金神290話「観音像」感想 ゴールデンカムイ
謎の観音さん……
函館山周辺には多くの観音像があったそうで。
* 三十三観音について – 函館市 湯川町のお寺 湯川寺(とうせんじ)
* 函館山三十三観音 石仏に会いに
* 境内案内 | 北海道函館市船見町の浄土宗寺院「称名寺」
時代によってあちこち移動されるようだけど。
しかしここで描かれてる観音像はどこにあるのかハッキリしない。
というか、この持物はなに……
擬宝珠に布がぶら下がってるようにも見えるし、蓮華にも見える、あるいは、男根にも見えるなあと思ってると、大砲の隠し場所っていう。
でっかい逸物を秘めてたわけですね。
ちなみに、「乱射乱撃雨霰」の語句。
日露戦争時に新聞が使い始めたフレーズなんだそうで。
これを、後にもじって、「感謝感激雨霰」というようになった。
あれ、鶴見、南口から突入しようとしたんじゃなくて?
ソフィアが東口にいて、そこの戦闘から続いて鶴見の絵があるのでわからなくなる……
先頭に立って軍刀と拳銃を振るう鯉登。
鯉登「私もお供することが出来たのに」*1
101話では斯様に言ってたので、本懐を遂げたことになるんでしょうか。
本来、将校の軍刀って指揮のためなんだけど。この部隊では鶴見に次ぐ二番手の階級。
実質、彼はこの部隊の旗手ってことになる。
あくまで鶴見は中尉、本来は小隊長クラスなので。旗手は聯隊(中佐の隷下)の所属。
鶴見「鯉登少尉が我々の旗手にふさわしいか信じてみようではないか」
の真意もよくわからない。
鶴見は、鯉登が自分への忠誠心が変容したことを気付いてる、盲目的な恋闕が失せてもっと一般的な、大義を同じくする指導者への忠誠心に変わったと知ってるわけで。
しかしそれを裏切りと見做してるとは思えない。
この鶴見は、我が子のような鯉登の成長――成人のイニシエーションに送り出す気分だろうか?
白石「どっちが勝つかね」
あくまで傍観者の態の白石。
そいうや杉元はどうしたんだ。
アシリパさん-土方組の中で、日露戦争の従軍経験あるの、杉元だけじゃん……ソフィアたちの中に兵士として出征したのもいるのかも知れないが。
尾形やヴァシリは帰還兵、鯉登は従軍してない。
今回の扉絵は、本誌連載第159話*2のリフレイン。
2枚並べるとアシリパさんと杉元が向き合うようになってるのがニクイ。
あるいは背中合わせにも並べられるけど、マンガのオヤクソクとして、左←右の順なので、159話の表紙が右に来るほうが正しいかな?
比べてみると興味深い。
共通してるのは、アシリパさん・杉元・白石の主人公チームに、尾形。それに鶴見と土方。この6人が大きな物語のメインキャラなんだなあ、と。
尾形の立ち位置は不明瞭だけど、贔屓としては、杉元を核としたアシリパさん・白石の主人公チームに、アンチテーゼ的な隠しキャラとして彼も入れたいところ。
彼に添えられた単語が「混沌」になっちゃったし。
「冷徹」だったらもうここにはいないはず。
でも。
なんで今回のアオリに「神威」とか「護国」が入ってくるのだ……*3
「神威」、元々は「シンイ」って読んで、神の絶対的な威光、人には抗えない神のチカラを意味するのに。
『ゴールデンカムイ』に「黄金神威」と当てるのはまだいいけど、単独で「神威」って書いてしまうと意味が変わってくるように思う。
この作品は何度も、「運命は変えられる!」とか、神に抗うことがテーマになってる。
(杉元たちも、鶴見のいう邪悪なカムイに抗って、黄金に辿り着いたわけで)
更に「護国」って。……誰のこと???
それぞれキャラたちが想定する「国」は違う。
鶴見は、「満州が実質的に日本であればお前たちの骨は日本の土に眠っているのだ」という。彼の目的は護国というより、ハッキリいえば中国東北部への侵略――少なくとも月島や鯉登はそう解釈して疑ってない。*4
それに土方だって。彼は元々、徳川幕府方の軍人だった。彼が忠誠を誓ってた徳川幕府はなくなったし、今の彼は、ウイルクの遺志や、ソフィアたち極東少数民族の自治区構想に賛同してる。
……この扉のメンバーの誰も、「国」を守ろうとしてないどころか、日本政府への反抗を意図してる……
ソフィアはロシアの反政府グループ*5。
強いて言うなら、「アイヌの土地」にこだわるアシリパさんってことになるけど、彼女はあくまでアイヌの民族としての存続のためにカムイの住まう土地が要るというだけで、もともとアイヌ文化で土地そのものに対する執着は、大和民族よりは薄かったはず。*6
じゃあ、未だに行動原理がわからない尾形か? 彼が真に中央政府のために動いてるのだとしたら、「護国」と言えるかもだが、……でもそれってなんかつまんないな。
なにはともあれ、今回のカラー扉、尾形が描かれてるだけで嬉しいんだけどね。
*1:
*2:→
これ無料公開分には含まれてないんだな。17巻の口絵のときは文字は入ってない。
*3:→2021/09/14 - min.t (ミント)
まあ扉の文字は、作者氏が書いたわけではないと思うけど。
*4:このへん、後に「満蒙は日本の生命線」とか言われたりするけど。一つにはロシアの長年の南下政策を食い止めるのと、マルサスの法則に従って日本の人口をそろそろ支えきれなくなってきた国内の食料生産を補うために植民地が必要とされたわけで。
*5:この世界ではボリシェヴィキはないことになってるようだけど
*6:基本的に。狩漁採集民は土地の利用権が重要で、土地そのものの所有の考えはないんだよね。農耕民は、農地を耕して収穫を得るまで時間掛るから、その土地自体を「自分の物」として占有しなければならないし、年度途中で収穫を得る前に死んだ場合に誰がその収穫物を相続するのかって権利を明確にするために、ファミリーネーム、氏姓の概念も出来た。