や人々が、厳しくなるのも仕方ない。それは野蛮ってことでもある。
ウイルク「間違った情けや優しさは弱さにもなるんだ」
その「情けや優しさ」を「間違い」や「弱さ」で片付けないのが、文明ってやつだ。
弱肉強食、骨肉相食むのが自然の掟とはいえ、多くの人は、家族や知人が死ぬのを見たくはないし、まして自分の手で殺したくないので、弱者が切捨てられないよう、皆が生きていけるように文明を発達させてきた。それもまた、情愛や罪悪感といった、遺伝子に刻まれた本能という自然の掟。*2
倫理や宗教の問題ってよりかは、もっとドライに、経済の問題なんだ。
「弱いものが喰われる」のが当然ならば、少数民族が大国に蹂躙されるのも当然ってことになる。先住民の地位向上は、暴力的な強さではなく、政治的な駆け引きや、社会の成熟で勝ち取られてきた。
ウイルクも、冷徹なリーダーって点で鶴見と近い人間だ。*3
こういう人物に対しては、人は、崇拝するか、反撥するしかない。
ウイルクに対するキロランケの感情は、鶴見への鯉登の感情に近かったんではなかろか。
そう崇拝していたウイルクが「変わってしまった」というのは、上にあげたような“狼の掟”を、彼が捨てようとしたから、なのかも?
ウイルクは狼になりたかったのか。
なりきれなかったのか。
狼の毛皮を着ること、そして脱ぐこと。
狼でなく、のっぺら坊になった時点で、彼の死は決定されてたのか。
アシリパさんは、「新しいアイヌの女」として、どう決断するのか?
狼=ウイルクに追いつこうとするのか?
なにげに、アシリパさんの父方の祖父、初出演じゃないですかw
ソフィアの台詞、横書きはロシア語、カギ括弧のはキロランケが通訳してるのかな。
アシリパさんが身に纏うのは、ウイルクの(樺太アイヌの)装束と、レタラの親の毛皮っていう、因縁。
そして、暗号の解答がすこしずつ明かされる。
ん?
アイヌ語の「ホロケウオシコニ」が暗号のキーになってる?
アイヌ語自体の文字はないから、アイヌ語の音をカナに無理やり当てはめて、それを更に漢字の音に転写してる?
「horkew oskoni(ホロケウオシコニ)」(→単語リスト(アイヌ語・日本語))って、カナだと8文字だけど、アイヌ語だと5音じゃ?*4
ウイルク、樺太アイヌ語とポーランド語ネイティブで、ロシア語→日本語→北海道アイヌ語って学んでることになる。アイヌ語を表記するなら、まず、(ポーランド語の)ローマ字アルファベットか、キリル文字のはず。
何故、わざわざ日本語の発音にこだわったんだろう? 漢字使う機会もなかったろうに。
アシリパさん、北海道アイヌ語と日本語は話せるけど、ポーランド語やロシア語は出来ないかな……仮名文字は読めるだろうけど、漢字はアヤシイ。*5
日本語ネイティブじゃないウイルクが、漢字読めないアシリパさんに向けて、日本語ネイティブの人達から隠す暗号を、日本語の漢字で書いてるって、謎。
ちなみに、目下の刺青人皮の文字はこんなん→刺青人皮
最後のページ、尾形の目がコワイwww
「サハリン・アイヌの熊祭―ピウスツキの論文を中心に」*6って本で初めて知ったんだけど、ピウスツキって人のことちょっと調べたら、なかなか面白かった。→ブロニスワフ・ピウスツキ - Wikipedia
ポーランド人で、ロシア皇帝暗殺事件に連座して樺太に送られて、後にアイヌ研究者になり、アイヌの女性と結婚して、その子孫は北海道渡って日本人になってるし、一方で彼の弟はポーランドの初代大統領になってるっていう。
なんとなくウイルクや彼の父と被る。
*1:→ ヒトはなぜヒトを食べたか―生態人類学から見た文化の起源 (ハヤカワ文庫―ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
*2:残酷な自然の掟はまず弱者に向う。資源量が限られた共同体では、強制的な堕胎や嬰児殺し(とりわけ女児)といった産児制限、老人や病人の遺棄ってカタチで、人口の調整が行われるのが当り前。一方で、過剰な殺傷を防ぐ為に愛情や同胞愛って本能があって、共同体を維持するように出来てる。
*3:「無駄のない機能的な美しさ」ってそういや、鶴見も同じように機能美を愛する者だった。
*4:アニメでアイヌ語の発音が聞けたけど、中で、インカラマッが3音節なのが意外だった。Inkarmat なのね。
*5:当時の日本の一般向けの新聞雑誌書籍なんかは総ルビが普通なので、仮名さえ読めれば大抵は事足りた。漢字が読み書き出来るのはもうちょっとレベルが高い。
*6:→ サハリン・アイヌの熊祭―ピウスツキの論文を中心に (Academic series new Asia (31))