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日々是々

金神266話「小指の骨」感想 ゴールデンカムイ

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鶴見はああいうけど。

新潟県人の鶴見や月島には、関東で生まれ育ったワタシよりかずっと、日本海対岸の国々への警戒心は強いのかもね。
古代の環日本海経済圏の説もあるし。
ロシアの沿海地方から朝鮮半島にかけての地域の潜在的脅威は無視できないと。*1

このウラジオストクのシーンが1897年、長谷川さんの事件は「6年前」だから1891年ということらしい。
皇帝暗殺事件が1881年、雪のない季節だから、なんとか、10年以上、とはいえる。
……え、6年間も焼け跡そのままなの……
この不動産、権利、どうなってるんだ。

鶴見「日本人街から離れて店を開く変わり者がいたんだろう」
鶴見が月島に対して、目をそらすなんて!
鶴見「中央から遠く離れた軍人が」
この鶴見も珍しい。
鶴見、こんなに自嘲するキャラだったか?
妻子を守れなかったことへの負い目があるらしい。

戦艦カレバラの事件……18巻179話「間宮海峡」でウイルクの言ってた「ある情報」とはこの話だったのか。
*2

鶴見「もっと言えばあなた達が私の写真館を選んでいなければ」
というけど。
この鶴見の言葉は大いなる欺瞞だ。
ソフィアたち3人が写真館に来たから、長谷川は妻子を実家に退避させた。
3人が来なければ、長谷川一家団欒の最中に秘密警察が突然踏み込んできたはず。
そうだったとしたら、妻子もいっしょに連行されるか、人質に取られないために自分で妻子を殺すことになったんでは?

そもそも「長谷川さん」の一家自体が、鶴見が現地に潜入して諜報活動するための偽装工作だった。
鶴見「あなた達は何を得ることが出来たのか」
鶴見「妻と娘のこの世での役目は何だったのか」
の台詞は、長谷川さんが鶴見に向かって言ってる。
それを一番知りたいのは長谷川さんのはず。
長谷川さんにあらざる鶴見にとって、「妻と娘の役目」は偽装のための道具だった。
鶴見自身、充分にそれをわかってて、あえてこう言ってる。ソフィアに罪悪感を抱かせるために。
妻子を失った鶴見、家族の代わりに組織を得たソフィアに対して、ウイルクもユルバルスも、北海道で妻子を得てるんだしね。

鶴見は怒りで自分のしたことを忘れているわけではない。
このシーンの鶴見は、脳汁出てない。あくまで冷静・論理的・かつ欺瞞で、ソフィアを追い詰めようとしてる。

杉元「あの男なら時間をかけて追い込むはずだ」
この杉元の台詞はその鶴見の意図を示唆してるように思う。

実は今回、一番、冷静なのは鶴見なんだ。

キロランケはウイルクが変わってしまった、というけれど。
しかし、キロランケだって。故郷もユルバルスの名前も捨てて、北海道でアイヌとして生きることを選んで、故郷の人たちも含まれるかも知れないロシア兵と戦場で対峙することを選んで、さらには北海道の家族も捨ててソフィアと再会すること選んで、て、過去を捨て続けてたんじゃん。
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むしろ、定住しないジャコジカとして、彼は生きてたんじゃないのか?

ところでそろそろ尾形が気になってるんだけど……
ヴァシリとはどうなったのだ。

*1:やはり新潟出身の神林長平SF小説読んでもうっすらと感じたけどさ。「戦闘妖精雪風」に出てくる機械生命体ジャムだの、「敵は海賊」の精神寄生体マルガンセール人だの、人類とは全く違う形態で敵対するエイリアンがどこから発想されたのか、てのは興味深い。

*2:
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